なぜゲームは子どもからお年寄りまで、幅広い年齢層のユーザーを夢中にさせるのか。なぜゲームはマニュアルを読ませることなく、複雑な操作を簡単にマスターさせることができるのか。こうしたゲームの開発ノウハウを家電やウェブサービズに応用することはできないのか。このような問いに対して果敢に切り込んだ書籍が『ビジネスを変える「ゲームニクス」』(日経BP社、2013年)だ。

著者は元ゲームクリエイターで、現在は立命館大学教授のサイトウ・アキヒロ氏。サイトウ氏はこうしたゲームのプレイヤーを引き込むノウハウを「ゲームニクス」と命名し、大学で研究するかたわら、様々な製品・サービス開発を行っている。本書はこのゲームニクスのノウハウが豊富な図版と共に体系的に解説されている。

本書はビジネス書の体裁をとっているが、中身はゲームの開発技術書に近く、ゲームデザインの様々なノウハウが詳細に説明されている。「スーパーマリオブラザーズ」などの人気ゲームも掲載されているため、若手ゲームクリエイター向けの教科書としても、またゲームファン向けの読み物としても楽しめるだろう。

 また巻末にはゲームニクスの製品開発への応用例として、タブレットやリハビリ器機、教育玩具などの開発事例も掲載されており、業界外のエンジニアにも参考になる。もっともゲームニクスの有効性は学術的に研究・証明されたものではなく、いわばゲームクリエイター・サイトウ氏が蓄積してきたノウハウの「お蔵だし」という性格が強いため、その点は注意が必要だ。

本書のポイントは、ファミコン時代から活躍してきたゲームクリエイターが大学に籍を移して、自分が長年開発に携わってきた「ゲーム」の力を客観的に分析し、体系化しようと務めた点にある。日本のゲーム業界も、こうした産学横断的な取り組みが、ようやく見られるようになってきた。こうした取り組みがより活性化するための環境作りを期待したい。

『ビジネスを変える「ゲームニクス」』

著者:サイトウ・アキヒロ

出版社:日経BP社

出版社サイト

http://bpstore.nikkeibp.co.jp/item/books/218590.html