どんな仕事でも情熱がないと続かない。『東大卒プロゲーマー』(PHP新書)の著者「ときど」(谷口一)氏が、本書で強調するメッセージだ。

1985年生まれの29歳。東京大学工学部マテリアル科を卒業後、同大大学院に進学するも中退。地方公務員試験を受験し、最終面接にまで進むも、本当に自分がやりたい仕事とは思えず、プロゲーマーの道に進むことを決意。格闘ゲームを中心にゲームの社会的地位の向上をめざすTOPANGAに所属し、World Game Cup 201優勝、EVO2013準優勝、Id global Tournament2014優勝などの実績を誇っている。

プロゲーマーは2000年代に入り、欧米圏・アジア圏で同時多発的に生まれてきた。本書では「企業のスポンサードを受け、ゲームをプレイすることで収入を得ている」人間で、人気ジャンルはFPS(一人称視点シューティング)やRTS(リアルタイム戦略ゲーム)。もっとも人気のある「リーグ・オブ・レジェンド」は全世界で7000万人のプレイヤー人口を誇り、プロリーグの優勝賞金は100万ドル(約1億円)にものぼる。これに対して格闘ゲームはニッチな存在で、プロゲーマーも世界で20〜30人、日本では4名とされている。

ただし、日本ではこうした賞金付き大会はほとんど開催されていない。そのため、ときど氏の主戦場も海外のゲーム大会だ。ふだんは1日8時間ゲームの練習をして、月一ペースで海外大会に「出張」し、賞金を稼ぐ毎日。スポンサー企業の製品やサービスに開発協力したり、PR活動に協力したりすることも業務の一つ。もっとも格闘ゲームは世界的に見ればニッチな分野で、賞金額も低い。生活の保障があるわけでもない。およそ「東大を卒業してまでやる仕事ではない」というのが、世間一般のイメージだろう。

実際、「東大まで出ていて、なんでプロゲーマーになったのか」と必ず聞かれるという。それに対して本書では「もし東大を出ていたら、あなたは何になりますか?」と問い返したいと記されている。医者、弁護士、一流企業などが模範解答だろうか。ただし社会に出たら、どんな職業でも実際に働いて年月を過ごしていく。つまり情熱が傾けられる仕事でなければ、長く続けることはできないというわけだ。

世間一般的にはほとんど知られることのないプロゲーマーの生活や試合ぶりなどが詳細に記されており、その点でも興味深い。しかし、その本質は「働くとは何か」という普遍的なものだ。「手の内をさらしあうほうが強くなれる」など、世界の第一線で活躍しているからこそ、重みをもって感じられるメッセージも数多く盛り込まれている。ゲーマーだけでなく、就職活動中の学生に幅広く読んで欲しい1冊だ。

『東大卒プロゲーマー』
著:ときど、出版社:PHP研究所
出版社サイト
http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-81962-4