熊本県合志市に2017年7月にオープンした「合志(こうし)マンガミュージアム」。地域密着型のマンガミュージアムとして新たな試みを模索している。開館から半年を迎え、すでに入館者数は年間入館者数の目標であった1万5,000人を突破した。今回、ここに至るまでの経緯や館の特色について館長 橋本博氏に聞いた。

左:合志マンガミュージアム外観
右:館長橋本博氏(提供:橋本博)

合志マンガミュージアム設立までの経緯を教えてください。

もともと1985年から熊本市内でマンガ専門の古書店「キララ文庫」を営んでいました。古書を中心にマンガを収集していたのですが、それらを保管する場所が足りず、もっと公的な施設として図書館のようなものを開けたらいいなと考えていました。2010年に熊本近代文学館(現 くまもと文学・歴史館)で行なったマンガの企画展の関連イベントにおいて、私がマンガミュージアムを県内に5年以内につくると宣言しました。そこに集まった人々とマンガミュージアム設立の気運が高まり、「熊本マンガミュージアムプロジェクト(クママン)」(https://www.kuma-man.com/)というNPOを2010年に立ち上げました。そのクママンが合志マンガミュージアムの設立の基礎になっています。

マンガミュージアムが熊本市ではなく合志市に設立するに至ったのはなぜですか。

2010年に行なったマンガイベントに参加された人の中に偶然、合志市の幹部職員がおり、イベント後にキララ文庫の書庫見学や、合志市の施設をマンガの収蔵場所として提供していただくなど、ミュージアム設立以前から前向きに働きかけてもらいました。そもそも、合志市は荒木義行市長の公約としてアニメ・マンガを活かしたまちづくりを進めており、初音ミクが「合志市音頭」を踊る動画の制作・公開を市が公式に認めたり(2011)、近年では郷土歴史マンガ『カタルパの樹~合志義塾ものがたり~』の発刊(2014)や、合志市クリエイター塾の開講(2015〜)をしたりするなどの取り組みを行なってきました。ちょうどその頃、合志市が合併前から所有していた合志歴史資料館と西合志郷土資料館を、来館者の減少から資料館を一本化し、残った施設を有効活用する案が浮上しました。その結果、西合志郷土資料館は合志歴史資料館へ統合され、旧西合志郷土資料館の施設を合志マンガミュージアムとして改修することになりました。また、市内には書店がないのでミュージアムのオープンは住民からは大変歓迎されました。上記のような条件が重なり、発案から5年というスピードでの開館に至りました。

合志マンガミュージアムの館内の構成を教えてください。

「マンガを読もう!観よう!!学ぼう!!!」をテーマとして、館内を構成しています。メインとなるのは、書棚と「キューブ」と呼ばれる立方体の建築物によって成り立つ「キューブゾーン」です。キューブゾーンでは、1960年代から10年刻みで棚を作り、その中で作家の50音順にマンガを並べています。開架にしてあるマンガの数は1万5,000冊が限界なので、3カ月単位で入れ替えるようにしています。他館では手に触れることのできない、1960〜70年代の貴重なマンガを閲覧可能にし、実際に手に取って読むことができるのが大きな特色です。残りの7万冊は書庫にあります。ここでは、熊本の木材を使用し極力金具なしで造られた立方体「キューブ」に座っていろんな体勢でマンガを読むことができます。このキューブは展示スペースにもなるユニークな構造で、崇城大学の西郷正浩准教授に設計していただきました。そのほか、入り口には入館料が無料の「フリーゾーン」があります。ここでは飲食が可能で、他館にはほとんどないコンビニ本を充実させています。

左:キューブゾーン
中央:賑わいをみせる館内
右:飲食可能なフリーゾーン
(すべて撮影:クママン)

所蔵されているマンガ(書庫蔵も含め)はどのようなものですか。

内訳としては圧倒的に1980〜90年代の単行本が多く、少女マンガや女性マンガの割合も高いです。キララ文庫の古書コレクションをもとにしているため、2000年代以降の本が不足していますが、週1回程度は寄贈があり新しい資料が増えています。現在開架はしていませんが、日本のマンガの英訳本も1割程度あります。そのほか、1940~50年代の赤本や紙芝居もガラスケースに入れて触れられない形で展示しています。

「合志マンガ義塾」や「マンガ体験ワークショップ」など、さまざまなイベントを開催されていますが、これまで反響の大きかったものはどんなイベントですか。

マンガ家のトークショーとサイン会は大好評でした。主に合志市や熊本にゆかりのあるマンガ家を呼んでいます。熊本在住のマンガ家が指導するお絵かき教室や、外国人の講師による合志マンガ義塾も参加者が多かったです。ただ通常の合志マンガ義塾は宣伝不足とテーマが専門的過ぎて参加者は4、5人に留まりました。そのほか、西合志図書館とのコラボイベント「秋の夜の図書館探検隊」や、実際のマンガ作画道具を使う「つけペン体験教室」なども開催しています。

