テレビアニメの歴史を飾るヒット作の放映35周年を記念して、昨年、大阪から始まった『機動戦士ガンダム展 THE ART OF GUNDAM』。東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催されたその巡回展(9月27日まで)も、盛況のうちにその幕を閉じたが、ここでその見どころを改めて振り返っておこう。

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 森アーツセンターの近未来的な佇まいが雰囲気を盛り上げる中、入場するとさっそく「ホワイトベース」(『機動戦士ガンダム』に登場した宇宙空母)のデッキを模した巨大なセットが待ち受けていた。これが「第1章 オープニングシアター『大気圏突入』」と題された最初のコーナー。新作のCG映像を鑑賞するためのシアター仕立てで、デッキの窓に見立てられたモニターの中では、ガンダムと敵側のモビルスーツ(本作登場の人型巨大ロボットの総称)とが迫力の空中戦を繰り広げている。規模は異なるものの、アミューズメントパークのアトラクションに迫る出来栄えだ。

 しかし本展最大の見どころは次の「第2章 メイキング・オブ・ガンダム」で、『ガンダム』総監督の富野喜幸(現・富野由悠季)、アニメーション・ディレクターの安彦良和、美術監督の中村光毅、そしてメカニックデザイナーの大河原邦男をそれぞれフィーチャーした4つのコーナーで構成されている。

 まず「1.物語のはじまり」では『ガンダム』放映(1979〜1980年)以前の、企画段階における初期設定が公開され、作品のモチーフの一つとして『十五少年漂流記』があったこと、またタイトルが『ガンダム』に決まる以前に『フリーダムファイター』や『ガンボーイ』のような試案があったことを、富野総監督の企画書などを通して知ることができる。登場人物の名前も主人公の少年「アムロ・レイ」が初期案では「本郷東」であったり、ヒロインの一人「ミライ・ヤシマ」が「木樽未来(来たる未来)」であったりと、傑作誕生に至る試行錯誤の跡を示す資料が惜しげもなく公開されていた。ガンダムなど主役メカのデザインが、玩具化を前提としたものから今ある形に変わっていく過程で、安彦良和と大河原邦男が交わしたラフデザインのやり取りが大きな役割を果たしたことも、このコーナーからうかがえる。

 続く「2.近未来の宇宙で」のコーナーは中村光毅による『ガンダム』の美術ボードや背景画で 飾られ、スペース・コロニーの模型が展示される一方で、壁面にはコロニーが浮かぶ宇宙が大きく描き出されていた。中村光毅のデザインが作品の空間設計だけでなく、家具や調度品にいたるまで多岐に渡っていたことがよく理解できる、こちらもまた見応えのある展示といえよう。

 また「3.戦争と人間の性」は安彦良和によるアニメの原画を中心に構成され、彼の比類なき画力を間近で見ることができる。透明なセルにトレースされた段階で失われてしまう前の原画ならではの躍動感、緊張感が、実物であればこそいっそうリアルに感じられる醍醐味は、展示を通してのみ味わうことができるものだ。どの原画も、そういうものを資料として残しておく習慣がなかった当時の状況のなかで、かろうじて廃棄を免れた貴重な資料であることを知ればなおさらである。

 さらに「4.激突・モビルスーツ」では、ガンダムを始めとするモビルスーツの革新的なメカニックデザインを生んだ職人デザイナー、大河原邦男の業績が紹介され、圧巻の展示に見とれてしまった。壁面いっぱいに大量のモビルスーツの設定画と、『ガンダム』放映30周年を記念して出版された大河原邦男画集「原典継承」(2009年)から、その原画が飾られている。東京では本展と同時期に『メカニックデザイナー 大河原邦男展』(上野の森美術館)が開催中で、ファンにとっては時ならぬ大河原邦男リスペクトの連続に喜びもひとしおだろう。加えてガンプラ(モビルスーツのプラモデル)で立体的に再現された名シーンのジオラマパネルや、最終話で吹き飛ばされたガンダムの頭部を1/1で再現した巨大モデル(写真左端)も配置されている。『ガンダム』の人気が第1章のホワイトベースのデッキと同様に、立体化しても違和感のないメカの魅力によって支えられていたと実感できる展示である。

 そして、これら最初の『ガンダム』に的を絞った展示の後は、OVA『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』や今秋放映開始のテレビ版『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のような、シリーズ最新作の紹介で締めくくられていた。「第3章 ガンダムは終わらない」のタイトルどおり、『機動戦士ガンダム』に始まるこの人気シリーズは、これからもその歴史を積み重ねていくのだから。