2013年6月15日、6日間にわたって開催されていたアヌシー国際アニメーション映画祭が閉幕した。

アニメーションを専門に扱うものとしては世界最古かつ最大規模を誇る同映画祭だが、今年はその長い歴史にもたらされる変化が注目されていた。

今回の大会は、1999年以来ディレクターを務めていたセルジュ・ブルムベルグ氏の退任に伴い、カナダ人のマルセル・ジャン氏をディレクターとして迎えた最初の年である。フランス人以外で初めてアヌシーのディレクターとなったジャン氏は、カナダ国立映画制作庁(National Film Board of Canada、略称NFB)でのプロデューサーとしての経歴が有名で、実験映画を含めた映画芸術一般に造詣が深い。そのため、初期映画やカートゥーンなどに傾倒するブルムベルグ氏のもと、ときに行き過ぎた商業化と評価基準の欠如が批判されることもあった近年のアヌシーがどのような方向転換を遂げるのかが関心を集めていた。

ジャン氏の手腕は、コンペティション以外の特別上映部門で存分に発揮された。象徴的なのが「アニメーション・オフリミッツ」と名づけられたプログラムである。アニメーションと強く関連するものの、アニメーション映画祭内では看過されがちな映像作品を紹介するこのプログラムは、アニメーションとその周辺領域の境界線について再考察するものであり、人形を用いた作品や実験映画など、普段アニメーション映画祭では観ることのできない種類の作品が上映された。

また、毎年恒例の国別特集ではポーランドにフォーカスが当てられ、スペシャル・クリスタル・アワード(功労賞)を受賞したイエジ・クチャ氏の特集のほか、長編を含む5つのプログラムが上映された。現代ポーランド・アニメーションの祖といえる故ヤン・レニッツア氏(1928-2001)と故ワレリアン・ボロズヴィック氏(1923-2006)が、それぞれポスターデザインや実写映画などアニメーションに近接する領域でキャリアを築いている。また、クチャ氏自身も自分の実践を絵画の一環とみなしている。さらに、今回「アニメーション・オフリミッツ」も含め複数のプログラムで作品が上映されたズビグニュー・リプチンスキー氏の実践がアニメーションの定義を揺らがせるようなアプローチを過去に採用している。こうした動向からもわかるように、ポーランドを特集国として選ぶというチョイスそのものにも、「アニメーション・オフリミッツ」同様に、アニメーションを超領域的に捉えなおそうという試みを見出すことができた。

このように、特別上映部門においては、新ディレクターのディレクションのもと、アニメーションの再定義を試みることが一貫して行われたといえる。日本ではマンガやコンテンツビジネスとの関係性のみに注目が集まりがちなアニメーションではあるが、こういった観点からは、実験映画や絵画やデザインをはじめとした美術、ニューメディアなど、アニメーションについて考えるための視点が他にも多く存在することを知ることができる。

今年は、長年メイン会場として使用されていたボンリュー・ホールが2年間の改築工事に入り、特設の会場を含めた新たな会場構成で映画祭が開催されることになったが、上記の新たな取り組みも含め、アヌシーが新たな方向への最初の一歩を踏み出したことを印象づける大会となった。

コンペティションでは、『Rio 2096: A Story of Love and Fury』(ルイス・ボロネシ監督、2013年)が長編部門のクリスタル(グランプリ)を受賞した。ブラジルの過去から未来までを貫く大きな時間軸で物語を展開するこの作品は、ブラジル製作のものとしては長編部門で初のクリスタルの獲得で、世界各地のアニメーションの動向を拾い上げようとする近年のアヌシーの動向にも見合った結果となった。

長編部門に関しては例年に比べ商業ベースで作られた作品の選出が目立ったが、選外作品を上映するアウト・オブ・コンペティションの上映では、リチャード・ウィリアムス氏の幻の作品についてのドキュメンタリー『Persistence of Vision』(ケビン・シュレック監督、2012年)や、実写ドキュメンタリーとコマ撮りを混在させた『Tito On Ice』(ヘレナ・アホネン、マックス・アンダーソン監督、2012年)など、こちらも「オフリミッツ」を思わせる幅広い視点での選定が行われていた。

短編部門のクリスタルはNFB製作の3DCGアニメーション『Subconscious Password』(クリス・ランドレス監督、2013年)だ。パーティーで出くわした旧知の友人の名前を思い出すため、監督自身の無意識の領域でクイズ番組の形式を借りてやり取りが繰り広げられるコメディであるこの作品は3D上映にも対応しているが、同じくNFB製作の3D作品『Gloria Vicrtoria』(テオドール・ウシェフ監督、2013年)もFipresci(国際映画批評家連盟)賞を獲得するなど、革新的な短編作品を生み出す場所としてのNFBの強さを改めて認識させる結果となった。

その他の受賞作品については、映画祭公式ホームページを参照のこと。

来年のアヌシーは2014年6月9日から14日までの6日間の日程で開催される。

アヌシー国際アニメーション映画祭公式ページ

http://www.annecy.org/