ゲーム業界の人材採用は荒っぽい。「1本のヒットが企業の業績を大きく左右する」傾向にあるからだ。しかし、地引き網で総ざらいするかのように人材をかき集め、不要になればリストラを進めるというやり方では、企業にとっても無駄が大きいと言わざるを得ない。もう少し冷静に会社の戦略や求められる人材像を精査し、効率の良い人材採用ができないものか。そこでぜひ一読を勧めたいのが「その『エンジニア採用』が不幸を生む 良い人材を見つけ、活躍してもらうには何が必要か?」[http://gihyo.jp/book/2017/978-4-7741-8601-6](技術評論社)だ。

著者の正道寺雅信氏はNTT・ソニーを経て独立し、現在はITからインターネットまでのデジタル領域で、企業向けに人材採用と組織編成のコンサルタントとして活躍中の人物だ。これまで2万人以上のエンジニアの職務経歴書を読み、700人以上のエンジニア雇用の最終決裁を行う中で、エンジニアのキャリア形成の重要性を再認識し、Smart Look Projectを立ち上げ、求職者のキャリア形成支援に向けて活動している。このようにエンジニア採用におけるスペシャリストだが、ゲーム業界全般についても応用が利く内容で、業界人にとって必読の書だといえるだろう。

本書の最大の特徴は人材採用にまつわる課題を「経営者」「人事担当者」「求職者」のそれぞれで分類・整理していることだ。「ITリテラシーが欠如しているのに、ITビジネスをはじめようとしてエンジニアを採用してしまう経営者」「エンジニアの募集要項が書けない人事担当者」「『評価が不満』で転職するのに、『働きやすさ』を理由に転職先を決める矛盾」といった具合に、それぞれの立ち場での本音や、採用・転職における「あるある話」が数多く掲載されている。企業だけでなく、ゲーム開発者個人の転職指南術としても読みこなせるはずだ。

「採用方法にSNSを活用する」「就業条件をユニークなものにする」「評価と処遇のポイントを見直す」など、提案も具体的で現代の状況にマッチしたものだ。特に「採用担当の資質を持つ人物の見極めこそ、経営陣や人事部門の責任者の仕事」という指摘には、深くうなずく関係者も多いのではないか。実際に近年ではスタジオの責任者やCTOがみずからイベントなどに足を運ぶなどして、学生とコネクションを作ろうとする例が見られる。中小企業による人材採用イベントなどの数も増加中だ。いかに人事・採用担当者にエース級を投入できるかが、企業の命運を握る時代になってきたのだ。

「迷ったら採用しない」・・・企業の人事担当者の口癖だ。日本の労働基準法のもとでは、正社員の解雇が非常に困難だからだ。その一方で「できる社員」から離職するというジレンマを企業は常に抱えており、そこに特効薬は存在しない。だからこそ採用に関する本音や事情を、経営者・人事担当者・求職者がそれぞれ開示し合うことが重要で、本書の存在意義もそこにある。総じてIT系の中小企業に向けて書かれた内容だが、ゲーム業界でも中小の開発会社が多く、参考になるだろう。願わくばゲーム業界からも、こうした転職・採用にまつわる書籍が出版されることを期待してやまない。

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