平成30年度メディア芸術連携促進事業 研究プロジェクト 活動報告シンポジウムが、2019年2月23日(土)に国立新美術館で開催された。メディア芸術連携促進事業は、メディア芸術分野における、各分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により新領域の創出や調査研究等を実施する事業だ。本事業の目的は、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用と展開を図ることにある。本シンポジウムでは、事業で推進している2つの研究プロジェクトの活動報告とパネリストによる討論・提言が行われた。本稿では「アニメーター実態調査」調査報告、パネルディスカッションについてレポートする。

「アニメーター実態調査」調査報告

報告者:一般社団法人 日本アニメーター・演出協会 事務局長 大坪英之

「アニメーター実態調査」はアニメーション制作者の仕事や生活の現況、およびアニメーターの意識の実態を明らかにする目的で行われた。2018年11月6日~12月19日にかけてメディア芸術コンソーシアムJV事務局と一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)が協力して実施し、調査報告書としてまとめた。同様の調査は、2005年に公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会(芸団協)が行い、『芸能実演家・スタッフの活動と生活実態調査報告書2005年版:アニメーター編』としてまとめ、2009年にはJAniCAが実施し、『アニメーター労働白書2009』として報告した。そして2014年には芸団協のJAniCAが共同して調査を行い、「アニメーション制作者実態調査報告書2015」(以下、2015年版)として公表されている。

大坪氏の報告内容について、前回2015年版との比較で主な項目をまとめる。

①男女年齢別分布
男57.6%、女41.4%で、全体の平均年齢は39.26歳なのに対し、男性平均は42.03歳、女性平均は35.41歳と、女性の方が若い年齢層が多いことがわかった。2015年版では平均年齢が34.3歳、男性平均は35.8歳、女性平均は31.9歳であり、全体に5歳ほど底上げされていた。

②年収
平均値が440.8万円、中央値が370万円であった。2015年版では平均値332.8万円、中央値が300万円であったことを考えると、全体的に増加しているが、年齢が底上げされていることもあり、単純に増加傾向にあるとはいえない。

③就業形態
割合の高い4つは、フリーランス50.5%、自営業19.1%、正社員14.7%、契約社員6.0%だった。就業場所は制作会社が68.3%、自宅が27.2%であったことから、自営業と一部のフリーランスが自宅で作業をしている状況が察せられる。2015年版の就業形態は契約社員が23.1%、就業場所は制作会社が90.6%という結果を鑑みると、制作進行の従事者が2015年版で24.4%だったのに対し、今回は8.1%と大きく減少したことにより割合の変化が起こっていると考えられる。

④契約締結状況
必ず契約書を取り交わしている13.9%、時々取り交わしている31.4%、まったく取り交わしていない36.4%、取り交わす必要がない17.3%という結果になった。このうち、取り交わす必要がないと答えた制作者以外を対象として、基本的には取り合わしたいと思う61.2%、取り交わしたい仕事もある24.4%と、8割以上は契約書を取り交わしたいと考えていることがわかった。また、必ず契約書を取り交わしていると時々取り交わしていると答えた制作者のうち、基本契約については、締結している54.9%、締結していない12.7%、わからない31.8%だった。一方、制作会社からの発注書については、交付がある48.0%、交付がない31.2%、わからない13.3%。一般的な会社だと基本契約を締結していたり、発注書を発行していることを考えると低い値である。契約書の締結については、2015年版とそれほど変わっていなかった。

「アニメーター実態調査」パネルディスカッション

パネリスト:一般社団法人 日本アニメーター・演出協会 代表理事 入江泰浩
      独立行政法人 労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー 松永伸太朗
コーディネーター:一般社団法人 日本アニメーター・演出協会 事務局長 大坪英之

普段は監督や演出など、アニメーション制作に従事している入江氏、労働社会学を専門として、アニメーターにインタビューなどを行い、労働状況の調査を行う松永氏を迎え、大坪氏を進行役にパネルディスカッションが行われた。

パネリストの入江氏(左)と松永氏(右)により、現場の生の声が届けられた

まず、今回の調査の妥当性について明らかにするため、大坪氏からは調査方法の詳細な説明がなされた。松永氏はアニメーターの数がわかっていないなかで、調査をするのは難しく、調査設定の仕方やアンケートの配布の仕方にはまだ工夫の余地があると指摘した。
また今回の調査結果について入江氏は、監督や作画監督など、もともと高い収入を得ている職種の収入がさらに上がっている点に関して、そういう層が実際に現れはじめているのは感じる、と述べた。続いて松永氏は、2015年版と比較して年収が上がっているが、それは勤続年数が伸びたことによる収入増加ではないかと意見。入江氏は、一般の全企業年収も増加していることを理由に挙げ、アニメ業界全体が何かを大きく改善した結果上がっているわけではないと思う、とした。労働時間が減少し、休日日数が増加していることに関して松永氏は、現場での実感と一致しているという。入江氏も、現場では「泊まり込みはよくない」という感覚が以前よりも浸透しつつあると話した。
アニメ業界における契約について入江氏は、調査報告に「契約書を取り交わしたくない」との回答があったのは、ひとつの仕事は短いと1週間、1カットだと1日の場合もあり、そうすると1カ月に何枚もの契約書を書かなくてはならなくなるのが現状であり、これが交わしたくないと答えた理由ではないかと述べた。「わからない」と答える回答者が多かったのは、これまでそのような通例がなかったからだと、業界での状況を伝えた。
最後の「アニメ業界はどのようにすればよくなるのか」というテーマで、松永氏は制度面がきちんと成り立っていないが、現場で助け合って50年ほど続けてきたと、業界のあり方について説明。しかし昨今では、若手のアニメーターから「技術を教えてくれない」「話す相手がいない」といった声が聞かれることから、そのあり方がくずれてきたかもしれないと指摘した。また、労働環境の向上については、労働組合などの設立を提示し、職種と年代が広いため、どのようなニーズがあるのか、調査で把握していくことが大切だとした。
また入江氏は、制作する作品本数が増えた昨今、スタッフを確実に確保するために、核となる人物を制作会社が囲う流れがある。そのために制作予算を増やす努力を行っている会社は一部に出はじめている。しかし会社に入るお金が増えても限界はあるため、動画や制作進行の収入増までには至っていない。今後を考えると、若い世代により資金を還元することを目的にした資金増を各社目指す流れになるべきだとまとめた。

「アニメーター実態調査」調査概要の報告
http://www.janica.jp/survey/sympo2019_handout.pdf


(information)
平成30年度メディア芸術連携促進事業 研究プロジェクト 活動報告シンポジウム
日程:2019年2月23日(土)
会場:国立新美術館 3F 講堂
参加費:無料
主催:文化庁