「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」とは
マンガ、アニメーション、ゲームおよびメディアアートに渡るメディア芸術分野において必要とされる連携共同事業等(新領域創出、調査研究等)について、分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により実施することで、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用・展開を図ることを目的として、平成27年度から開始された事業です。
*平成28年11月8日、中間報告会が国立新美術館にて行われました。
*平成29年2月26日、最終報告会が京都国際マンガミュージアムにて行われました。
*平成28年度の実施報告書はページ末のリンクよりご覧いただけます。

本事業は、「雑誌・単行本」と共にマンガの重要な「史資料」である「原画」を対象に、「京都国際マンガミュージアム」と「明治大学米沢嘉博記念図書館」、「北九州漫画ミュージアム」と「横手市増田まんが美術館」の4施設の連携により、失われつつあるマンガ原画の収集・整理・保存・活用およびその作業を行う人材の交流や育成を推し進めたものです。また原画が掲載された雑誌や単行本などを参照しながら、その価値付けを検討し、「原画」資料の総体把握にも着手しました。

●中間報告会レポート

報告者 京都精華大学 伊藤遊氏

昨年度の「関連施設の連携によるマンガ原画管理のための方法の確立と人材の育成」の成果を発展させるもので、「マンガ史資料(原画)の収集、整理、保存、活用に関する実践と研究」を柱に「マンガ『原画』に関する専門的知見を持つ人材を育成するための環境整備」も併せて目的とする。今年度から「史資料の価値付けに関する調査と研究」も目的に加わり、原画の保存や活用を先行して行っている京都国際マンガミュージアム・横手市増田まんが美術館・明治大学米沢嘉博記念図書館・北九州市漫画ミュージアムの4つの総合的マンガ資料館が、連携してこの三つに取り組んでいる。報告にあたっては京都精華大学の伊藤遊氏が登壇した。

本年度は「マンガ史資料(原画)の収集、整理、保存、活用に関する実践と研究」におけるマンガ原画管理の目標として(4館合わせて)5800枚の原画と原画の画像データを整理することが掲げられ、10月末の時点で原画整理が4施設合計で約3000枚完了している。作業対象となるのは「杉浦幸雄」「谷口ジロー」「矢口高雄」「能條純一」「三原順」「関谷ひさし」「陸奥A子」の7人の作家の原画である。完了した原画画像データの一部は「メディア芸術データベース」に移管し、「史資料の価値付けに関する調査と研究」の一環として情報共有を目指しているが、そうして移管した原画データが約600枚あるという。

作業進展の背景として語られたのは、「連携施設が昨年までの3館から4館に増えたことは大きな前進といえるでしょう。マンガ単行本の巻数ごとに整理された“物理的なモノとしての原画”と、その“原画の情報を入力したデータ”の蓄積が、現在の結果となって表れています。また昨年度と大きく異なるのは、展示や書籍掲載の際に必ず示される原画の“初出情報”の調査を新たに加えたこと。初出情報は原画の価値評価の重要な根拠となり、また原画の活用においても非常に重要です」。

「史資料の価値付けに関する調査と研究」においては現在、国内の原画の総体を把握するための総合的なアンケートを作成中で、マンガ家・出版社・コレクター・自治体等での原画所蔵状況や活用状況の調査を目的として、12月以降に実施するとのことであった。

また「マンガ『原画』に関する専門的知見を持つ人材を育成するための環境整備」については、整理作業によって担当者の知見やスキルが実践的に向上していることが指摘され、現在までにコーディネーターどうしの検討会や“Skype”を使った会議などの環境も整えられている。こうしたシステムにより人材育成において生じた課題を、4施設で共有しているという。

事業の進捗状況がこのように示された一方、生じた課題についても以下のように報告された。

「原画管理では使う画材が作家によって異なったり、連携各館での管理方法の共有が非常に難しいことがわかりました。またデータのバックアップをどのように行うか、クラウドサービスの将来的な利用も議論の対象になりましたが、今のところ一旦保留になっています。人材育成については“スキルを身に着けること”と“スキルを身に着けた人材であると社会的に証明すること”は別であると議論がなされ、マンガのような評価の定まっていない分野で人材を育成するには、“資格”の仕組みを構築していく必要性も指摘されました」。

今後は「マンガ史資料(原画)の収集、整理、保存、活用に関する実践と研究」においては原画と原画データの整理完了に向けて作業を進め、「マンガ『原画』に関する専門的知見を持つ人材を育成するための環境整備」では各施設の作業仕様や方法に関 するシンポジウムを1月に開催。「史資料の価値付けに関する調査と研究」では、アンケートによる調査結果発表のためのシンポジウム開催が予定されている。