左:貴重な過去のマンガ誌や貸本はガラスケースの中へ
右:合志マンガ義塾の様子
(すべて撮影:クママン)

その他のマンガミュージアムと比べた際の合志マンガミュージアムの位置付けとは。

私たちは合志マンガミュージアムを「第3のマンガミュージアム」として位置付けています。「第1のマンガミュージアム」とは、宝塚市立手塚治虫記念館(兵庫県宝塚市)のようにマンガ家個人を顕彰する施設として20年程前から建設されるようになったものを言い、「第2のマンガミュージアム」とは主に京都国際マンガミュージアム(京都府京都市)に代表されるような2000年代半ば頃から設立されるようになった大規模な施設を指します。合志マンガミュージアムはそのどちらにも属さない地域密着に主眼を置くミュージアムであり、小規模でありながら個人のマンガ家だけではなく幅広いマンガを取り扱い、アーカイブ機能も兼ね備えた施設です。設立や運営にそれほど莫大な費用やスタッフが掛からないことから、小規模な地方都市と相性がよく、すでにいくつかの自治体からノウハウを知りたいという声もいただいています。

入館者数や住民の反応は。

当初、年間入館者数の目標を1万5,000人としていましたが、2017年10月の時点で約1万6,000人を超え、開館から約3カ月で年間目標を超えました。11月頃までは新規の入館者が多く、それ以後はリピーターが中心になっています。合志市からの入館者が約半数を占め、それ以外は近隣の菊陽町や熊本市から。県外からの入館者も土日にいらっしゃるようです。隣に西合志図書館があるので、公園で休憩取りながら図書館とミュージアムを行き来する親子連れも見受けられます。入館者の内訳は、小学生以下が無料のため、約半数が小学生で、高齢者も15%ほどを占めます。高齢者には昔のマンガが読めるのが好評ですが、逆に小学生には最近のマンガがあまりないのでやや不評のようです(笑)。

地域における合志マンガミュージアムの役割をどのように考えていますか。

合志マンガミュージアムを通して、世代間の交流が促進できればと考えています。家族で訪れ、親や祖父母が昔読んでいたマンガを子どもに教えるなど、3世代の交流が可能です。また、地域の小・中学校の見学や遠足、課外学習なども積極的に受け入れて、図書館や美術館になじみのない子どもにも、マンガをきっかけにして公的施設を利用する機会を提供できればと考えています。

これからの展望をお聞かせください。

「地域に愛されるミュージアム」と「全国規模のマンガアーカイブの拠点」という2つの軸があります。前者は、地域密着型のミュージアムとして、まず市内の学校図書館、公民館、温泉施設などに合志マンガミュージアムの出張所を拡大します。図書館や公的施設との連携事業や、学校の総合学習の拠点としても活用しやすい施設となることを目指します。さらに、熊本県内にマンガカフェやマンガミュージアムを設立して、横のつながりを広げることも考えられます。マンガのイベントだけでなく、県内で行われる農業や福祉、観光関連のイベントに絡めていく方向性もすでに検討しています。
後者については、京都国際マンガミュージアムや明治大学 米沢嘉博記念図書館(東京都千代田区)を始めとした他のマンガミュージアムと連携し、他館でスペース的に受け入れられなくなったマンガを収蔵する大規模なアーカイブを設立することです。そのために県内のマンガ関連のコースをもつ大学との連携も視野に入れています。ここを拠点として日本や海外とマンガアーカイブのネットワークをつくることも可能です。すでに、クママンの活動としてブラジルへ1,800冊のマンガを送るプロジェクトや、海外のマンガ展への出展協力なども行なっています。合志マンガミュージアムの試みは、すでにマンガで町おこしに関心のある複数の自治体から関心を持たれています。この先駆的な地域密着型マンガミュージアムの試みは、地域活性化のモデルケースとして提示していくことができると考えています。


(information)
合志マンガミュージアム
熊本県合志市御代志1661番地271
電話・Fax:096-273-6766
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月曜(祝日の場合は翌平日)、毎月末日(土・日・祝を除く)、年末年始
※展示替え等による臨時休館あり
入場料:大人・大学生300円、中学・高校生100円、小学生以下無料
※「フリーゾーン」は無料
https://ja-jp.facebook.com/koshimanga/