ダンサー/振付家として国際的に高名なピナ・バウシュ(1940-2009、独)の1950年代からの活動にまつわるアーカイブ資料を管理するピナ・バウシュ財団(2009年設立)は、2010年よりドイツ政府やNRW州などから助成を得てアーカイブ編成に着手した。

筆者は、メディアアートのアーカイブ編成において、タイム・ベースドあるいは一過性の要素が高いという点で作品形態が共通することから、パフォーミング・アーツのアーカイブ編成は参考になると考えて度々取り上げてきた。今回は、ドイツにおいて「Forsythe Motion Bank」、「Digitaler Atlas Tanz」、「Tanzfonds Erbe」に続く新しいダンス・アーカイブのプロジェクトであるピナ・バウシュ・アーカイブについて同財団が2010年から行ってきた活動を紹介する。

バウシュは各作品の様々な創造過程において、彼女が収集あるいは制作した資料群を緻密に整理していたようだ。資料の総量(写真、ポスター、ドローイング、LP、本を除く)は約1.6t。その他、同プロジェクトの対象には、作品に使われた舞台セット、小道具、衣装、音楽、事務資料、技術資料、オーディオ・ビジュアル記録資料(ビデオ約7,500本、インタビュー音源1,222分 *2012年時点)などの組織資料も含まれる(資料区分についてはウェブサイトを参照 *現時点ではコンテンツは未公開)。

同アーカイブ編成の主要目的の一つとして、同財団の代表でバウシュの子息であるザロモン・バウシュ氏は、筆者のインタビューにおいて、今のところ新作を作る予定はないとし、「再演のための新しい制作プロセスに寄与すること」を挙げた。例えば、バウシュの逝去後、2010年に多くの若いダンサーによって『春の祭典』(1975年初演)が、2011年に15年ぶりに『Two Cigarettes in the Dark』(1985年初演)が再演された際には、そのリハーサル・プロセスが記録された。その記録はバウシュ亡き後の制作プロセスの記録であると同時に、アーカイブ資料が最も参照されるリハーサル現場において有効なその参照プロセスと手法を探る機会でもあった。

また、記録映像やバウシュによる虎の巻である「バイブル」は重要な記録資料であることは自明であるが、それだけでは全容を把握しきれないため、同プロジェクトでは関係者によるオーラル・ヒストリーにも注力する。インタビューのみならず、バウシュと密接にやりとりしたダンサーたちが記憶しているバウシュの発言は関連資料にコメントとして付与される。記録できない事柄あるいは資料から読み取りにくい側面を個人の経験や記憶から浮揚させようとする試みだ。

さらに、同プロジェクトの特徴は、様々な資料やオブジェクトのデーターベースを構築するにあたり「Linked Data」を採用している点で、国際的にウェブ上での恊働体制を築こうとしている。現時点では、米国(BAM: Brooklyn Academy of Music、NY)および日本(大野一雄アーカイブ、神奈川/東京)などがパートナー拠点として発表されている。
 2014年9月27日には、過去4年間に行われたアーカイブ編成の成果発表として「You and Pina: Share Your Memory of Pina Bausch」が、ヴッパタール劇場のリハーサル・スペースを使って開催された。膨大な資料を目の前にして、果てしない試行錯誤の道程に大きな一歩を踏み出したばかりの同財団は、オンラインでのアーカイブ公開を目指して関係者や観客からの理解とフィードバックを得る機会を設けた。日本からは、溝端俊夫氏と森下隆氏によって、それぞれ「大野一雄アーカイブ」と「土方巽アーカイブ」についてレクチャーが行われた。

なお、これまでのアーカイブ編成のプロジェクトレポートはウェブサイトからダウンロード(2011年レポートPDF2012年レポートPDF)できるので参照されたい。

ピナ・バウシュ財団
http://www.pinabausch.org/en/home