ギャラリースペースのThe Container(目黒区、東京都)で、中ザワヒデキ個展「不可視関数の方式と方法(Systems and methods in hidden functions)」が2012年9月10日にオープンし、同年12月10日まで開催する。

本展覧会では、タッチパネルを使ったインタラクティブなインスタレーション《不可視関数試論》(1996年)と、絵画を構成する1ピクセルの色を独自のアルゴリズムによって文字へ変換して配列した絵画《二九字二九行の文字座標型絵画第一番》《二九字二九行の文字座標型絵画第二番》(いずれも1997年)の全3作品が展示される。

本展覧会は、中ザワ氏が「バカCG」(1990−1996年)から「方法絵画」(1997−2005年)へ推移した時期(イラストレーターから美術家として活動を始めた時期でもある)を再評価すると同時に、メディアアートが抱える作品保存の問題を投げかける貴重な機会としても興味深い。

メディアアート保存の観点から、《不可視関数試論》がほぼオリジナルの状態で再展示されている点が特筆に値する。同作品はナディアパーク内青少年文化センター(名古屋市、愛知県)の常設展示のために委託作品として制作され、1996年から2003年まで展示された後、蒲郡情報ネットワークセンター・生命の海科学館(蒲郡市、愛知県)へ移設された。さらに、2010年に篠山チルドレンズミュージアム(篠山市、兵庫県)へ移設されたが、同ミュージアムの2011年12月一時閉館に伴い、中ザワ氏が引き取ることになった。

同様にナディアパークの委託制作の一つであった岩井俊雄《映像装置としてのピアノ》(1995年)も同ミュージアムで展示されていたが、両作品とも十分なメンテナンスが施されず、正常に動作しない状態であった。《不可視関数試論》は今回の展覧会のために、オリジナルと同機種のモニターとタッチパネルの交換が行われ、晴れて展示が実現した。

本作品のタッチパネルに用意された120アイテムの言葉は、CGイメージの形やエフェクト、音声を指定するコマンド的な役割で、体験者は最大20アイテムを組み合わせて動的なドローイングを創作することができる。また、選ばれた言葉は字幕テキストのように並べられて電光掲示板へ表示される。「再現」ボタンによってドローイングの創作プロセスを鑑賞することもできる。

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《不可視関数試論》/ナディアパーク内青少年文化センター/画像提供:中ザワヒデキ

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《不可視関数試論》/蒲郡情報ネットワークセンター・生命の海科学館/画像提供:中ザワヒデキ

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《不可視関数試論》/篠山チルドレンズミュージアム/画像提供:中ザワヒデキ

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 「Systems and methods in hidden functions」の展示風景/2012年/写真撮影:James Bingham/画像提供:The Container/© Nakazawa Hideki

 《不可視関数試論》が制作された1996年はインターネットが一般へ普及し、「マルチメディア」という言葉に象徴されるコンピューターを使ったインタラクティブな作品やCD-ROMによる作品が多く制作された時期と重なる。筆者は、正直に言えば、半ば伝説化していた作品を見ることができるという期待に反して、時代遅れともいえるマルチメディア作品をどのように受け止めるのだろうか、という不安もあった。1990年代はデジタル技術の変動がめまぐるしく、当時の時代背景でしか生まれ得ない先駆的な作品がある一方で、一時的なテクノロジーへの熱狂による単なるデモや陳腐な作品も見られるためだ。

しかし、展覧会場を訪れて、そのような不安は吹き飛んだ。CGの画像形式の一つである「ビットマップ」を徹底的に追求し、コンピューターで絵を描くことやプログラミング行為への本質的な問いが本作品の強度を支え、古くさい印象はなく、むしろ、15年経た作品を目の前にして鮮やかに見えてくるものがある。本作品のソフトウェアは台本のように記述する簡易的なプログラミング言語(スプリクト言語)で、当時主流だったLINGO(リンゴ)によって制作された。中ザワ氏によれば、そのプログラミング体験が、後の「方法絵画」へつながるアイデアが生まれる契機になったという。

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《不可視関数試論》「LINGO」デスクトップ画面/画像提供:中ザワヒデキ

メディアアートは評価が高い作品であっても、制作して数年経過してしまうとオリジナルの状態で鑑賞できるのは希である。また、日本ではメディアアートが美術館等施設にコレクションされることは少なく、多くの場合はアーティスト個人に作品保存の対策が委ねられる。定期的なメンテナンス(修理、バージョンアップ、現行機器の代替など)やオリジナルと同機種の機材をバックアップとして確保しつづけるためには、コストがかかる上に専門的な知識が求められる。

そういった状況のなか、中ザワ氏は電子機器を使用した作品の環境をなるべくそのまま残すことを実践している。また、1990年代前半に展開したフロッピーディスクを媒体にしたアートマガジン「JAPAN ART TODAY」を読む授業を美学校(千代田区、東京都)で行う。
このような中ザワ氏の実践や本展覧会は、制作当時の状態でメディアアートを経験する意義や、ニューメディア保存の重要性を示唆する。長期的に作品やその資料を保存できなければ、後世の人々がメディアアートの歴史化と再評価する可能性を奪ってしまう。過去のメディアアート作品の延命にもつながる展示や発表の機会が増えていくことを期待したい。

参考文献:石井香絵著『中ザワヒデキの美術』トムズボックス、2008年

資料提供協力:中ザワヒデキ、Shai Ohayon(キュレーター、The Container)

中ザワヒデキ「Systems and methods in hidden functions」展

http://the-container.com/