「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」とは

マンガ、アニメーション、ゲームおよびメディアアートに渡るメディア芸術分野において必要とされる連携共同事業等(新領域創出、調査研究等)について、分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により実施することで、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用・展開を図ることを目的として、平成27年度から開始される事業です。

*平成27年12月1日中間報告会が国立新美術館にて行われました。
*平成28年3月13日最終報告会が京都国際マンガミュージアムにて行われました。
*平成27年度の実施報告書はページ末のリンクよりご覧いただけます。

●「日本のメディアアート文化史構築のための基礎研究調査事業」
愛知県立芸術大学

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 テレビ、ラジオやコンピュータ、インターネットといった電子メディアを使う表現を指す「メディアアート」について、「技術史、教育研究史、美術史を含む包括的なメディアアート文化史を構築するための基礎研究調査」を目指すこの事業は、「メディアアート文化史におけるキーパーソンへのインタビューによる調査」を実施すると共に、「メディアアート文化史関連人物の教育関連のデータベース化と、そのマップ化」も目的に含まれている。

●中間報告会レポート

 報告を行った愛知県立芸術大学・非常勤研究員の高橋裕行氏は「このような事業を始めた背景として、日本のメディアアートは教育、研究、制作、発表が行われてきたにも関わらず、その内容に関しての認知度が低い」と指摘。そして「メディアアートの基本的な定義は情報技術を活用した芸術表現全般を指しており、多岐にわたる専門分野が交錯した状態になっている」と続けた。メディアアートの分野に関しては、美術館のような拠点となるものが十分に整備されているとは言えない状況であり、「関連資料をベースに、背景となる技術史、教育研究史、美術史を含む、メディアアート文化史の構築を前提とした基礎研究調査を行うのが本事業である」という。

 また2003年に活動を開始し、ネットとリアルを連携するようなデザイン手法を確立してきた「セミトランスペアレント・デザイン(Semitransparent Design)」との連携がこの事業の特徴であり、データマップのインターフェースのデザインを担当しているとのことであった。

 さらに事業目的の一つであるインタビューについては、メディアアーティストや研究者、アーティストたちの中から選んだキーパーソンらのうち、すでに藤幡正樹(メディアアーティスト)、原島博(東京大学名誉教授)、伊藤俊治(東京藝術大学教授)、草原真知子(早稲田大学教授)の4名が終了。「メディアアート文化史関連人物の教育関連のデータベース化とそのマップ化」を目的としたデータ構築事業についても、同様に選んだ108人(12月1日現在)の教育機関に関連する来歴をグーグル・スプレッドシートに入力し始めているとのことで、ここからデータを読み取って、メディアアート文化史の中で人物の教育研究機関での関連性を見て取れるようなインターフェースのデザインが検討されているという。

 ただキーパーソン一人につき二時間のインタビューを実施していることから、そのテキスト化に時間が取られてしまうことが課題として挙げられると共に、教育機関をベースとしたタイムラインの構築にあたって、技術動向や展覧会の記録などをどの程度詳細に記載するのかといったことも考えなければいけないとのことである。

 最後の締めくくりとして、高橋氏は以下のように語った。

 「もう一つ、日本のメディアアートの歴史を知りたい方がいらした時に、どういう領域や分野、機関などがあるのかわかる図を、メディアアート文化史の詳細化したビジュアライズ・データマップとして完成させたいと考えています」。

 報告後、データが「いろいろな形で可視化された分、マンガなどでも使ってみたいと思いました」と感想を述べた企画委員が、続いてインタビューする際の重点項目は何かと質問。これに対する高橋氏の答は「基本的にはその方がメディアアートに対してどう関わってきたのかということと、それからその方が関係している教育機関がどのように設立され、運営されたてきたかということ」というものだった。

●最終報告会レポート

報告者 愛知県立芸術大学 高橋裕行氏

 本事業の目的と主旨について、「技術史、教育研究史、美術史を含む、包括的な日本のメディアアート文化史を構築するための基礎研究調査である」と述べられた。そして、事業実施の背景として、「科学技術や情報デザイン、エンターテインメントとの接点など、メディアアートを構成するフィールドの多様性」「先端機材へのアクセシビリティに関する、教育研究機関の重要な役割」「基礎的な学術資料の不足という現状」「美術館や学会などの整備不足」を挙げられた。

