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初代プレイステーションが発売された1994年から3年間、ゲーム業界は「プレステバブル」に沸き、雨後の竹の子のようにゲーム会社が続出した。しかし、現在も存続している会社は少ない。1996年に創業し、今年20周年を迎える株式会社サイバーコネクトツー(当初は有限会社サイバーコネクト)は、その数少ない例外だ。「NARUTOーナルトーナルティメット」シリーズなど、キャラクターゲームに強い制作会社として知られている。

本書「熱狂する現場の作り方 サイバーコネクトツー流ゲームクリエイター超十則」
[http://www.cc2.co.jp/20th_book/](星海社新書、2015年)は、そんな同社が創立20周年記念として出版したものだ。執筆者は代表取締役社長の松山洋氏で、同氏がゲームクリエイターそして経営者になった経緯や、「松山流」のスタジオマネジメント術があかされている。「プレステ世代」のゲーム会社が時勢に埋没することなく、どのように生き残ってきたかが良くわかる内容だ。

1970年福岡市生まれの松山氏は、大学卒業後にコンクリート会社の営業マンを経てサイバーコネクトの創立に参加したという、異色の経歴の持ち主だ。会社に泊まり込み、人の三倍も働いて仕事を覚えた同氏だが、2000年に「社長失踪」による会社消滅の危機を迎える。そこから経営を引き継ぎ、社風を刷新してヒット作を生み出すに至るプロセスは、少年マンガのように起伏に富んでおり、読んでいて痛快だ。

その仕事の根幹には、クリエイターであれば誰もがもつ、非常識ともいえるエネルギーがある。出世作「.hack//」の開発にあたり、脚本の伊藤和典氏(平成ガメラシリーズなど)とキャラクターデザインの貞本義行氏(新世紀エヴァンゲリオンなど)に仕事を発注したくだりは、その好例だ。仕事とは与えられるものではなく、自ら作り出すもの。これには会社存続の危機を経験した松山氏の経験によるところも大きいのだろう。

もっともゲーム業界の変化にあわせて、会社も変化していかなければならない。同社の場合、それは家庭用ゲーム機の進化にあわせて、大作化するゲーム開発スタイルへの適合であり、組織化への挑戦でもあった。そこで重要になるのが副題にもある「熱狂する現場の作り方」だ。本書の出版もまた、そうした仕掛けの一つだろう。おそらく松山氏が本書を一番読んで欲しい読者は、同社の社員ではないだろうか。

同社はPS2時代に「.hack//」、PS3時代に「NARUTOーナルトーナルティメット」シリーズを手がけ、10年続く会社の屋台骨に育て上げた。そして今、PS4世代そしてスマホ世代に対して、さまざまな挑戦を続けている。しかし会社の規模が拡大するにつれて、スタジオマネジメントは困難さを増す。本書はそのための「覚悟」にあふれている。ゲーム業界人なら必読の内容だ。