RPGならキャラクターパラメータの増減、リアルタイムストラテジーなら資源管理といった具合に、ほとんどのゲームは「内部経済」システムから読み解ける。この視点からゲーム作りについて論考したユニークな書籍が本書『ゲームメカニクス おもしろくするためのゲームデザイン』(ソフトバンククリエイティブ、2013年)だ。

著者のアーネスト・アダムス氏は世界最大のゲーム開発者コミュニティ、国際ゲーム開発者協会の創始者で、ヨリス・ドーマンズ氏はゲーム研究者兼ゲームデザイナー。ドーマンズ氏の研究成果であるマキネーションと、アダムスの豊富なゲーム開発者としての経験が融合し、ゲーム内経済のモデル化という、過去に類のない取り組みが結実した。

マキネーションの背景にあるのは「ゲームプレイは最終的に、ゲームシステムを通した有形・無形・抽象リソースの流れで決まる」という考え方だ。マキネーションは、この流れを視覚化するためのツールであり、ビジュアルプログラミング言語に近い。本書では「パックマン」「モノポリー」「シヴィライゼーション」といった人気ゲームが、このマキネーションを用いて分析されている。

マキネーションがユニークなのは、紙ベースだけでなく、Flashで動的なコンテンツとして作られ、無償配布されていることだ(本書の読者なら、サポートサイトからダウンロードできる)。読者は実際にマキネーションを用いて本書の内容を復習したり、独自分析に活用できる。紙ベースではわかりにくかった点も、Flash上で実際に動かしてみると、すぐに理解できるだろう。

本書ではゲーム内経済モデルの分析に留まらず、シミュレーション結果をもとにしたバランス調整や、ゲームデザインパターンの体系化といった領域にも踏み込んでいる。ベテランゲームデザイナーの暗黙知に陥りがちな部分をモデル化しようとする野心的な試みであり、多くのゲームデザイナーの共通言語として浸透することを期待したい。

『ゲームメカニクス おもしろくするためのゲームデザイン』

著者:アーネスト・アダムス、ヨリス・ドーマンズ

訳者:ホジソンますみ、田中 幸

監修:バンダイナムコスタジオ

出版社サイト

http://www.sbcr.jp/products/4797371727.html