「ファミリーコンピュータ」(1983年7月15日発売)、「スーパーファミコン」(1990年11月21日発売)をミニチュアサイズでリバイバルした「ニンテンドークラシックミニ」シリーズがゲーム業界に投じた一石とは?

ファミコン版に続いてSFC版も登場

任天堂は2017年10月5日に「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」(クラシックミニ/SFC)を発売した。未発表のゲームソフト『スターフォックス2』を含む21本のゲームソフトが本体に内蔵され、テレビなどに接続すると、すぐにゲームが楽しめるという、手のひらサイズのテレビゲーム玩具だ。2016年11月10日に発売された「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」(クラシックミニ/ファミコン)と同コンセプトで、シリーズ第2段となる。

発売以来、品薄感が続く「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」(写真は任天堂HPより)

同社はまた、それまで生産が停止されていた「クラシックミニ/ファミコン」について、2018年に生産を再開すると発表した。「クラシックミニ/SFC」も同様で、2018年以降も市場に並ぶ予定だ。

もともと「クラシックミニ/ファミコン」は生産台数を限定して販売されたため、インターネット上ではプレミア価格で売買が行われていた。生産再開のアナウンスが行われた後も高値安定が続き、2017年10月末現在では、共に1万円強で売買されている。定価は「クラシックミニ/ファミコン」が5980円、「クラシックミニ/SFC」が7980円(共に税別)のため、3〜4割増しで売買されている形だ。もっとも、生産台数の増加に伴い、こうした状況も徐々に沈静化していくと推測される。

2016年の隠れたヒット商品になった「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」(写真は任天堂HPより)

ともあれ、「クラシックミニ/ファミコン」「クラシックミニ/SFC」の発売と、それに伴う一連のプレミア価格現象は、2016年から2017年のゲーム業界で、ちょっとしたエポックメイキングだった。ここ数年で家庭用ゲームからモバイルゲームにすっかり移行した国内市場で、「ゲームソフト交換」機能を排除したレトロゲーム機がこれだけの人気を集めるとは、誰も想定できなかったからだ。任天堂は卓越した製品開発でマーケティング、すなわち「新たに市場を創り出す」ことに長けた企業であり、その手腕がここでも遺憾なく発揮されたことになる。

肥大化するゲームに対する批評

本製品はゲーム業界において2つの問題提起を行った。第一に「ゲームの商品価値とは何か」という点である。「クラシックミニ/ファミコン」「クラシックミニ/SFC」に収録されたゲーム群は、2017年現在の家庭用ゲーム機のクオリティから比べれば、非常にチープなものである。そうした製品がプレミア価格で売買されるという現象は、大作化・高付加価値化が進む現代のゲーム業界において、痛烈な批評になったといえるだろう。

本製品をハードウェア面から分析すると、SoC(System-on-a-Chip、複数の機能を持つ半導体を1つにまとめたもの。ここではCPUとGPUに相当)にAllwinner Technology製のR16を採用し、その上でLinuxベースのOS上で実行させている。その上でファミコン/SFCのエミュレーターを介して、ゲームソフトを実行させるという構成だ。このようにハードウェア面からみれば、本製品はオリジナルのファミコンやSFCの面影はない。ソフトウェアによるエミュレーションで当時に似た体験を創り出しているというわけだ(これにより、セーブ機能の拡充をはじめ、さまざまな機能追加も行われている)。にもかかわらず、大勢の消費者に支持されていることから、テレビゲームのアーカイブに一石を投じたともいえる。

両製品とスペック的に近しく、エミュレーターを走らせることもできる「Raspberry Pi」(写真は3 model B)
写真提供:Raspberry Pi

このことはまた、かつてのファミコンキッズが年齢を重ね、ゲームが二世代・三世代にわたって楽しまれるコンテンツにまで成熟してきたこと、テレビゲーム機がインターネット接続機能を備え、デジタル家電としての性質を深める中で、電源を入れるだけですぐに遊べる玩具としての手軽さを求めるニーズが少なくないこと、そしてゲームの本質的なおもしろさが、「クラシックミニ/ファミコン」「クラシックミニ/SFC」に収録されたゲーム群に凝縮されており、それらが音楽業界でいう「エバーグリーン」、すなわち色あせない魅力を備えていることが証明されたともいえるだろう。

テレビの周辺機器としてのゲーム機

その上で本製品にはテレビゲームの原点回帰ともいえる、もう一つの隠れた文脈が存在する。それが「テレビの周辺機器としてのテレビゲーム機」だ。というのも、本製品にはテレビゲーム機であれば必須となる「ACアダプタ」が標準搭載されていないからだ。

これまでテレビゲーム機といえば、テレビとは別にACアダプタで家庭のコンセントから電源を供給し、動作させるのが常識だった。しかし「クラシックミニ/ファミコン」「クラシックミニ/SFC」では共に、USB端子を経由して家庭のテレビから電源を供給することが想定されており、ACアダプタは別売りとなる。実際、近年の薄型テレビには映像・音声端子であるHDMI端子に加えて、多くの製品でUSB端子が搭載されている。これを遊びに転用するという大胆な発想が行われたわけだ。

