2018年1月26日から28日まで、ギネスブックにも認定された世界最大のゲームハッカソン「Global Game Jam(GGJ)2018」が開催された。GGJは2009年に初開催され、10回目を迎える本年度は、全世界で42,800人が参加。世界108カ国・地域で803会場が設立され、期間内に8,606本のゲームが制作された。日本では北海道から沖縄まで21会場が設立され、583人が参加し、120本のゲームが制作された。

開発風景(食事を取る時間もそこそこに、集中して開発を続ける)

主要会場参加者

東京工科大学会場(東京都八王子市)
ビサイド会場(東京都立川市)
福島会場(福島県郡山市)
京都精華町会場
鹿児島会場(鹿児島県鹿児島市)

ゲームジャムはキャリアもスキルも多彩な参加者が一堂に会し、30~48時間といった短期間のもと、同一テーマでゲームを開発して公開する、ゲーム業界におけるハッカソン(ハック+マラソンの意味の造語)の総称だ。ゲームではプログラマー・アーティスト・ゲームデザイナーなど多彩な職種が存在し、ジャズのジャムセッションのように創造性を働かして開発を行うことから、ゲームジャムと言われている。

ゲームジャムは2000年代に入り、大規模化が進むゲーム開発の潮流に対し、少人数で実験的なゲームを開発しようという、ゲーム開発者コミュニティによる草の根の活動から広まった。当時、そうした草の根ゲームジャムのひとつに、デンマークで2006年から始まったNordic Game Jamがあり、そのノウハウをもとに、国際ゲーム開発者協会(IGDA)の教育専門部会が主催することで、GGJが誕生。急速に全世界に広まった。

GGJは例年、基調講演ビデオの公開とテーマ発表でスタートする。時差の関係でニュージーランドの会場からスタートし、オーストラリア、日本・・・と順次続いていく形だ。ビデオは翻訳ボランティアによって字幕がつけられ、各会場の運営責任者に共有される。その後、会場責任者がプロジェクターなどで会場ごとに上映する仕組みだ。全世界で開場式が終了するとYouTubeで公開され、テーマについても解禁となる。

本年度はインディゲームの金字塔『風ノ旅ビト』の開発にも参加し、現在は独立して新作VRゲーム『LUNA』を準備中のロビン・ハニッケと、ベルリンで開催されるゲーム開発者会議「A MAZE.」の発起人として知られるトーステン・ウィデマンが基調講演をつとめた。テーマは「TRANSMISSION」で、送信・伝達などの意味。第10回大会にふさわしく、過去から未来への繋がりを感じさせる内容となった。

企画発表からα版、β版、そして完成まで

GGJは2泊3日(48時間)の短期間で、ゲーム開発で起きるさまざまな要素が凝縮して体験できる点が魅力だ。運営の子細は会場責任者に一任されるが、通常は企画発表→α版発表→β版発表→最終発表の流れで進行する。ここではNPO法人IGDA日本によって国内会場の連携配信拠点が設置されたビサイド会場の4チームのゲームを紹介する。なお、配信内容はTwitchのIGDA日本公式チャネルで視聴できる。

https://www.twitch.tv/igda_japan/videos/all

左:企画発表
右:開発風景(ホワイトボードを使ってアイディア出し)
左:β版発表
右:最終発表

一般的なハッカソンでは企画発表→中間発表→最終発表の流れで進むが、ゲームジャムでは実際のゲーム開発プロセスに即して、α版(開発初期に制作者が使い方を評価するためのテスト版)とβ版(完成前にユーザーに評価してもらうためのテスト版)の発表を組み込むことが多い。α版はゲームメカニクスが実装され、一通り通して遊べる段階。β版ではすべてのデータが実装され、最終調整やデバッグが行われるバージョンを示している。なかにはα版とβ版の間に見学者などを呼び、ユーザーテストを実施する場合も見られる。

ビサイド会場で制作された4タイトル

①我の命令…最高じゃろ?

無茶な王様の命令によって、失われたMEMを探す旅に出ることになった主人公。横スクロールアクションゲームで、障害物を乗り越えながら進んでいく。「王様からスマホで伝達された命令を実行する」という設定のもと、スタート地点から離れるにつれて、キー操作とジャンプの間にタイムラグが発生し、操作が難しくなっていく点がミソ。何メートル進んだかがスコアとなり、プレイヤー間で距離が競える。

②Red Shift

主人公は異星人で、ゲームの目的は障害物やブラックホールなどを避けながら、地球までマイクロウェーブを到達させること。タイトルのRed Shiftとはドップラー効果に伴い、光のスペクトルが赤方偏移する現象を指しており、ゲーム中でもマイクロ波の長さに伴って色が青から赤に変化する。テーマの「TRANSMISSION」を詩的に解釈した、ビジュアル志向の美しいゲームとなった。

③Information BREAK

送信機からロボットにアクションタイルをぶつけて動きを伝達し、ロボットをゴールまで到達させる時間を競うゲーム。スマートフォンでの操作を前提としており、画面をフリックしてタイルを飛ばしていく。タイルはロボットだけでなく、障害物のブロックも動かせる点がミソ。グラフィッカーの参加で、ロボットがチョコマカと画面上を歩き回る、かわいらしいゲームになった。

④動物郵便

動物 を操作して他のプレイヤーよりも配達物を早く届けるアニマル・レースゲーム。選択できる動物は山羊・ネコ・鳩・ペンギンで、画面分割により4人で対戦プレイが楽しめる。順位が遅れれば遅れるほど、郵便物がビリビリに破れてしまうギミックつきだ。現実にはあり得ないダイナミックなコースレイアウトで、ドタバタぶりが楽しい。プレイにはゲームコントローラーが4台必要だ。

Information BREAKに見るイテレーション

前述のようにゲームジャムでは短時間でゲーム開発のすべてが凝縮して体験できる。その思いを強くしたのが『Information BREAK』の調整プロセスだ。β版ではアクションタイルを無数に発射できたが、「アクションタイルを選ぶ」→「発信器で狙う」という2つの操作を同時に行うことが難しく、たくさんのアクションタイルを発射して、偶然にロボットに命中することを期待するゲームになっていた。

β版のUI(User Interface)。アクションタイルをロボットに「狙って」当てることができない。

しかし、完成版では画面左下に3枚のアクションタイルをプリセットする枠が設けられていた。このようにUIを改良することで、「アクションタイルを選ぶ」行為と「狙う」行為が分離できた。その結果、コンセプトの「アクションタイルをロボットに当てて誘導する」というゲーム体験が、より的確にユーザーに対して提供できるようになったのだ。β版からの飛躍ぶりに改めて驚かされた。

完成版のUI。3枚のアクションタイルを事前にセットしてから発射する形式にしたことで、ロボットを狙えるようになった。

このようにゲームは最後の一工夫で、同じ内容でも劇的におもしろくなったり、つまらなくなったりする。いわゆる「UI/UX(User Experience)」における改善事例の好例だと言える。こうしたゲーム開発の神髄がGGJ2018で間近に見られたことで、改めてゲームジャムの持つ奥深さが感じられた。今やGGJ以外にも、さまざまなゲームジャムが全国で開催されている。ゲーム開発について知る、絶好の機会だと言えるだろう。


(information)
Global Game Jam(GGJ)2018
会期:2018年1月26日(金)〜28日(日)
会場:全世界で701会場、日本では26会場
参加料:無料
主催:国際非営利団体Global Game Jam