ニューヨークのアートコレクティブ:DISが、2016年に開催される第9回ベルリンビエンナーレのキュレーションをすることが発表された。DISは2010年にLauren Boyle氏、Solomon Chase氏、Marco Roso氏、David Toro氏によって設立され、「ポスト・インターネット」のライフスタイルを提案するオンライン・プラットフォーム:DIS Magzineを運営するとともに、アーティストによるストックイメージサービス:DISimagesやアートのディフュージョンラインという位置づけのオンラインストア:DISOWNといったユニークなサービスを展開している。彼らはこれらの活動を通して、創造的な領域でアートと商業活動の境界をなくそうとしている。そして、その先には「オルタナティブがない」世界がつくられるとDISは考えている。そのために、DISはあらゆるものに「dis-」をつけていく。

グループ名にしている「dis-」という「否定」の接頭語が示すように、DISは既存のヒエラルキーや権力を批判していく。DISは「インターネット」という言葉に与えられている「リアルに劣る」「悪ふざけが行われている」といったネガティブな側面を逆手にとって、「インターネットでやっていることだから...」という感じで「インターネット」を免罪符的に使いながら、辛辣に既存の価値観を批判する。彼らの主戦場であるDIS Magzineではこれまでに、ファッションの世界で絶対的なものとして君臨してきた「VOGUE」などのハイファッション雑誌がつくってきた価値観がディスられ、それ以外にも「エコ」「労働」「10代」「アートスクール」「ストック(イメージ)」「所有」「プライバシー」といったものがディスられている。そのディスり方は単にこれまでの価値観を否定するのではなく、インターネットを介して絶対的なリアルを相対化するという方法をとっている。このあたりは単に相手を批判するだけで終わってしまう日本語での「ディスる」とは大きく異なっている。DISはネット経由の批判を継続的に行うことで、ネットとリアルとが重なり合うところに「ポスト・インターネット」という「リアルとネットとをほぼ等価値に扱う」価値観を上書きして、ネットとリアルの双方がどちらのオルタナティブではない関係をつくろうとしている。

DISがキュレーションすることになったベルリンビエンナーレは「都市との対話」を掲げて、美術館という制度に収まらない展示を展開しつつ、新しいアートの潮流や若いアーティストを紹介する「アートラボ」の機能を果たしてきた。そこに「ポスト・インターネット」の価値観を体現してきたDISが召喚されたことになる。DISもベルリンビエンナーレも既存のヒエラルキーに反抗してきたという点では同じ価値観を持つといえるが、それぞれのメインの活動場所はネットとリアルと異なる。だからこそ、ベルリンビエンナーレのコミッティーは「ベルリンビエンナーレ」というアートのリアル実験場にポスト・インターネット的な価値観を大々的に持ち込み既存のビエンナーレの枠組みを覆してくれることを期待して、DISにキュレーションを任せたのであろう。

しかし、今から2年後の「2016年」に「ポスト・インターネット」という言葉が有効なのかどうかも、「ドッグイヤー」と呼ばれるインターネットの時間の流れでは全くわからない。インターネット・カルチャーを深く理解し、いつも予想に反したアイデアを展開してくるDISは、このネット的には長くてリアルには短い準備期間を使って、ネットとリアルとの関係を改めて考察し、それをリアルに着地させるはずである。あるいは、ネットをリアルに着地させると見せかけて、リアルをネットに着地させるといったことをしてくるかもしれない。いや、ネットとリアルとがどちらにも着地しないということもあるかもしれない。いずれにしてもその際、DISがその批判の対象を何にしているのかが気になるところである。DISであれば現時点で彼らの拠り所にしている「ポスト・インターネット」を批判の対象にすることもあるだろうし、そうなればDIS自体をDISがディスるということにもなるかもしれない。DISがベルリンビエンナーレに向けて何をディスっていくのかを注目していきたい。

DIS APPOINTED AS CURATORIAL TEAM OF THE 9TH BERLIN BIENNALE FOR CONTEMPORARY ART
http://www.berlinbiennale.de/blog/en/allgemein-en/dis-appointed-curatorial-team-of-the-9th-berlin-biennale-for-contemporary-art-35986