中学校を改修して作られたアート・スペース3331 Arts Chiyodaに、エネルギーについて考えるための「学校」が出現した。「ウーバーモルゲン クラフト|エネルギーの学校」と題された展覧会は、ウィーンとスイスを拠点にするリズ(Lizvlx)とハンス・ベルンハルト氏(Hans Bernhard)による二人組のアーティスト「ウーバーモルゲン(Ubermorgen.com)」が展開するクラフト・シリーズ(*「クラフト」はドイツ語で「力」や「力強さ」の意味)の新作展。教室をモチーフにして、南アフリカ共和国と日本で行ったエネルギーに関するアーティステック・リサーチの過程で得られた資料とそれに基づいて制作された映像、オブジェ、グラフィックスなどで構成されたインスタレーション作品。

入口から入って右手には学習机が並び、いくつかの机にはメモ帳やディスプレイが置かれている。その正面には、黒板の代わりに日本国内のエネルギー関連施設や東日本大震災の被災地などで撮影した画像を加工した映像がプロジェクションされている。また、壁には震災と福島での原発事故以降に起きたデモやエネルギーに関する議論から陰謀説まで、さまざまな影響を示す資料に加えて、HAARP(High Frequency Active Auroral Research Program、米国)、EISCAT(European Incoherent Scatter Scientific Association、ノルウェィほかをめぐる陰謀説を図示した世界地図や、電気技師で伝説的な発明家でもあるニコラ・テスラ(1856–1943、クロアチア)のイラストなどがユーモアと批判を交えて掲示されている。一方、左手のプレイルームのような空間の中央には、EISCATが公開する膨大なデータの束を触れられない紙の彫刻として展示し、そのデータがどのような研究目的で得られたものなのか、一般市民には理解しえないことを隠喩する。

エネルギーの学校」のウェブサイト(学校紹介を模したウェブサイト)によれば、本展示で用意されたような「教材」について触れつつ、「(本校は)『ニュースピーク(人々の思考を制限する新語法)』を教え、嘘と非真実を切り分けることに焦点を当て、『真実について考える』学生を歓迎する。(中略)古典的な情報を提供するのではなく、ニュー・メディア界で発見した自由な偽情報(disinformation)を調査する」と述べる。そして、ウーバーモルゲンは本展示を通して、「個々人がマスメディアも含むさまざまな情報に疑問や批判を投げかけることの重要さ」を訴える。

同展覧会の初日2012年11月10日には、現在開催中の「3331 TRANS ARTS」展と共同でジョイントトーク「“TRANS ARTS”とは何か Part.2 『Transするaction』」が開催された。リズ氏の他、「3331 TRANS ARTS」展出品アーティストから、江渡浩一郎氏(メディアアーティスト、ニコニコ研究会委員長、産業技術総合研究所研究員)と金森香氏(ドリフターズ・インターナショナル、シアタープロダクツ)が登壇し、四方幸子氏(「クラフト|エネルギーの学校」展キュレーター)がモデレーターをつとめた。それぞれの活動の簡単なプレゼンテーションの後、お互いの作品や活動についてディスカッションを行った。三者の活動スタイルは異なるものの、とりわけ新たな社会を模索しはじめた近年は、脱領域的な活動を通して個々人の創造性を小さな変革へつなげようとする共通点がみられた。そのキーワードとして、リズの「アーティステック・リサーチ」「メディア・アクショニズム」(*挑発的な傾向があると本人が述べた)、江渡氏の「野生の研究者」「ユーザー参加型」、金森氏の「実際的/実践的活動」「血のない革命」などがあった。四方氏はそのような活動の背景について、「社会の構造やシステムが行詰まっているなか、危機的意識を持った人々が何かアクションを起こさずにはいれない状況にあるのではないか」と指摘した。

「3331 TRANS ARTS」展と「ウーバーモルゲン クラフト|エネルギーの学校」展(共に2012年12月2日まで)の両展覧会を訪れた人々が、四方氏が今回提案した創造的なアクション「Trans-action(*「既存領域を逸脱するアクション」「アクション自体の変容」といった意味が込められている)」について考え、そこから何か新たなアクションが生まれることを期待したい。

「ウーバーモルゲン クラフト|エネルギーの学校」展
http://www.3331.jp/schedule/001696.html