2012年2月4日、京都国際マンガミュージアムで「変貌する米国コミックス事情の最前線」がひらかれる。

米国はかつて世界中のマンガに影響をあたえた重要な国のひとつであり、現在もさまざまな試みがためされつづけているマンガの盛んな場所だ。

以前紹介した、おなじく京都国際マンガミュージアムで開催中の「マンガスタイル・ノースアメリカ展—これもマンガ?北米で活躍するマンガ家たち」で見られるように、日本マンガスタイルを取り入れる作家もおり、さまざまな国のマンガを吸収し発展させてきた偉大な国でもある。

北米のマンガは長い歴史においてその姿をいくども変えた。とりわけ日本においてはそれが断片的にしか紹介されていないこともあり、なかなか全体像をとらえにくい国とも言える。

「変貌する米国コミックス事情の最前線」は、そのような変貌しつづける米国マンガの現状を知る恰好の機会となるだろう。

登壇するのは小田切博氏、杉本ジェシカ氏、椎名ゆかり氏、三浦知志氏、小野耕世氏の5人。

小田切氏は『戦争はいかに「マンガ」を変えるか—アメリカンコミックスの変貌』(NTT出版、2007年)や『キャラクターとは何か』(ちくま新書、2010年)の著者であり、小野氏との共編で「別冊本とコンピュータ (6):アメリカンコミックス最前線」(大日本印刷ICC本部、2003年)という本も出している。米国マンガの全体像とその多様性に意識的な数少ない研究者のひとりで、「『マンガ』の背後にあるもの」という題で講演をおこなう予定。杉本氏は以前におなじく京都国際マンガミュージアムで「バットマン研究会」を企画・司会した、京都精華大学マンガ研究センターの研究員。「北米でのマンガスタイルの開拓者Colleen Doraniの事例より」という研究発表をおこなう。椎名ゆかり氏は海外マンガ家の日本におけるエージェントでもあり、日米マンガ市場の現状をよく知る人物のひとり。「21世紀以降のアメリカでのマンガスタイルの発生と変遷」と題された講演をおこなう。三浦和志氏は初期アメリカン・コミックスをおもに研究する、アカデミックな世界ではめずらしい、海外のマンガを専門とする新進気鋭の研究者。「近年の古典コミックのアーカイブ研究の状況について」という研究発表をおこなう。小野氏は海外マンガを日本に紹介しつづけてきた人物であり、今なお現在進行形の海外マンガに興味をもちつづけている希有な人物だ。「1950年代のコミックブックへの攻撃について」という講演をおこなう予定で、常に最前線で活躍してきたからこそ知りえた、貴重な証言を聞くことができるだろう。

アメリカの最新マンガ状況だけでなく、最新のマンガをめぐる状況を知るまたとない機会だ。とりわけマンガのアーカイブは日本でも現在注目のトピックであり、アメリカの取り組みは興味ぶかい。

アメリカでは、オハイオ大学などの公的な機関によるものだけでなく、民間組織あるいは個人によるアーカイブとその公開も盛んだ。デジタル・アーカイブであれば、その手法だけでなくその成果も日本に直接関係してくる。また、印刷物としてのアーカイブのひとつの形である復刻版も、近年の海外マンガ翻訳ブームの後押しを受けて翻訳出版される可能性がある以上、日本と無関係とは言えないだろう。実際アングレームのマンガフェスティバルで聞いた話では、日本では絶版になって久しい小野氏が訳した『リトル・ニモ』が、サンデー・プレス・ブックス社の原寸大復刻本で翻訳発売される予定があるという。

アーカイブ領域においても、Googleなどをふくめて北米の存在は無視できない。

「変貌する米国コミックス事情の最前線」

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