2014年10月31日から11月3日、新千歳空港にて、新千歳空港国際アニメーション映画祭2014が開催された。今回が第1回となる同映画祭は、以前のニュースでも取り上げたとおり、空港のターミナルビル内が会場となる世界的にも珍しい映画祭として大きな注目を集めていた。

メインとなる短編アニメーション作品のコンペティションでは、世界46の国と地域から応募があった715作品から45作品がコンペティション作品として選出され、オタワ国際アニメーション映画祭アーティスティック・ディレクターのクリス・ロビンソン氏、フランスを代表するアニメーション作家ジェレミー・クラパン氏、スタディストで音楽家の岸野雄一氏という計3名の国際審査員による審査のもと、賞金100万円のグランプリ、賞金50万円の日本グランプリをはじめとする各賞を競い合った。また、今回のコンペティションでは、国際審査員に加え、千歳市と苫小牧市からの応募で選ばれたこども審査員が選ぶ「キッズ賞」も設けられていたことも大きな特徴となっている。

コンペティション以外の特別上映では、各国際審査員がホストとなる上映プログラムなどを通じて優れた海外作品・作家を日本の観客に紹介されたのはもちろんのこと、音楽ライブ用の音響セッティングで映画を上映する爆音上映、日本国内の学生作品を対象としたICAF(インターカレッジ・アニメーション・フェスティバル)、奇妙でインパクトある作品をMC付きで上映する変態(メタモルフォーゼ)アニメーションナイトなど、海外からのゲストが多数来場する国際映画祭という場において、日本国内で話題を集めるローカルな上映形態を紹介するプログラミングも行われていた。

新千歳空港では、同映画祭以前にも、日本の商業アニメーション作品についてのイベントが積極的に開催されていた。また、札幌の会社クリプトン・フューチャー・メディアが展開するボーカロイド・ソフトウェア「初音ミク」も大々的にフィーチャーされていた。

今回の映画祭にあわせて同時開催された「ポップカルチャー・フェア」は、そういったこれまでの動きをフォローするものであり、『魔法少女まどか☆マギカ』をはじめとした商業作品のブース展示や声優を招いたトークイベント付き上映などが行われた。

コンペティション部門では、ポーランドの作品『ジーゲノート』(トマーシュ・ポパクル監督、2012年)がグランプリに選ばれた。ウッチ映画大学の卒業制作作品として作られたこの作品は、CGとドローイングを組み合わせ、漁村の少年の性の目覚めと生活の行き詰まりを描くものだ。これまで、オーバーハウゼン国際短編映画祭でのグランプリなど、アニメーション専門ではない映画祭で主に高い評価を受けてきた作品でもある。

国内グランプリには『パラダイス』(ひらのりょう監督、2014年)が選ばれた。『パラダイス』は、近未来の宇宙ステーションを主な舞台に、太平洋戦争に従軍する兵士や二万年前の猿人など複数の時代を錯綜させ、日航機123便墜落事故や東日本大震災といった戦後の大災害へのほのめかしも含め、日本人の受難と死の歴史を描き出すものである。

ひらの氏は、七尾旅人氏をはじめとするさまざまなミュージシャンのPVの制作やマンガの連載などを通じ、国内での人気の高い作家だったが、今回初めて、国際的な舞台でその作品が評価されることとなった。

新人賞はアメリカのショーン・バッケリュー監督の『アナザー』(2012年)。熊によって父親を殺された家族が、そのまま熊を家長として迎え入れるという奇妙な物語を語るこの作品は、観客の投票で選ばれる観客賞とのダブル受賞となった。

バッケリュー監督は、アメリカやイギリスの若手インディペンデント作家が中心となって結成したLate Night Work Clubへの参加や、著作権を扱う法律事務所の日常を精緻なドローイングで描き出すカリフォルニア芸術大学の修了制作『Hopkins & Delaney LLP』など、ウェブ上で大きな話題となる作品を手がけてきていたが、今回のダブル受賞によって、映画祭という場において初めて大きな栄誉を手にした。 

上記の主要三賞以外でも、家族向け作品として最も優れた作品に贈られる観光庁長官賞に『WONDER』(水江未来監督、2014年)が選ばれたことも注目に値する。難解と見なされがちな抽象アニメーションを家族向けのものとして捉えるという価値観を提起する意図が見えるからだ。また、水江監督にとっても、今回の受賞は大きなものだといえるだろう。水江監督はアヌシーをはじめとして海外での上映・受賞経験は豊富だが、今回の賞が日本国内での初めての受賞であるからだ。

今回の同映画祭は、総入場者数が上映と展示をあわせて延べ人数で30225人に達するなど、集客という面で大きな成果を上げた。それに加えて、以上の受賞リストからもわかるとおり、これまでのアニメーション映画祭の文脈が捉えきれなかった作品を取り込み、それによってアニメーション表現について新たな視野で考えるための新風を吹き込んだといえる。また、国内での作家の評価についても、新しい見取り図を作り上げたという意味で、大きな役割を果たしたといえるだろう。

新千歳空港国際アニメーション映画祭は、空港への集客という映画祭の目的を今回達成できたことから、2015年もまた同時期に開催することを発表している。

新千歳空港国際アニメーション映画祭2014公式ホームページ
http://airport-anifes.jp