2014年6月9日から14日、フランス・アヌシーにて第38回アヌシー国際アニメーション映画祭が開催された。

昨年のアヌシーは、新アーティスティック・ディレクターであるマルセル・ジャン氏の就任が話題となった。実験映画を中心に取り上げる批評家・理論家、そしてカナダ国立映画制作庁(NFB)のディレクターとしての経歴が有名なジャン氏は、実験映画や人形劇をはじめとした、アニメーションに隣接しその定義を再考させる領域の作品を集めた「アニメーション・オフリミッツ」という特集上映を行うことで独自色を発揮した。

今年のアヌシーにおけるひとつの大きな変化は、「アニメーション・オフリミッツ」部門が新設されたことである。これはジャン氏が昨年導入した新路線をさらに拡大したものとして捉えられる。これまでのアヌシーは、長編部門、短編部門、テレビおよび依頼作品部門、学生部門の4つに大きく分かれており、オフ・リミッツ部門は、短編部門と隣り合わせるかたちで新設された5つめのカテゴリとして位置づけられる。オフ・リミッツ部門の審査は短編部門ではなく学生部門の審査員が兼務しており、初代の栄冠にはカナダのニコラ・ブロー監督による『Foreign Bodies』(2013年)が輝いた。CT画像やMR画像など医療用イメージを用いて作られたノンナラティブ・アニメーション作品である。

2014年は実験アニメーション界の巨匠、故・ノーマン・マクラレン監督の生誕100周年にあたるが、今年のアヌシーはそこにフォーカスも当てていた。「マクラレン・ナウ」と題された2つの特別プログラムでは、マクラレン氏本人の作品とその作品・活動に影響を受けた他の作家による近年の作品を組み合わせたプログラム構成となっていた。そのなかでは、水江未来監督の『Baby Bird of Norman McLaren』(2014年、中内友紀恵氏との共同監督)など、以前のニュースで取り上げたマクラレン作品をベースにしたプロジェクション・マッピングのコンペティションに入選した作品も上映された。

アヌシー城での展示「ノーマン・マクラレンの遺産とピエール・エベールNorman McLaren Inheritance & Pierre Hébert」もまたマクラレン監督生誕100周年企画として注目を浴びた。展示では、マクラレン監督が作中で好んで用いた鳥をモチーフとしたドローイング作品や、親しい人々や映画関係者に宛てた飾り文字や暗号を多用した手紙の数々が、現代のカナダの実験アニメーション界をリードするピエール・エベール監督のドローイングとあわせて展示されていた。

長編部門では、『They Boy and the World』(アリ・アブレウ監督、ブラジル、2013年)がクリスタルを受賞した。スケッチ調の絵柄を用いたこの作品は、父親を探す子供の目を通じて社会の権力構造を浮かび上がらせるような作品で、昨年の『Rio 2096: A Story of Love and Fury』(ルイス・ボロネジ監督、2013年)に引き続き、ブラジル作品が2年連続で長編部門のトップに輝くこととなった。

短編部門のクリスタルは『Man on the Chair』(ダヒ・チョン監督、フランス=韓国、2014年)。絵に描かれた男が自分自身の存在について思索を行う作品で、先週のザグレブ国際アニメーション映画祭での『Love Games』(ヂョン・ユミ監督、韓国、2012年)に続き、韓国人監督の作品が主要なアニメーション映画祭の短編部門を制覇した。

日本作品は依頼作品部門で新井風愉監督のネピアのCM『Tissue Animal』(2013年)がクリスタルを受賞、長編部門の審査員特別賞に西久保瑞穂監督の『ジョバンニの島』(2014年)が選ばれた。また、一般審査員の審査によらない特別賞では、フランスのテレビ局CANAL+が選定するCANAL+ Creative Aid賞に、水江未来監督の『WONDER』(日本=フランス、2014年)が選出された。今年は高畑勲監督が功労賞にあたる名誉クリスタル賞を受賞、開会式では最新長編『かぐや姫の物語』が上映され、高畑監督によるマスタークラスも行われたが、受賞結果においても、日本作品は今年のアヌシーで一定の存在感を示したことになる。

来年のアヌシーは2015年6月15日から20日に開催。閉会式では、マルセル・ジャン氏により、2年の改修を経て映画祭のメイン会場がボンリューに戻ること、また、特別上映では、女性監督特集とスペイン特集が行われることが発表された。

今年のアヌシーの詳細な受賞作品リストについては、映画祭の公式ページを参照のこと。

アヌシー国際アニメーション映画祭公式ホームページ
http://www.annecy.org/