今年で2回目になる「メディアアート月間 デジタルショック2013──デジタル・テリトリー」が、2013年2月9日から3月3日までアンスティチュ・フランセ東京をはじめ日本各地の関連機関や映画館、ギャラリーなどで開催中だ。プログラムの一つである「ビデオ・アートの50周年レ・ザンスタン・ビデオ」では、1988年からフランスで開催しているビデオ・アートとマルチメディアの国際フェスティバル「レ・ザンスタン・ビデオ(Les Instants Vidéo)」(2004年からマルセイユに拠点を移動)と共同で、展示、上映、シンポジウムを行っている。

2013年2月19日には「アート・ビデオの50年(1963−2013年)」と題して、1970年代から近年までに制作された日仏のビデオ・アート上映とシンポジウムが行われた。1963年が50年の起点とされているのは、ナム・ジュン・パイクが1961年にフルクサスの創始者であるジョージ・マチューナス(George Maciunas、1931−1978年、米)に出会って以降、ヴォルフ・ホステル(Wolf Vostell、1932–1998年、独)とのコラボレーションが展開されたことや、1963年に「フルクサス・フェスティバル(Festum Fluxorum Fluxus)」(デュッセルドルフ州立美術アカデミー、デュッセルドルフ)へ参加したこと、パイクによるビデオ・アートの初個展「音楽の展覧会──エレクトロニック・テレビジョン(Exposition of Music: Electronic Television)」(ギャラリー・パルナス、ブッパタール)が開催されたことなどに起因する。

上映会では、マーク・メルシエ氏(Marc Mercier、「レ・ザンスタン・ビデオ」のアーティスティック・ディレクター)と阪本裕文氏(映像研究家)がそれぞれ各国のビデオ・アートのプログラムを担当した。フランスからは、ウィリアム・エッグマン《ドッグ・デュエット》(1975年)とその作品へのオマージュ(YouTubeで展開されるようなパロディ的な演出も想起させる)ともいえるパスカル・リエーベル《ドッグ・デュエット》(2009年)や、ミッシェル・ジャヌフレー、パトリック・プスケ《ビデオ・フラッシュ》(1982年)など計6作品が上映された。

日本からは、マイケル・ゴールドバーグ氏(Michael Goldberg、1945年−、カナダ)が企画に携わった、日本初の大規模なビデオ・アートの展覧会とされる「第1回 ビデオ・コミュニケーション──Do It Yourself Kit」(ソニービル、1972年)で発表された作品をはじめ、1970年代のビデオ・アート創始期に重要なグループであった「ビデオひろば」や「ビデオアース東京」、1980年代にビデオ・アートの主要拠点であった「ビデオギャラリーSCAN」をめぐる人々の作品を通じて、多様な文脈を内包するビデオ・アート史から主要な技法や社会運動的側面を抽出して駆け足で振り返った。また、その延長として河合政之《スペクタクルの社会における神学的状況について》(2001年 *本作品は瀧健太郎氏が選定)とゴールドバーグ氏による3.11以降の被災地での活動などを加え計9作品が上映された。

上映後、メルシエ氏、ゴールドバーグ氏、阪本氏、瀧氏、中嶋興氏によるシンポジウムが行われた。まず、メルシエ氏、阪本氏、瀧氏が上映作品について説明し、ゴールドバーグ氏が示した「ビデオ・アートはまだ存在しているのか」という問いを起点にして、ビデオ・アートの定義や社会背景の変遷について過去と現在を往来しながら議論は展開した。

会場から河合氏が「あくまでも社会へ問題提起することがアーティストの姿勢であり、答えを出すことに無力なのではないか」と発言したことを受けるように、メルシエ氏がいわゆる商業映画監督とビデオ・アーティストを比較しながら、ビデオ・アートは「開かれた(社会的/個人的な)疑問の場」と「時間と空間の新しい関係」を創出したことを指摘した。また、メルシエ氏は、ジャン・ジュネ(Jean Genet、1910–1986年、仏)に指南されSONYポーター・パックを手に取り社会運動を展開したキャロル・ルッソプロス(Carole Roussopoulos、1945–2009年、仏)とその影響について語った。彼女がアルジェリアでブラックパンサー党員にビデオを教えたことや、フランスで行ったビデオのワークショップにジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard、1930–、仏)が参加していたエピソードなども披露された。

瀧氏の「(1970年代)当時、ビデオという新しいテクノロジーにアーティストが巻き込まれたのではないか」という疑問に呼応するように、中嶋氏は、ビデオの即時性に反して「(ビデオ作品)を寝かす必要があることを学んだ」と語った。映画、写真、ビデオを使って半世紀近く作品を発表してきた中嶋氏が至った、ビデオ・アートを「時間をどのように漬物にするか」というアイデアは、過去のビデオ・アート再評価と現在のビデオ作品のビジョンの一つを牽引しうるだろう。

なお、「レ・ザンスタン・ビデオ 2013」は、東京を皮切りに、リエージュ(ベルギー)、アレクサンドリア(エジプト)、エルサレム、ラーマッラー/ガザ(パレスチナ自治区)で展開し、最後に本拠地のマルセイユで2013年11月7日から30日まで開催予定。

メディアアート月間 デジタルショック2013 シンポジウム「アート・ビデオの50年(1963−2013年)」

http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/lesinstantsvideo-table-ronde/