インターネットが普及して、スマートフォンが行き渡り、誰もがブログやSNSで情報を発信しはじめた結果、人々は企業に代表される巨大組織から引き離され、インターネットの荒野に放り出されてしまった。そこで求められるのは、バーチャル空間で150人程度の顔の見える仮想共同体、すなわち「村」を切り盛りしていく才覚であり、スナックのママやマスターがロールモデルだ。――本書『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人にもどっちゃったわけ』は過去20年間の社会変化をこのように総括する。

たしかに、デジタル世界ではあらゆるコンテンツがコピーされ、無償に近づいていく。その中でもっともコピーされにくいものが「人」であることに、多くのクリエイターは気がつき始めている。スナックで消費されるコンテンツも、酒やおつまみなど、すべてスーパーで買えるものばかり。それでも客がつくのはマスターやママの人柄があってこそだ。彼ら・彼女らは一人で水割りを作り、おつまみを用意し、客の愚痴を聞き、時にはカラオケも歌う。このマルチタレントぶりこそ、まさに現代の「原始人」だ。

これを強引にゲーム業界に引き寄せて論を展開すると、ゲーム業界における原始人はインディゲームクリエイターとなる。今や一人でゲームを作り、アプリストアで世界中に販売することが可能になった。その結果、世界は星の数ほどのゲームで満ちている。そこで求められるのは、ゲーム作りもさることながら、コミュニティを作る力だ。そこにはクリエイターとユーザーという縦の関係だけでなく、インディゲーム開発者間における横のつながりも含まれる。それが面倒くさいという人は、会社員でいる方が賢明だろう。

ただし、原始人として生きていける人は少ない。そこで人は組織を作り、役割分担を決めて、アウトプットの最大化をめざす。アップルのスティーブ・ジョブスとティム・クック、そしてソニーの井深勝と盛田昭夫というわけだ。ポイントは異質なものを組み合わせて化学変化を起こす力で、本書ではこれを「編集術」と呼んでいる。くしくも著者二人は雑誌の編集者出身だ。3Dプリンタやデザインの力、組織論など、二人の議論は「編集術」を軸に縦横無尽にわたる。それぞれの立場で様々な気づきが得られる1冊だ。

『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』
著:小林弘人、柳瀬博一、出版社:晶文社
出版社サイト
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