2014年10月10日、ビデオアーティスト中嶋興氏の作品上映会がアップリンク(渋谷区)で開催された。タイトルは「中嶋興 ヴィデオ万物流転」(共催:アップリンク、ビデオアートセンター東京、助成:アーツカウンシル東京)。

中嶋氏は日本のビデオアートのパイオニアのひとりであり、海外での評価も高い。しかしながら、これまで日本では上映の機会は限られており、今回のイベントは貴重な機会となった。

中嶋氏は1941年熊本生まれ。1960年代より実験的なアニメーション、写真、デザインなどを手がけ、1970年よりポータブルのビデオカメラを購入し、「ビデオアース東京」を結成。ビデオを個人の記録メディアとして、また生命や思想的な表現を行う媒体として捉え、パフォーマンスやドキュメンタリー、インスタレーションなど、広い範囲での活動を国内外で展開。近年はフランス、クレルモンフェランで開催された「Video Formes」で大規模な特集が組まれた。

上映会は2日間に分かれており、今回開催されたのはVol.1。サブタイトルは「メディアの精製と流転」で、上映された作品は5点。『精造器』(1964年)、『生物学的循環 part1&part5』(1971年/1982年)(抜粋)、『新幹線研究食』(1975年)(抜粋)、『水平線』(1971年)、『マイ・ライフ』(1976年-1992年)。

『精造器』はフィルム上に直接ペイントして作成した実験的アニメーション。オリジナルは草月ホールで上映された。東洋現像所(現IMAGICA)で中嶋氏がアルバイトをしているときに、使用済の余った35mmのモノクロフィルムを拾い、マジックインキと絵の具を使って彩色した。上映するたびにマジックインキが流れてしまうため、初回が一番綺麗な状態だったという。久里洋二氏にかけあって上映にこぎつけた。

『生物学的循環 part1&part5』は、フィルムで撮影した作品を再度ビデオに取り込み、画像処理することで更新。5つのバージョンがある。NHKの教育番組を作りながら、技師と仲良くなり、機材を使わせてもらった。当時生まれた長男に向けて様々な理想を込めてつくった作品。サイケデリックな色は「その時代の一番特徴ある色を残したい」という思いが反映している。

『新幹線研究食』は、新幹線に炊飯ジャーを持ち込み、東京から名古屋までの間に炊飯し、到着と同時にプラットフォームで会食を催すというパフォーマンスを記録したドキュメンタリー。当時教えていた学生たちに「社会に対して度胸をつけてもらう」のが目的だったという。新幹線は1964年開業、電気炊飯ジャーも普及したばかりで、それをビデオという新しいテクノロジーを使って撮影した。

『水平線』は沖縄返還を記念して制作された作品で、未来を象徴する地母神のような女性像が描かれると同時に、沖縄返還時の不安と希望が入り混じる。この時代には、スタイルの良い女性のヌードがよく撮影されていたが、それに対する反発もあり、太った女性をオーディションして選んだ。近年、同じ女性を撮影しにいったがすでに亡くなられていたという。

『マイ・ライフ』は中嶋氏を代表する作品のひとつで、中嶋氏の家族の生と死を、2画面マルチで見せる。母親の死と、息子、娘の誕生を描いた70年代のテープを更新し、今回は孫の誕生や息子の入院などその後の家族のライフ(生活/人生/命)が組み込まれた最新版が上映された。

上映後、中嶋氏とクリストフ・シャルル氏(メディアアーティスト、武蔵野美術大学教授)、イベントを企画した瀧健太郎氏(ビデオアーティスト、ビデオアートセンター東京代表)による対談が行われた。テーマは大きく、1)陰陽五行について 2)『精造器』について 3)『生物学的循環について』 4)色について 5)作品が変容し続けることについて 6)観客との質疑応答の6つだった。

個々の作品にまつわるエピソードはどれも大変興味深いものであったが、ここではビデオの継続性、永遠性に関わる部分についてだけ手短に触れておきたい。

『マイ・ライフ』に顕著だが、中嶋氏の作品は完結よりも継続(繰り返し)が重視されている。『マイ・ライフ』には、作者自身の死があらかじめ繰り込まれている。自身の死を、彼の子孫が撮影することで作品は続いていく(完結するのではなく)という。ビデオでは「作ることより、伝えていくことが重要」だと中嶋氏は強調した。

『生物学的循環』はいくつものバージョンがあり、はじめはフィルムで撮影されていたものをビデオに取り込み、いくつもの機械で処理して、何年にもわたりアップデートして制作した。対談の中で瀧氏は「映像作品を1回で終わらせない」のが中嶋氏の面白いところだと指摘した。今回の上映にあたってテープを借りた際、同じタイトルの作品が何バージョンもあることに瀧氏は驚き、作品が変容し続けるという意味で、今回のイベントのサブタイトル「メディアの精製と流転」をつけたという。

中嶋氏によると「どんどん継ぎ足していける」のは「ビデオで学んだこと」であり、フィルムにはないビデオの特性だという。別の言葉で「ビデオには永遠性がある」「人間の生命もそういうもの」と中嶋氏は述べていた。メディアが移り変わっても、そこに人間がいる限り、陰(死)と陽(生)が入れ替わりながらも続いていく、そのような思想が中嶋氏の制作姿勢には一貫して見られる。

中嶋氏は最後に、新作『死者の舞』の予告をする一方、『水平線』をさらに改変、発展させる可能性についても触れた。

2014年10月17日に開催されるVol.2では陰陽五行に関係する作品が上映される。上崎千氏(慶応義塾大学アート・センター所員)との対談も予定されている。

中嶋興 Nakajima-Ko
http://www.age.cc/~ko-ko-ko/blog/

VIDEOART CENTER Tokyo
http://www.vctokyo.org/jp/