ベルリンと東京に拠点を置くアーティスト・ユニット「ポスト・シアター(post theater)」が、ソニー創業者の井深大氏(1908−1997年)と盛田昭夫氏(1921−1999年)の実話を元にしたパフォーミング・アーツ「ヘブンリー・ベントー(Heavenly Bento)」を、青山円形劇場(東京)で2012年7月4日から8日まで全8回公演した。

タイトルにある「ベントー」は、小型の箱にさまざまな料理(物語)を詰めて持ち運べる「弁当」が日本的な観念と美意識を象徴するとソニーが考えて、このコンセプトを製品開発に取り込んだことに起因する。本作品は委託作品ではなく、アーティストが、ジョン・ネイスン(John Nathan、1940−、米)著『ソニー­­−−ドリーム・キッズの伝説(Sony: The Private Life, 1999)』に描かれた井深氏と盛田氏の伝記に影響を受け、異文化をつないだ彼らの技術とその開発コンセプトにアーティスト的な生き方を見いだして制作された。2004年にベルリンでプレミア発表。

物語は、第2次世界大戦の終戦が近づくなか、当時、兵器開発チームのリーダーとその助手として出会った井深氏と盛田氏が敵国の技術の高さを囁き合う場面から始まる。終戦直後、ラジオ修理をしながら、「米国を超える技術」と「生活を変える何か新しいもの」を目指し、試行錯誤しながら世界をリードする製品を次々と生み出していった両氏の二人三脚を描く。4m×3mのテーブルのような舞台に天吊りプロジェクターによって投影される映像を効果的に巻き込みながら、3名のダンサー/役者が天国の重役会議で過去を回想する形で物語を展開する。テーブルにはソニーの作業用ベストを着た人々が、四角い箱(公演終盤で弁当だと判明する)を目の前にして、ぐるりと着席する。

本作品は、パフォーマンス作品の演出、ソニーの歴史とそれに投射される戦後技術史などさまざまな観点から評価されるべき作品だと考える。経済不振と原発事故を経験する私たちへ暗黙に訴えるメッセージは勇気を与えると同時に省察を促す。テクノロジーに批判的な立場で臨むアーティストらへも示唆を与える。

最後に、メディアアート史において大きな貢献を果たしてきたソニーについても触れておきたい。周知のとおり、ソニーはオーディオ・ビジュアル機器において業務用/民生用ともに世界屈指の企業である。一方、1960年代後半から、ライブ・エレクロトニクス、コンピュータ・アートやビデオ・アートなどに関する展覧会やフェスティバルのサポート、アーティストへの技術協力やコラボレーションを行ったことでも知られる。ポスト・シアターがソニーの理念から「ヘブンリー・ベントー」という作品を生み出したように、ソニーあるいはソニー製品とアーティストが触発し合いながら編まれたメディアアート史の1コマをひも解く作業が求められる。

ポスト・シアター「ヘブンリー・ベントー」
http://www.posttheater.com/productions_heavenlybento.htm