概要
本事業では、平成27年・28年度に京都精華大学主体で実施された「施設連携によるマンガ雑誌・単行本の共同保管と人材育成環境の整備」で得られた知見を引き継ぎ、下記の3つの目的を軸に、国内外の連携機関による、マンガ単行本等資料の連携型アーカイブの構築及び人材育成環境の整備に向けた準備事業を行う。
1)マンガ単行本等資料の連携型アーカイブの構築
2)マンガ単行本等資料の国内連携型アーカイブ普及に向けた取り組み
3)マンガ雑誌・単行本等の取り扱いに習熟した国内外における人材の育成
具体的には、明治大学が所蔵する20,000冊の未整理マンガ資料を熊本共同倉庫(熊本マンガミュージアムプロジェクト主管)に移送し、正本・複本の分別を行う。正本は明治大学米沢嘉博記念図書館所蔵資料として目録を整備し、複本は海外(中国、ブラジル)の連携先へ移送する。また、正複分別・目録整備作業で得た知識をマニュアル化する。
中間報告
報告者:日本アスペクトコア株式会社 文教支援ソリューション営業部 小林真理
現在、熊本共同倉庫での正・複分別作業は81%、海外への移送作業は中国分が13%、ブラジル分が3%発送準備を完了している。正本・複本選別作業は順調に推移しているが、正本データ作成が遅延しており、それに伴い、正本返送作業も進捗していない。
また、海外連携先への移送に適さない青年マンガ(国、地域によっては不適切な性表現や暴力描写を含んだもの)が多数、複本に含まれていることが判明した。その対応策として、海外の連携先に「移送候補タイトルリスト」を提出し、移送に適した資料かどうかの判断を依頼した。
小林真理
最終報告
報告者:日本アスペクトコア株式会社 文教支援ソリューション営業部 武中典子
1. マンガ単行本等資料の連携型アーカイブの構築
明治大学が所蔵する未整理資料約20,000点を熊本共同倉庫に移送した。未整理資料は正本と複本に仕分け、正本は米沢嘉博記念図書館の仕様に沿ってデータを作成、複本は北京大学内のマンガ図書館閲覧室、ブラジル・サンパウロとコロンビア・メデジンにある日本文化を幅広く紹介・教育する6施設に移送した。正・複本仕分けの結果、複本数が想定値よりも少なく、海外への移送数が不足したことに加え、抽出された複本の中には性描写・暴力描写などを含む資料もあり、移送可能な資料が更に減少した。対策として、熊本マンガミュージアムプロジェクトが所蔵する複本の一部を活用すること、未整理資料以外の明治大学所蔵の複本を利用すること、移送タイトルも移送先に確認の上、選定することが挙げられた。
2. マンガ資料の国内連携型アーカイブ普及に向けた取り組み
一般公開型シンポジウム「マンガ文化の保存拠点計画」を11月23日(木・祝)に明治大学駿河台キャンパス グローバルフロントで開催した。関係団体のみならず、同人誌・商業誌・アニメーション・ゲームなど、現在のマンガ文化を取り巻く幅広い企業・団体各所から参加したパネリストが議論を行い、マンガ文化が抱える「保存」に関わる課題と、それを解決するための「連携型アーカイブ」「人材育成」の必要性についての共有を行った。シンポジウムの参加者は200名を超え、立ち見者が出るほどの盛況となった。連携先の京都国際マンガミュージアムや北九州市漫画ミュージアムなどは公共施設のため、税金でマンガのアーカイブ化を継続する意義を、一人でも多くの市民に理解してもらう必要がある。今回のシンポジウムで「市民との理念共有」を図ることができた。
3. マンガ雑誌・単行本の取り扱いに習熟した国内外における人材の育成
国内連携先では、熊本共同倉庫での正本登録(明治大学所蔵目録データ作成)の実作業を通して、米沢嘉博記念図書館の登録ルールおよびノウハウを連携館で共有できた。
海外連携先の北京大学では、当初の予定を変更し、国内連携先への視察、海外連携先との実務者会議を国内の各連携先で実施した。会議では、学生ボランティアに頼っている運用状況のなかでの人材育成とノウハウ継承、本事業で移送した資料の整理・保存方法、利用者の目的資料の誘導・提供手段など、複数の課題が認められた。
また、サンパウロおよびメデジンの窓口である明治大学の中林教授に、連携先の熊本共同倉庫・合志マンガミュージアムの視察を通し、連携型アーカイブ構築のための理念・あり方と、現状について確認した。今後の課題としては、各施設と日本の教育窓口の整備・確立、サンパウロおよびメデジンの各施設連携による相互の人材育成体制の整備、今回移送した資料の利活用に向けた整理基準の検討が挙げられる。
4. 今後の方向性
1)海外での活用も視野に入れた、「所蔵目録作成」のための統一化されたデータベース(=メディア芸術データベース)の更なる活用
2)海外連携先との継続的な関係構築と連携方法のあり方の検討、整理保存スキルやノウハウ継承のための具体的な方策
3)収容量が限界に近づいている熊本共同倉庫の複本プール先としての機能強化と、新たな共同倉庫の模索
武中典子
※敬称略