報告が終了した後、主に以下のような質疑応答が企画委員との間で交わされた。

「原画の価値付けについてのアンケートは、どのような結果を見込んでいるのか?」

この質問に対して伊藤氏は「ほかで所蔵されている原画の分量や現状がどうなっているのか。また原画が整理された後、どのようにそれを活用したいか聞きたい」と回答した。

そして「原画の性質が作家によって異なるとは、具体的どういうことか?」という問いに対しては、「少女マンガと少年マンガでよく使われる画材が異なる傾向があったり、カラーインクは色が抜けやすかったりすると言われているが、そうした画材領域の研究がほとんど行われていなかったことが議題に挙がった」とのことであった。

●最終報告会レポート

報告者 京都精華大学 伊藤遊氏

本事業は、原画の保存や活用の先行事例を有し、なおかつ総合的なマンガ資料館の性格を持つ施設である、「京都国際マンガミュージアム」、「横手市増田まんが美術館」、「明治大学 米沢嘉博記念図書館」、「北九州市漫画ミュージアム」の連携により、近年その価値の見直しが急速に進んでいる、マンガ作品の原画の管理(収集、整理、保存、活用)の実践とその方法論の共有、およびそれを修得した人材の育成や交流を目的とした取り組みを行うものである。また、本年度はマンガ原画の現状に関する総合的な調査も行い、本事業の以下(1)〜(3)の3つの目的について具体的な活動の報告があった。

(1) 関連施設の連携によるマンガ原画管理の実践

本事業は、昨年度実施された同様の事業を発展させ引き継いだもので、今年度の重要なプラスアルファとして、連携施設が3館から4館に増え、実践データの母数の増加や、施設連携でできることが多くなったという。

マンガ原画は内容(年代、ジャンル)、画材、過去の保管状況によって、その管理の仕方や、保管準備にかける時間が大きく変わってくるため、こうした実験的事業では多種多様な原画のデータを集めることは非常に重要であり、連携施設が増えることは大きな前進であるとした。そこから事業の結果として、単行本の巻数ごとなどのように、判りやすく管理できる形に整理された、“物理的なモノとしての原画”と、その“原画の情報を入力したデータ”が蓄積されることになったのだという。

また各施設が、それぞれの管理基準において保管する原画データの一部の項目に関しては、「文化庁メディア芸術データベース」に移管することで、世界中で情報共有されることを目指しているが、各施設が原画を管理するために撮影あるいはスキャンした画像データ化したものは、現時点では、「文化庁メディア芸術データベース」などで一般公開される予定はまだないとのことである。

(2) マンガ原画の価値付けに関する調査と研究

本年度事業では新たに複数のプロダクションおよび出版社を対象にして、マンガ原画の所蔵状況や活用状況等を把握するためのインタビュー調査を実施したとし、ある大手出版社の編集部に対するインタビューで判ったこととして以下1.〜4.を紹介した。

1.編集・出版行程における原画の役割

出版社がマンガ家から原画を預かることは、出版行程がデジタル化された現在でも不可欠であるが、マンガ家が確認・加筆修正する場合や、作家から要望があった場合などには、作家に返却される。それ以外では原画は出版社が預かり続けるのが慣例であり、その主な理由は、マンガ原画は作家が手元で保管するには物量として多すぎること、人気作家を出版社同士が奪い合い、囲い込むような歴史的背景の名残りと見ることも出来る、とのことである。

2.編集・出版行程のデジタル化による変化

原画が果たす役割は、雑誌掲載から単行本にまとめる一連の編集・出版の行程では、写真製版が行われていた時代には、単行本用に再度原画を製版所へ託すこともあった。しかし現在は全てデジタルスキャニングとPC上の調整によって製版されていて、製版データは雑誌用を単行本用に流用している。写真製版時にはセリフを「写植」で原画に貼り付けていたが、デジタル製版時にデータ上ではめ込むことが基本となっているとのことである。

3.預かり原画の概要

預かった原画の管理は、その作家の担当編集者が行い、出版社の保管庫(空調等は通常のオフィス空間に準ずる)の他に、担当編集者の手元の収納スペースなども活用される。リストの作成や出納管理の方法も担当編集者毎に異なり、作家と連絡が取れず預かったままの過去の原画も相当数存在し、預かり原画の総数は判然としないということである。

原画の整頓は、雑誌入稿時の封筒を活用して行い、エピソード毎あるいは単行本の巻数毎に封筒にまとまっていて、社用の封筒に表題・誌名・号数などの記入欄を設けていて、担当個人が独自の工夫を施すことも多いそうだ。

