情報処理学会(1960年設立)が毎月1回発行する学会誌『情報処理』の2013年2月号の特集は「ディジタルファブリケーション」だ。本学会誌は学会員以外でもAmazonなどで購入することができる。

特集は、三次元お絵かきソフト「Teddy」などを開発したことで知られる五十嵐健夫教授(東京大学大学院)が編集した。五十嵐氏によれば、「ディジタルファブリケーション」とは、レーザーカッターや3次元プリンターなどのラピッドプロトタイピング機器(迅速に試作品を制作できる機器)の普及、シミュレーションや3次元計測技術の進歩、ソーシャルネットワークやインターネット上のデータ流通基盤の成熟を背景に「(コンピュータ等)計算機を利用した新しい形状設計とモノづくり」のことをいう。

本学会誌では、「ディジタルファブリケーション」を支える技術と具体的な応用例に関する論考の他、パーソナルファブリケーション(個人的なモノづくり/工業の個人化)にかかわる知的財産権に関する動向など、計8本の論考が寄稿されている。

筆者が注目する論考は、「ディジタルファブリケーション」の建築分野における実践を紹介した竹中司氏(アンズスタジオ代表、豊橋技術科学大学研究員)による「建築におけるコンピューテショナルデザイン」と、ファブラボ・ジャパン設立者である田中浩也氏(慶応義塾大学SFC准教授)による知的財産権に関する論考「パーソナルファブリケーション時代におけるものづくりのオープンソース化の動向とFab Commonsの提案」である。

前者の論考では、竹中氏は「コンピューテショナルデザイン」を「手の仕事を超越したコンピュータならではのデザイン」と定義したうえで、ディジタルファブリケーションと結びつくことによって「コンピュータによる効率化を目指した時代がようやく終わりを告げ、コンピュータの能力を最大限に引き出したデザインの革命が起こりつつある」と述べる。また、プログラミング技術やデータ解析による建築デザインの実践を紹介しながら、リアルタイムにデータ解析やデザインが行われるような「インタラクティヴ・アーキテクチャ」「キネティック・アーキテクチャ」についても展望する。

後者の論考では、「パーソナルファブリケーション」における「オープン・ソースソフトウェア/ハードウェア」を背景にして、「つくる知識の民主化」ともいえる「オープン(ソース)デザイン」とそれを活用するにあたって求められる「ライセンスデザイン」の重要性について述べる。田中氏は「デザイン」と「オープンカルチャー」という言葉に含まれる多義的な意味について丁寧に考察しながら、主にモノの領域における個人的な生活用品(家具、衣服、料理など)の創造性について注目する。田中氏が提唱する「Fab Commons」は、CC/CC+ライセンスを「物質領域のモノづくり」に応用して、新たな創造のきっかけや連鎖/派生/改良を創出しようとするものである。本論考の最後では、江渡浩一郎氏(メディアアーティスト、ニコニコ研究会委員長、産業技術総合研究所研究員)の発言を引きながら「真似できない突出した創造性」の評価について問題提起する。高度な専門性や能力によって評価されてきた創造性とは異なる創造性の価値を考察していくうえでも、「ディジタルファブリケーション」「パーソナルファブリケーション」から抜け落ちやすい創造性についての議論が求められるだろう。

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情報処理学会学会誌『情報処理』2013年2月号別刷「《特集》ディジタルファブリケーション」を発刊