このことから本製品は「テレビに『ゲーム』という新しいチャンネルを増やす製品」、すなわちテレビに寄生し、新たな付加価値を加えるという性質を兼ね備えていることがわかる。そして、このことはまさにテレビゲーム機が先祖返りをしたことを意味している。というのも、テレビゲームの第一号機はまさに「つまらない番組を見たくない時に楽しめる」、すなわちテレビにテレビゲームという新たなチャンネルを追加することが開発コンセプトだったからだ。

つまらない番組を見ないですむ方法

ここで改めてテレビゲームの歴史を紐解くと、家庭のテレビに接続して楽しむ玩具という文脈でのテレビゲーム機は、1966年にラルフ・ベアが発明した「ブラウンボックス」に遡れる(1962年にMITの学生だったスティーブ・ラッセルが「スペースウォー!」を開発しているが、これはミニコン上で動作するもので、家庭のテレビで遊べるものではなかった)。ドイツ系アメリカ人でエンジニアだったベアは開発時に「テレビで見たくもない番組に対応するにはどうしたらいいか。テレビをゲームに使えばよい」というメモを残しており(註1)、このことからもベアが上記の意図をもって製品開発にあたったことがわかる。

左) 世界初の「テレビゲーム機」となった「ブラウンボックス」(撮影:筆者)
右)「ブラウンボックス」をベースに発売された「オデッセイ」(撮影:筆者)

その後、「ブラウンボックス」は「オデッセイ」と名前を変え、1972年に家電メーカーのマグナボックスから「家庭のテレビに接続して遊べる第1号のゲーム機」として発売される。当時マグナボックスをはじめとした家電メーカーはカラーテレビの世帯普及が一段落したところで、ポスト「カラーテレビ」になり得る商材を探していた。その一つがビデオデッキであり、もう一つがテレビゲーム機だった。当時の家電メーカーは「テレビの付加価値を高める商材」を探していたのだ。

もっとも「オデッセイ」は消費者の「マグナボックス社のテレビでなければ遊べない」という誤解もあり、1974年に生産を終了してしまう。しかし、1975年にアタリから業務用ゲームのヒット作を移植した家庭用ゲーム機「ホーム・ポン」が発売され、ヒット商品になると、家電メーカー各社から家庭用ゲーム機がこぞって発売され、一大ブームを巻き起こすことになる。

このように世界で初めてテレビゲーム市場を創出したアメリカでは、家電メーカー主導でテレビゲーム機の生産・販売が行われた。当時、テレビゲーム機は現在のようなHDMI端子ではなく、テレビのアンテナ端子(RF端子)に直接映像信号を送信していた。つまりテレビゲーム機は映像と音声を実際のテレビ放送と同じ形式の映像信号に変換してテレビに送信する必要があり、この点でも家電メーカーは有利だったのだ(これに対して日本ではエポック社をはじめとした玩具メーカーが、当時電卓市場で半導体需要が高まっていた電機メーカーと二人三脚で、テレビゲーム機市場を開拓していくことになる)。

このように歴史を紐解くと、テレビゲーム機とは本来「テレビの付加価値を高める」ために発明された、テレビの周辺機器であることがわかる。電源供給をテレビに依存することを前提とした「クラシックミニ/ファミコン」「クラシックミニ/SFC」は、改めてこのコンセプトを現代に甦らせた製品であるといえるだろう。

実際、ファミコンが社会現象を巻き起こした1980年代後半は、ゲームを遊ぶ時にプレイヤーがテレビの選局ダイヤルを「1」または「2」チャンネルにあわせる必要があった。子ども達は、まさに「新しいチャンネルが増えた」感覚を味わっていたのだ。もちろん「クラシックミニ/ファミコン」「クラシックミニ/SFC」ではこうした選局をする必要はない(もっとも、信号入力にHDMI端子を選択する必要はある)。しかし、同製品を遊んでいると、こうした思いが自然と沸き上がってくるのだ。


(脚注)
*1
https://ja.wikipedia.org/wiki/オデッセイ_(ゲーム機)
※註のURLは2017年10月25日にリンクを確認済み


(作品情報)
「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」
本体サイズ:高さ40.5mm×幅110mm×奥行き133mm
コントローラーサイズ:高さ25.7mm×幅144mm×奥行き63.3mm
コントローラーケーブル:長さ約1.4m
入出力端子:HDMI端子、USB端子 (micro-B)、コントローラーコネクター
映像出力:720p,480p
音声出力:HDMI端子からのリニアPCM2Ch出力
https://www.nintendo.co.jp/clvs/index.html

「ニンテンドークラシックミニファミコン」
本体サイズ:高さ50.45mm×幅108.12mm×奥行き142.47mm(本体にコントローラーをセットした状態)
入出力端子:HDMI端子、USB端子 (micro-B)
映像出力:720p,480p
音声出力:HDMI端子からのリニアPCM2Ch出力
https://www.nintendo.co.jp/clv/index.html#nohd