ゲーム開発技術を実社会に応用する「ゲーミフィケーション」が昨年から世界的な注目を集めている。しかし、現状ではゲームの「実績」システム(ゲーム内で様々な条件をクリアした報酬として、特典が得られるシステム)などを応用し、ウェブサービスにおける参加率を高めるなど、企業のマーケティング活動の利用などに留まっている。

こうした中で著者のジェイン・マクゴニガル氏は、本書『幸せな未来は「ゲーム」が創る』(早川書房、2011)で、一貫して「ゲーム開発技術を応用すれば、現実世界の問題点が解決できる」と論じる。一方でゲーミフィケーションという言葉を使わず、ARG(代替現実ゲーム)という用語を用いている。

ARGとはテレビ、広告、メールなど複数のメディアで横断的に提供される情報をもとに、参加者が現実世界で推理を働かせたり、コミュニケーションしたりしながら、複合的なストーリー体験を楽しむ参加型エンターテイメントのこと。著者は本定義を深めるとともに、ARGを用いた社会改善ゲームの可能性や方法論について、具体例をあげて考察する。

著者自身もアフリカの若者向けに携帯電話向けゲームEVOKE(イヴォーク)を世界銀行と共同開発するなど、多数のARGを開発した経歴を持つ。「EVOKE」は世界を変える事業を10週間で立ち上げることを手助けするソーシャルネットワークゲーム。2010年春に行われたテストでは、150カ国以上から19,000人以上が参加し、100件以上のソーシャルベンチャーが提案された。本書には「EVOKE」をはじめ27件のARGや、著者が手がけた作品の開発事例も紹介されている。

本書はまた「World of Warcraft(ワールドオブウォークラフト)」「FarmVille(ファームビレ)」など、海外のオンラインゲームやゲーマーコミュニティを巡る最新事情もふんだんに盛り込まれている。ゲーム業界関係者だけでなく、ゲームの可能性を信じる人々に広くお勧めしたい1冊だ。

『幸せな未来は「ゲーム」が創る』

著:ジェイン・マクゴニガル、監修:妹尾堅一郎、訳:藤本徹、 藤井清美、出版:早川書房

出版社サイト

http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/113756.html