この2012年の夏、興味深い本が刊行された。ジーン・イポリト(Jean M. Ippolito)氏の『The Search for New Media: Late 20th Century Art and Technology in Japan』(Common Ground Publishing, 2012)。「テクノロジーとアバンギャルド」「ポストモダニズムとデジタル・メディア」、そして「21世紀のアートとテクノロジー」の3部構成で、コンセプト(concept)から日常品(commodity)に変貌してきたデジタル・メディアを日本美術史と接続させる試みである。

著者のイポリト氏は、1992年から1993年までフルブライト・フェローシップで筑波大学に在籍していた。その期間中に行った調査を基に書いたのが、博士学位論文『A Critical Analysis of the Computer Graphic Art of Japan Using Six Case Studies』(The Ohio State University, 1994)。1980年代から1990年代初頭まで、CG分野で世界的に頭角を表していた日本人のCGアーティストに関するこの論文には、当時筑波大学で教鞭を執っていた河口洋一郎氏をはじめ、出淵亮一朗氏、藤幡正樹氏、本吉尚子氏、土佐尚子氏、長幾朗氏の6人が取り上げられていた。

この論文を深化・発展させた今回の『The Search for New Media』では、第2部で、河口氏、藤幡氏、土佐氏を「デジタル・メディア・アートのパイオニア」として、他の3人を「伝統的日本芸術に非伝統的アプローチを試みたアーティスト」として紹介している。そして第3部では、河口氏、藤幡氏、土佐氏の活動に重点を置きながら、その前後世代のアーティストの多様な活動を概括している。約20年の時間が変えてきたのは、「CG」という用語の意味合いだけではないという事実が非常によく伝わってくる部分である。

日本語以外の言語で書かれたカタログ、論文、記事などは多数存在するが、単行本のボリュームで日本のメディアアートを紹介する英語著作はまだ珍しい。したがって、この書籍が海外の読者にとって極めて重要な情報源となることは自明である。その反面、日本国内の読者にとって読み応えのある部分は、イポリト氏の作家論的分析と日本のアートがいかに海外で受容されてきたのかに関する記述であろう。

限られた時間と情報で他国の歴史を研究する研究者なら誰でも必然的に抱えることになる「限界」がある。とはいえ、この事実を誰より痛感している筆者でさえ、本書におけるいくつかの「空白」は気になった。長期間にわたる研究に基づく力作なので、単なる情報不足よりはイポリト氏の観点と選択として見た方が正しいだろうが、とりわけ、1990年代の日本のメディアアートの歴史を描くにあたり、キヤノン・アートラボの活動にほぼ触れられていなかったことは指摘しておきたい。

『The Search for New Media: Late 20th Century Art and Technology in Japan』

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