 実施体制としては、2003年から活動を開始し、ネットとリアルを連携するデザイン手法を確立してきた「セミトランスペアレント・デザイン(Semitransparent Design)」と連携し、データマップインターフェイスデザインを依頼した。

 実施内容は、インタビュー事業と調査研究事業の2点がある。

1)インタビュー事業では、メディアアーティストや研究者で、メディアアートの教育研究機関と関係が深い人物7名に対して、インタビューを実施した。聞き取りのポイントは、自身の教育環境、メディアアートへの志向が生じたターニングポイント、新しい教育研究機関の立ち上げの経緯、その後の展開と現状について、である。

2)調査研究事業では、「メディア文化史関係図時系列表示インターフェイス」の設計と構築を行った。インタビューの情報整理とともに、キーパーソンを軸にした文献・論文、教育関係機関の資料、展覧会カタログ、メディア芸術祭の資料などを参照し、メディアアートの教育研究機関の活動を分析した。元のデータはグーグル・スプレッドシートに入力されており、項目数は、人物145名、教育機関121件を入力した。このインターフェイスでは、「人物」「大学」といった項目ごとに時系列を表示して見ることが可能であり、さらに情報を圧縮させた表示も可能である。例えば、インタビュー対象者のデータのみ抜き出して見ることができたり、メディアアートの黎明期から現在までの時間軸を圧縮させることで、2000年前後に多くのメディア系の大学が設立されて人材が輩出されたことがビジュアルに展望できる。総括としては、メディアアートの人材育成と創作の場としての教育研究機関を対象にして、メディアアートに関する人物の来歴を重ね、ウェブインターフェースとして実装していくことで、メディアアート文化史の可視化を行なった。

講評・質疑応答

 企画委員からの「メディアアートの技術史ではなく、文化史の構築であることを評価したい。メディアアートは「アート&テクノロジー」と思われがちだが、重要なのはコンセプトである。また、メディアアート作品の形式は多様だが、人物を軸にすることで、コンセプトや視線の一貫性が分かり、その意味でも人物を軸にすることと文化史の構築は密接に関係している。今後は、データベースをなるべく一般公開して、メディアアートの文化史の重要性を社会に発信してほしい。」に対し、「本事業では教育研究機関に重点を置いたが、今後は、展覧会や作品、技術史を接続させることで、メディアアートの領域の全体像がより見えてくるのではないかと思う。また、一般公開にあたっては、校閲が必要である。今回のインタビュー対象者には校閲していただいたが、公開時に正確性をどう担保するのかは今後の課題だと思う。」と応答があった。

 さらに「このデータベース自体が、貴重な資料になっている。特に、メディアアートに関わる人材を、時系列で俯瞰的に眺められる点は成果だと思う。ただ、基本的には線形数学的な、時間軸での提示になっている。それぞれの人物の仕事の重要性や影響など、主観が入って難しい部分もあるが、可視化ができれば、クラスター的な分析、凝集性や断片性、志向性など、いわゆる『線形」ではない『非線形」の力学が文化史の中で見えるのではないか。そうしたグラフセオリーやソーシャルネットワークセオリーのようなツールを用いることで、新たな知見が得られる可能性がある。』に対し「今後、様々なデータを増やすことで、ネットワーク分析やグラフセオリーを埋め込んでいける可能性はあると思う。作品研究や歴史研究とグラフ化・ネットワークセオリーを接続することで成果が上がる見通しが見えたことも、本事業の成果のひとつだと思っているので、今後も進めていきたい。」と応答した。

【実施報告書PDF】

報告書表紙画像

報告書PDFダウンロード(45.4MB)

本報告は、文化庁の委託業務として、メディア芸術コンソーシアムJVが実施した平成27年度「メディア芸術連携促進事業」の成果をとりまとめたものです。報告書の内容の全部又は一部については、私的使用又は引用等著作権法上認められた行為として、適宜の方法により出所を明示することにより、引用・転載複製を行うことが出来ます。