Google Mapsで目的地などを示すあの赤いピンを巨大なスケールで現実空間に設置する《MAP》など、アラム・バートル氏(Aram Bartholl)はネット上で起こっている事象をリアルに持ち込む作品を多く制作している。そのアラム氏のプロジェクト《Dead Drops》のDVDドライブ版が、ニューヨークのMuseum of the Moving Imageに設置された。《Dead Drops》は誰でも使用できるUSBフラッシュメモリーを街中の壁に埋め込むなどして、オフラインで自由にデータ共有を行うものである。今回は、DVDドライブが美術館の外壁に埋め込まれているものであり、DVDドライブという装置の性質から「美術館→体験者」という一方向のデータ共有というやや制度的なものになっているが、データ流通のあり方に一石を投じる《Dead Drops》の意味は変わらない。

《Dead Drops》はネットとリアルにおけるデータ流通のあり方のズレを教えてくれる。ネットでは簡単にできるデータの受け渡しだが、現実空間ではUSBメモリーが埋め込まれているポイントまでパソコンをもって行かなければならないなどの苦労が生じる。しかしまた、ネットには技術的な規制や監視網が張られ始めているのに対して、《Dead Drops》は今のところその網に引っかかっていない。どちらが「自由」なデータの流れであるかを、ネットへの監視が厳しいアメリカやフランスという国で《Dead Drops》が多く利用されていることからも考えてみるべきであろう。

データ流通に関してもうひとつ興味深いのが、「Art.sy」というアート作品を紹介するサイトである。Art.syはアート作品をテーマや作風などの変数によって「遺伝子」のように分類するプロジェクト「The Art Genome Project」を行っており、そこで「サイバーカルチャー」が特集され「ネットアート」が取り上げられた。「Rhizome」などのニューメディア系のサイトもネットアートを紹介しているが、Art.syではリアルの作品とネットアートの作品が同列に扱われる。そのためネットアートの作品に詳しい人ほど、ネットアートを紹介する「画像」が、リアルな作品を撮影した「写真」のデータ画像とは異なり、ディスプレイの「スクリーンショット」であることに改めて気づくなど、今までにない体験をすることになるだろう。

アラム氏やArt.syの取り組みは、ネットとリアルを地続き的なものとして捉える想像力が生まれてきていることを示している。それはアラム氏らがネット上の膨大なデータの流れを日常の出来事として体験していることと関係しているであろう。ネットとリアルを「区別」するのではなく「同列」に扱う想像力のこれからに注目したい。

DVD Dead Drop

http://www.movingimage.us/exhibitions/2012/08/16/detail/dvd-dead-drop/

Featured Gene: Cyberculture

http://artsy.tumblr.com/post/29641628563/featured-gene-cyberculture