1990年代半ばから2000年代前半にわたって、それまで東京という「中央」に集中していた文化の拠点が日本全国に拡散されていった。インターネットの普及推移とこれらの総合文化施設の設立が、ある程度時間軸を共にしていたことは偶然ではなかっただろう。これらの施設は、物理的な距離を超えて「世界」とのネットワーク構築に先駆的な役割を果たしてきた。一方、2010年代には「地元」との連携が強調される傾向が目立ったかのように思える。その事例としては、3・11以後のせんだいメディアテークの活躍、2013年のYCAM10周年記念事業に対する山口県・市民の呼応などが取り上げられる。

1996年4月開校した岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(Institute of Advanced Media Arts and Sciences)と2001年4月に設立された情報科学芸術大学院大学(International Academy of Media Arts and Sciences)。英語名称の略字からIAMAS(イアマス)と呼ばれる、世界的なメディアアート・デザイン・情報科学技術の専門教育機関も、開学当初からソフトピアジャパンという岐阜県の高度情報化政策と深い関係のなかで構想されていた。2014年4月領家町からソフトピアジャパン地区への校舎移転の意味を、2012年3月のアカデミーの廃止などと関係付けて解釈する見解もあるが、上記のような大きい流れのなかで位置づけると、「地元」である岐阜県大垣市との連携が以前よりさらに強化されることになる、と理解することもできる。

2014年3月8日、IAMASが18年間宿っていた領家町への感謝と移転を記念するイベント「領家町祭」が開催された。IAMASのシンボルでもある校門を「御霊」に見立て、「御霊」を新校舎に遷す前に芸事を奉納する「お祭り」であった。発起人は三輪眞弘教授・研究科長、プロデューサは講師の城一裕氏、ディレクターは卒業生のイトウユウヤ氏、そして企画、設営、運営を行ったのは、平成25年度文化庁「大学を活用した文化芸術推進事業」の助成による「アート/メディア/身体表現に関わる専門スタッフ育成事業」の受講生だった。

妹島和世建築設計事務所が設計した「マルチメディア工房」の屋根をメインステージに、在学生と卒業生による芸事奉納として、吉田茂樹学長、山元史朗氏、赤羽享氏、小林桂子氏、後藤天氏、Mimiz(鈴木悦久氏、飛谷謙介氏、福島論氏)、池田萠氏、フローズンマリー(a.k.a.三宅ヤスコ)氏、kafuka/江島和臣氏、The Breadboard Band(赤松正行氏、原田克彦氏、大石彰誠氏、斉田一樹氏)、安野太郎氏によるトークとパフォーマンスが行われた。卒業生の入学当時の一言ビデオを年度別に展示し、ネットワーク上で展開させた《Graduates》、全校舎内を360°カメラで撮影し、Google Street Viewにアップするプロジェクト《Campus View》、《領家町観測器》が展示されている一方、《梅は香りにオリーブは知恵ワークショップ》、《カレーなるスパイス・ワークショップ》が開かれた。会場には、メディア屋台書店部BAR本屋、家族単位で来校した人々のためのイアマスキッズスペースなどが設けられていた。さらに、全体の様子は、非公認公式インターネットラジオ放送局「美ch」によって放送された。防犯上の理由で立ち入り禁止である校舎内を見る最後の機会として学内ツアーを引率したのはIAMAS同窓会長のクラフトワイフ/赤松武子氏。そして2005年から2012年までIAMASに停留していた、大型バスを改造してつくられた移動型ミュージアムMOBIUMは、今回山車に見立てられ、領家町周辺から大垣駅を経由するバスツアーを行った。

全体の雰囲気は愉快で明るかった。河村陽介氏によるクアッドコプターの空中散餅と《みんなが好きな給食のおまんじゅう》をベースにしたわらび餅撒き儀式の際には爆笑が続き、子供たちは毎回歓呼の声を上げた。MOBIUMの「DRIFTバス」は安全運行したが、車内の小さなコンサートの途中、ドラムの上から鈴が転び落ちる度に乗客の笑い声が弾けた。寂しい思いをする場面が多かった学内ツアーでさえ、ガイドと参加者たちは微笑みながら思い出話を交わしていた。もちろん、「領家町祭」に集まった卒業生、在学生、過去と現在の教員など、当事者たちの心境は、一介学外者にすぎない筆者が察することのできることではないだろう。半日間、筆者がしみじみとわかったのは、学校とは人をつくる場であり、人と人がつながっていく場であるという、ごく当たり前の事実だった。

2014年3月25日『情報科学芸術大学院大学紀要』第5巻が発行予定であるが、その特集が「領家町祭」を明確に要約しているといえるだろう――「<これからもイアマス>領家町からソフトピアへ」。

IAMAS「領家町祭」

http://www.iamas.ac.jp/7948

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IAMAS BOOKSとIAMAS ARCHIVE

http://mediag.bunka.go.jp/article/iamas_booksiamas_archive-875/