2003年に設立されたファッションブランド、アンリアレイジ(ANREALAGE)の展覧会が2017年11月に東京にて開催された。(図1)会場では、先端的なテクノロジーをファッションに持ち込んだアンリアレイジの世界観が、クリエイターの共演によって表現された。

図1 会場入口

服を通して気づきを与える

「光が消えてもその影が消えないように。」
「現実を跳ね返し、新しい現実をつくる。」(註1

デザイナー・森永邦彦率いるアンリアレイジは、「服を通じて、日常(A REAL)と非日常(UN REAL)への気づきを同時に喚起する」というテーマに取り組むブランドである。その特徴的な手法には、繊細なパッチワークを駆使したものや人間の体の形とは違う形の曲線を描いたものなどがあるが、特に知られているのは先端的なテクノロジーを駆使したものだろう。これまで誰も見たことがないような表現を、服という媒体を通して提案し続けている。
しかし、本展覧会で見えてきたのは、その革新的かつ野心的な方法だけではなく、服作りに対する真摯な姿勢であった。

光と影、音が導くアンリアレイジの世界

照明が暗く落とされた展示室内には、サカナクションの山口一郎とNFの青山翔太郎による「音時計」をコンセプトにした楽曲が流れている。これはコレクションで使用された楽曲を再構成したもので、視覚だけではなく聴覚からもブランドの世界観に没入できるようになっていた。山口と青山はブランドのコレクションショーのサウンドも手がけており、二人が手掛けるサウンドはブランドが探求する表現への理解を支える基盤のひとつとなっている。

展示は2014年、パリコレクションデビュー以降のコレクションを中心としたもので、その多くはテクノロジーを服に落とし込んだものである。例えば、光に反応して発色する「フォトクロミック色素」を使用して、光と影の形を描き出す試みや(図2、3)、白い服に紫外光をあてることで色や柄が現れる服(図4、5)などだ。これらの展示の中でも印象的なのは、ライゾマティクスリサーチによる「REFLECTOR DRESS」だろう。(図6、7)ストロボの光を当てることによって、白い服に色や柄を反射により映し出すドレス。カメラとフラッシュが制御されたスマートフォンが並び、それらが一斉に光を放った直後に撮影を行うというインスタレーションである。スマートフォン上に記録された服と、肉眼でそのときに見られる服を見比べると、前者では光が当たったことで鮮やかな柄が映っているが、後者の服は徐々に白に戻る。
これらのように、人の目では見られないものを、光と影を駆使することによって可視化するという試みが随所に見られ、鑑賞者たちは実際にその光と影を体験することによってブランドの挑戦に触れることができるのだ。
一方で、展覧会会期中最新であった2018年春夏コレクション「POWER」では、力が加わることによって発光するという衣服を提示した。(図8)これは人間が実際に着用し、動かなければ機能しないものである。「服」という媒体を改めて解釈した好例といえるのではないだろうか。

2016年春夏コレクション「REFLECT」のパリでのショーを再解釈した映像ルームでは、山口と青山によるバイノーラルサウンドを特別なヘッドフォンを使用して体感することができた。これは実際のショーでも用いられたもので、ヘッドフォンから流れるサウンドは、自分の近くや遠くで実際に音が反射して鳴っているかのように、立体的に聞こえる。前述した光を反射させることによって柄が現れるドレスを発表したこのショーにおいて「REFLECT」というテーマを表すにあたって必要不可欠なものであった。

図2・3 「フォトクロミック色素」を使用した服
図4・5 紫外線を当てた時(左)と当てていない時(右)
図6・7 REFLECTOR DRESS
図8 2018年春夏コレクション「POWER」

アンリアレイジが拓くファッションの可能性

また、展示室内ではテレビ番組「ファッション通信」で取り上げられたアンリアレイジのコレクションや森永のインタビュー映像などを見ることができた。その番組の中で、スタイリストである山口壮大はアンリアレイジというブランドについて「希望」であると語った。これまで誰も見たことがない表現を、服という媒体を通して提示するこのブランドを表す言葉ともいえるだろう。展覧会会場出口の壁にはぎっしりと並べられた森永の言葉の中には、以下のような一文があった。

「ファッションに対する意識が芽生えていない人にファッションの面白さを気づかせることは、ファッションを掘り下げることと同様に大事。」

ここから、森永の服作りへの探求心を見ることができるだろう。ブランド設立15年を迎え、今後彼がどのような服を提示してくれるのか、未来への期待を抱かせる展覧会であった。


(脚注)

*1
会場内で配布された会場マップより引用。同様の文言は展示室内キャプションにも記載されていた。


(開催情報)
ANREALAGE EXHIBITION “A LIGHT UN LIGHT”
会期:2017年11月9日(木)~26日(日)10:00~21:00
※11月26日(日)は18:00まで
会場:PARCO MUSEUM(池袋PARCO・本館7F)
入場料:一般500円、学生400円、小学生以下無料
主催:パルコ
インタラクションデザイン:ライゾマティクスリサーチ
サウンドディレクション:山口一郎(sakanaction/NF)/青山翔太郎(NF)
アートディレクション:武藤将也(NO DESIGN)
http://www.parco-art.com/web/museum/exhibition.php?id=1168