第16回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞に選ばれた長編アニメーション作品について取り上げる。優秀賞に選ばれたのは『アシュラ』『おおかみこどもの雨めと雪』『グスコーブドリの伝記』の3作品。

『アシュラ』はジョージ秋山氏が1970年に発表した同名原作マンガのアニメ化。映画化を手がけたのは『TIGER&BUNNY』のさとうけいいち監督だ。本作が挑戦的だったのは、ジョージ秋山氏のキャラクターの3DCG化に挑み、一定の成功を収めている点。キャラクターの輪郭線に筆書きのようなニュアンスのある線を選ぶなど、3DCGによるアナログ感のある表現に迫り注目を集めた。物語の面でも、発表当時物議を醸した、飢餓による人肉食のシーンも、センセーショナルにならないよう配慮しつつも避けずに描き、作品の持つ今日的なテーマを浮き彫りにした。

『おおかみこどもの雨と雪』は、『サマーウォーズ』の細田守監督の最新作。おおかみおとこの末裔の子供を産んだ女性・花とその二人の子供の成長を描く内容で、エンターテインメント性を前面に出した前作とは異なり、日々の生活を丁寧に積み重ねていくタイプの映画となっている。それだけに時間の省略や言葉にならない感情の醸し方なと、細田氏の演出の巧みさにうならされる作品として仕上がっている。またそうした静かな映画にもかかわらず、興行収入40億円を越える大ヒットを記録した点はアニメーション・ビジネス的にも大きな出来事であった。

『グスコーブドリの伝記』は『銀河鉄道の夜』の映画化を手がけた杉井ギサブロー監督が、四半世紀を経て再び、宮沢賢治の原作に取り組んだ。原作を大胆に読解し、ブドリを現実にいながら、異界を幻視するキャラクターとして描き出したのが本作の最大の特徴。原作は一般的に「自己犠牲」をテーマとしていると受け止められがちだ。だが、杉井監督はそうした幻想性を導入することで、ラストシーンの組み立てを変え、「自己犠牲」の持つ危険な甘さを断固として排除している。その上で、宮沢賢治の持つ思想の本質へと、改めてにじり寄ろうとした作品だった。

2012年は例年以上に映画館でのアニメーション公開本数が多い年だった。シネコンの普及によるスクリーン数の増大という背景があるにせよ、それだけに映画館というメジャーな流通経路の中において、日本の長編アニメーションがバラエティに富んだ世界を作り上げていることが実感できる年だった。3DCGによる時代もの、現代を舞台にしたオリジナル作、哲学性を帯びた有名童話。ここで選ばれた3作品の題材を見るだけでも、そのことはわかるだろう。

第16回メディア芸術祭受賞作品(アニメーション部門)
http://j-mediaarts.jp/awards/gland_prize?locale=ja&section_id=3