2016年の「ここから アート・デザイン・障害を考える3日間」の第2弾として「ここから2ー障害・感覚・共生を考える8日間」が国立新美術館で開催された。今回は障害のある人が制作した作品に加え、文化庁メディア芸術祭の受賞作品を中心にマンガ、アニメーション、ゲームやメディアアート等も紹介され、障害だけでなく、身体や感覚について観客に問いかける広がりのある展示がされた。会期に先駆けて開かれた内覧会から、展示構成をレポートする。

パート1の展示風景。壁面の人形は大川誠の作品

表現することは生きること

パート1「ここからはじめる~生きる・つくる・アートの原点に触れる~」では、しっかりとした線とカラフルな色遣いでぎっしりと描く横溝さやか、ケンジが描くとぼけた表情の覆面レスラーの周囲に、カズヒサが意味深なテクストを書き加えるマスカラ・コントラ・マスカラなど、10作家の創作活動が展示された。表現活動が生きることと等しいようなその姿勢は、見る者を強く刺激する。絵画に加え、刺繍や人形や写真などのさまざまなジャンルの作品が集まっていた。

横溝 さやか《TOKYO》

メディア芸術を通してあらためて身体を考える

パート2「ここからひろがる~身体感覚をゆさぶるメディア芸術~」では、文化庁メディア芸術祭受賞作品を中心に、メディア芸術分野から、身体感覚に関わる作品が展示された。
いがらしみきおのマンガ『誰でもないところからの眺め』(2014-2015、太田出版)には身体が思うように動かず、言いたいこともうまく言葉にできない認知症に見られる症状が描かれる。意志でコントロールできない身体は自分の身体と言えるのか。この問いは、つきつめれば「私とは何か」という問題提起をはらんでいる。
吉本浩二の『淋しいのはアンタだけじゃない』(2016-2017、小学館)は、福祉関係の大学出身の作者が聴覚障害について取材して描かれたドキュメンタリーマンガだ。難聴、聴覚障害の人たちの状況・症状を、写植の変形加工で描くなど、マンガならではの表現を駆使して伝える。
アニメーション作品では、謎の病棟で投薬実験を受け、被験者がキメラへと変身してしまう様子を独自の視点で描いた、久野遥子の『Airy Me』(2013)などが展示されていた。
また、マンガ作品は実際に手に取って読めるよう「マンガライブラリー」も設置された。

マンガ作品の展示。原画や、デジタルデータを出力したパネルなどが並ぶ。
左:いがらしみきお『誰もいないところからの眺め』展示パネル
右:吉本浩二『淋しいのはアンタだけじゃない』展示パネル

メディアアートの分野でも、他人の感覚を疑似体験できる作品が展示されていた。父親が失読症になったことをきっかけに研究・開発された島影圭佑の『OTON GLASS』(2017)はメガネ型のデバイスで、ボタンを押すと内蔵カメラで捉えた文字を音声として読み上げてくれる。文字が読みにくい人、弱視の人や、日本語が読めない人など、読みをサポートする必要がある人々に向けた作品だ。今回の展示では、来館者が「low vision(弱視)」の状態を再現した『OTON GLASS』を掛けて、音声による視覚情報のサポートがどのようなものになるのかを実際に体験できるようになっていた。

『OTON GLASS』の説明をする島影圭祐
うしお『Where are you?』(2016)。色ではなく、片面にだけ刻まれた凹凸で自分と相手の駒を判別してゲームを進める
Ryo Kishi『ObOrO』。送風機からの空気によって浮かぶ光の球を、自由に手で触れて動きや触感を楽しむことができる

体感することで感覚や感性を共有

パート3「ここからつながる~みんなでつくる!あわプロジェクト~」では、来館者が自身の身体を使って、さまざまな色に輝く映像の「あわ」をつくることができる。年齢や障害を問わず、だれでも楽しく参加できるプロジェクトとして、この展示のために制作された。参加者同士がつくるさまざまな色と大きさの「あわ」が壁面に投影され、ギャラリーの大きな空間を彩った。
また特別展示「ここからTOUCH」として、文化庁長官で金工作家の宮田亮平の作品と、文化庁が所蔵する青木野枝、黒川弘毅、多和圭三の彫刻作品に触れて鑑賞する展示も行われた。具体的なモチーフを表現したものから抽象的な形のものまで、金属でも鉄、ブロンズ、アルミニウムと素材も多様な4作品が集まった。通常、美術館の展示で作品に触れることは制限されることが多いが、この特別展示の試みでは、視覚を介さない新鮮な鑑賞体験が得られた。つるつるとしている、ザラザラしているなどの質感ばかりでなく、重量感までも感じられ、手が認知する情報量の多さ、多様さに圧倒される。
特別展示としてはさらに、日本財団パラリンピックサポートセンターの協力のもと、パラスポーツを扱うグラフィックマガジン「GO Journal」のコーナーがあった。「GO Journal」監修の写真家・蜷川実花らによる写真が展示され、躍動感あふれるパラアスリートたちの姿を観ることができた。

作品との対話をきっかけに自分の身体感覚が揺さぶられる作品が多く集まる本展は、障害のあるなしに関わらず、これからの社会の形や生き方について考える契機となるものであった。

左:みんなでつくる!あわプロジェクト
右:宮田亮平『シュプリンゲン 躍―2』

(information)
ここから2-障害・感覚・共生を考える8日間
会期:2018年3月17日(土)~25日(日)10:00~18:00、3月20日(火)休館 3月17日(土)23日(金)24日(土)は20:00まで
会場:国立新美術館 企画展示室2E
入場:無料
主催:文化庁
共催:国立新美術館
制作:アート ・ベンチャー・オフィス ショウ
http://www.kokokara-ten.jp