マンガ原画に生ずる一般的な経年変化を逐次的に修復する措置は取らないが、再度のスキャニングが必要になるか、展覧会など外部に貸し出す場合に、必要に応じて対処しているとのことである。

4. 展示・収蔵施設との連携について

美術館やマンガミュージアムで展示するために原画を貸し出す場合の交渉窓口や原画の出納、原画の貸出・返却時の状態確認なども担当編集者が行っている。展覧会貸し出しでは、原画を1枚の絵としてではなく複数のページのつながりで読んで欲しいことと、セリフがデジタル処理され「吹き出し」が真っ白の場合の原画をストレスなく読むため巧い展示方法がないものだろうか、という希望があるそうだ。

公的施設・機関によるマンガ原画の大規模な保管システムが仮に実現した場合、出版社よりは、原画を手元で保管されている個人作家にはメリットがあるかもしれない、とのことである。ただし、収蔵する原画の取捨選択などで、作家・作品に対する権威付けや序列化をしてしまうのは好ましくないと懸念もあるようだ。

以上はあるベテラン編集者のインタビューの言葉であるが、調査員が多くのマンガ編集者やマンガ家から聞いてきた話と大差はないとのことである。

また所有権的に様々なタイプのマンガ原画が存在することも判り、調査したケースでは、あるマンガの原画は、原作者・実作者・出版社のどこが所蔵して管理すべきか判らず困っている、というケースもあったそうだ。

(3) マンガ原画に関する専門的知見をもつ、人材を育成するための環境整備

人材育成については、以下の課題の中で言及していた。

今後の課題

連携各館と共有した今後の課題とその対応について以下のように報告があった。

原画の管理作業では、原画の性質が作家により異なるため、管理方法の共通化が非常に難しいことが判った。ただし、事務的な部分(受け入れ処理、貸し出し伝票フォーマット、保険のかけ方など)に関しては共有することが可能な部分も多いので、共通する書類のサンプルを作成し、提案することが今後の課題のひとつとして挙げられるとのことである。

また、原画アーカイブは、書籍アーカイブとの連携によって、より豊かなものになることも共有され、実際にも、今年度の新たに行われた原画の初出調査は、書籍アーカイブの蓄積に大きく依っているということである。さらに、原画の保管を考えていく上では、「画材研究」が必要であることも確認されたという。

最後に「人材育成の課題として、スキルを身に付ける場を提供することと、そうしたスキルが身に付いた人材であることの証明は別の問題であるということが明らかになった。本事業の目的ではないが、後者の“資格”の仕組みをどのように構築していくかは、マンガのような、様々なレベルで評価の定まっていない分野においては、人材育成の重要なポイントであると考える」と報告を締めくくった。

質疑応答では、委員からの「杉浦幸雄先生の一コママンガの原画の初出は調査可能なのか?掲載誌はあったのか?」との質問に「これはアーカイブにとって大事な話で、杉浦先生ご本人が掲載誌を切り取ったスクラップブックを作られており、そこにある程度の掲載誌のメモを取られていた。諷刺マンガ家さんはそういったスクラップブックを結構作られていることが多いので、原画と共にそういった資料により初出掲載情報が判ることが多い。」と回答があった。

続いて、「報告書ではマンガ原画の保管は対象が5800万点ぐらいあり、1点600円ぐらい掛かると見積もられている。今後の方向として、ある程度援助を受けるとしても、施設運営の費用をどの程度に見積もるのか?」との質問には「編集者や作家と話す中で、原画のマーケット、売買市場を作ることについて話題となった。欧米ではマンガ原画を個人コレクターが購入するマーケットができていて、マーケットそのものがアーカイブになっている状況がある。原画を公的施設が収集するのではなく、ファンがオークションなどで購入し、オークションハウスが所有者を把握してファンと一緒に収集するようなことが行われているらしい。欧米と日本とでのマンガの社会的地位の違いもあり、まだ難しいとは思うが、既にギャラリーで原画を売る事に興味を持つ作家も出始めている。アーカイブには色々な形があると考えている。」と回答した。

【実施報告書PDF】

報告書表紙画像

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本報告は、文化庁の委託業務として、メディア芸術コンソーシアムJVが実施した平成28年度「メディア芸術連携促進事業」の成果をとりまとめたものです。報告書の内容の全部又は一部については、私的使用又は引用等著作権法上認められた行為として、適宜の方法により出所を明示することにより、引用・転載複製を行うことが出来ます。