ゲームエンジン「Unity」を日本で展開するユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは2018年5月7日~9日、東京国際フォーラムでゲーム開発者会議「Unite Tokyo 2018」を開催した。会議では全65セッションが実施され、のべ約6,000名が来場。ゲーム・映像・医療・建築など、さまざまな領域に広がるUnityの活用事例や、開発の知見などについて議論が行われた。本稿ではその中から、教育関連セッションについてレポートする。

会場には教育関係者を中心に多くの聴講者がつめかけた

Unity認定インストラクター制度

デンマークに本社を構えるユニティ・テクノロジーズによって、2005年にMac OS X向けのゲーム開発ツールとして誕生したUnity。その後、マルチプラットフォーム対応を筆頭に数々のバージョンアップが行われ、今では世界で最大規模のユーザー数を誇るゲームエンジンに成長している。採用事例もゲームに留まらず、映像制作、学術研究、医療・建築向けビジュアライゼーションなど、さまざまな分野に広がりを見せている。
その一方で隠れた課題になっているのが、Unityエンジニアの人材不足だ。こうした声に応えて同社では、さまざまな教育コンテンツを設けている。その一環として、新たに開始されるのが「Unity認定インストラクター制度(UCI)」だ。同社エデュケーションアカウントマネージャの石井勇一氏は「英語圏で先行していたが、このたび日本でも正式にサービスが開始できることになった」と語った(関連資料)。

エデュケーションアカウントマネージャー 石井勇一氏

日本では多くの場合、Unityの教育は専門学校や大学などの教育機関で行われている。その一方で世界的に見れば、企業研修などでUnityを教えるインストラクターや、ゲーム開発を教える私塾なども存在する。もともとUnityは「ゲーム開発の民主化」を旗印に、個人や独立系ゲーム開発者の支持によって成長してきた経緯があり、一口に指導者といっても多彩な広がりを見せている点が特徴だ。
こうした背景から本制度も教育機関や組織ではなく、「個人」を対象としている。石井氏は「Unityに対する深い知識とインストラクターとしての指導力を兼ね備えた、コミュニティリーダーとなる人を認定する制度」と解説した。認定を受けるとオンラインによるインストラクター研修や、トレーナー向けのオンラインセミナーなどが受講できるだけでなく、認定者同士のコミュニティにも参加できる。
現在、UCIには教員向けの「Academic」と、企業研修や私塾などで教える「Commercial or Corporate Training」の2種類が存在する。希望者はUnityの知識と教育者としての資質の両方を既存の認定試験などで証明後、同社との契約などを経て認定される仕組みだ。石井氏は「既存の教育コンテンツとの整合性や、日本の教育制度の実情も踏まえつつ、今後も内容を改善していきたい」と語り、来場者に参加を呼びかけていた。

遊びのデザイン講座

前述のように同社ではさまざまなUnity向け教育コンテンツを提供しているが、プログラマー向けかCGエンジニア向けに偏っており、ゲームデザイナー向けのものは世界的に見ても少ない。こうした中、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン独自の試みとして行われているのが、「あそびのデザイン講座」だ。Unityでゲームデザインを教えるための教員向け資料で、全15回が予定されており、現在6回まで無償公開されている。(関連資料

ゲームデザイナー 安原広和氏

本資料を制作しているのは、2018年4月から東京工科大学メディア学部で特任准教授も務める安原広和氏だ。安原氏はセガ・エンタープライズ(現セガゲームス)で『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』などの開発に携わり、昨年から同社の教育事業に参画している人物。安原氏は「Unityのアセットを組み合わせても、それだけではおもしろいゲームにならない」とコメント。壇上でピンボールゲームの制作をテーマに、第11回までの見通しについて語った。
また、「あそび」と「ゲーム」の違いについて、「プレイヤー」「ストレス」「定量化」「ごほうび」の4要素を提示。「ボールをリフティングするあそび」も、「ボールを落としたらゲームオーバー」「リフティングの回数がスコア」「一定スコアを記録したらごほうび」といった具合に、それぞれの要素を加えていくことで「ゲーム(=プレイヤーがコンピュータを相手に遊ぶもの)」になると解説した。
その上で、こうした思考実験もUnityを使えば簡単に確認できると説明。フィールドをキャラクターが自由に移動できる状態から、「障害物の設定(=ストレス)」「ゴールとタイムの設定(=定量化)」「スコアアイテムの設定(=ごほうび)」などと、各々の要素を加えたUnityのデモを動画で紹介。このように授業を組み立て、実際に演習させることで、ゲームデザインについての理解が深められるとした。

