インターネットの普及はメディアのストーリーテリングに二つの問題提起を行った。一つは出版・映画・放送などの伝統的なエンタテインメント産業に対する構造改革。もう一つは「物語」自体のありようの変化だ。従来の「送り手」と「受け手」の境界が曖昧になる中で、世界中で新しいスタイルの「物語」が続々と生まれ、消費されている。

こうした中でアメリカのエンタテインメント業界や広告業界は、どのような戦略をとるのか。本書『のめりこませる技術』は、そうしたメディア産業の最前線を生き生きと描き出した。著者は元ワイアード誌編集長のフランク・ローズ氏。『アバター』『メタルギアソリッド』『ロスト』をはじめ、膨大な取材と情報量が本書の記述に強い説得力を与えている。

本書のキーワードは「参加性」だ。今やメディアの受け手はインターネットで世界中とつながり、自ら物語を語りはじめた。そこで企業にとって必要なのは、受け手を巻き込み、参加させること。そして、そのために重要なものが世界観の構築だとする。そこで繰り返し引用されるのが『スター・ウォーズ』の事例だ。

もっとも、こうした「世界観ビジネス」は、日本がアメリカより先行している部分もある。ガンダム、ポケモンをはじめ、メディアミックス戦略は日本の十八番。世界観と戯れる遊びは1980年代後半、「ビックリマンチョコ」シールで経験済みだ。本書で記された豊富な事例をもとに、日本の強みをいかに融合できるか。そのための格好のテキストだろう。

一方で著者は参加性も度が過ぎると、近い将来「現実と虚構の境界がつかなくなる」時代が到来するのではないか、と懸念も示している。しかし、それこそが物語の持つ本質的な魅力なのだ。技術の進化と共に、どのような物語を「体験」できるか、今から期待したい。

『のめりこませる技術――誰が物語を操るのか』

著者:フランク・ローズ 、翻訳:島内哲朗 、出版社:フィルムアート社

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