Unityを教える−−教育現場でのUnity活用−−

Unityの教育事例について、教員からの実践報告も行われた。登壇者は子ども向けにIT×ものづくり教室を展開するLITALICOの加藤智紀氏、専門学校デジタルアーツ仙台の志村淳氏と、日本工学院専門学校の荒川巧也氏。そして東京大学で客員研究員もつとめるユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの簗瀬洋平氏だ。実際に使用されているデモやシラバスが公開されるなど、実践的な内容となった。(関連資料

左から日本工学院専門学校 荒川巧也也氏、デジタルアーツ仙台 志村淳氏、LITALICO 加藤智紀氏、ユニティ 簗瀬洋平氏

はじめに登壇した加藤氏は、LITALICOワンダーで展開中のゲーム&アプリプログラミングコースのカリキュラムについて説明した。同社では都内で10教室を運営中で、受講者数は幼稚園児から高校生まで2,200名を数える。一人ひとりの個性を生かしたカリキュラム設計が特徴で、Unityに限らず、ScratchやEnchant.jsなど多彩な環境を用意。4日間のツール研修をはじめ、スタッフ育成も同時に進めているという。
続いて登壇した志村氏は、仙台市が主催する小中学生向けのセミナーで実施している、Unityを用いたゲーム開発者の職業体験教室について紹介した。志村氏はボールを転がしてアイテムを集める早さを競えるだけでなく、参加者が自由にステージレイアウトを変更できるデモをUnityで制作。80分間のワークショップで子どもたちに実践させるうえで、わかりやすく、失敗しにくく、応用が利く教材づくりのコツについて説明した。
3番目に登壇した荒川氏は、4年制のゲーム専門学校で2年次からUnityの各機能やコンポーネントの役割について教育していると説明。「授業で習った知識がすぐにコンテンツ制作で活かせる」ことを意識して授業づくりを行っていると語った。またUnityの最大の強みとして、Web上に情報がたくさんあることを指摘。授業でもUnityの公式チュートリアル「Survival Shouter」を活用しているとあかした。
最後に登壇した簗瀬氏は大学におけるUnity活用状況の現状について説明した。簗瀬氏は工学系でインタラクティブデモの実装のため、Unityが使える学生を求める研究室が増加していると説明。自身も研究に関わった『無限回廊 – Unlimited Corridor』で、VRデモの実装は学生が担当したと説明した。そのうえで先輩から後輩への知識伝授サイクルをつくるなどして、学生が自主的にUnityを勉強させる環境をつくることが重要だとした。

ユニティ・テクノロジーズの教育関係担当者

Unite Tokyo 2018では同社の教育事業について、日本だけでなく海外からも担当者を招いてメディア向けインタビューが行われた。文科省が進めるプログラミング教育との関連性について問われると、簗瀬氏は同社が展開するUnityインターハイなどの例も挙げつつ「大学で必要だから高校で、中学で……といった具合に、上から浸透させていきたい」と説明。並行して学生や生徒だけでなく、教員の意識改革も求められると述べた。


(information)
Unite Tokyo 2018
会期:2018年5月7日(月)~9日(水)
会場:東京国際フォーラム
入場料:早割・3DAYS(一般)19,900円、早割・3DAYS(学生)4,900円、3DAYS(一般)19,900円、3DAYS(学生)9,900円
※Unity認定エキスパート合格者は無料
主催:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン