メタバース、NFTアート、オンライン上映……コロナ禍を経たリアル・バーチャル展示とアーカイブの活用

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これまで美術館や博物館では、主に展示という形でアーカイブを活用してきました。しかし、コロナ禍で従来と同じ方法では多くの人に作品を届けることが難しくなり、各ミュージアムではバーチャル展示やオンラインイベントの開催など、さまざまな取り組みを行っています。

そこで得た学びをどのように活かせば、より良いアーカイブの活用につながるでしょうか。民間の取り組みも参考にしながら考えるため、東京藝術大学大学院映像研究科教授の岡本美津子さん、AniqueInc CEOの中村太一さん、WAITINGROOMオーナー・ディレクターの芦川朋子さんにお集まりいただき、MAGMAsessionss総合ディレクターの山内康裕司会のもと、トークセッションを開催しました。

総コメント数が10万件を超えた『進撃の巨人』オンライン展覧会

山内:まずは、コロナ禍がマンガやアニメーション、ゲーム、メディアアート業界それぞれに及ぼした影響と、オンラインを活用した新たなチャレンジについて話していけたらと思います。

たとえばマンガ業界でいうと、毎年年末にジャンプ4誌合同イベント『ジャンプフェスタ』が行われるのですが、2020年はコロナの影響でオンラインのみの開催だったところ、2021年はリアルとオンラインのハイブリッドでの開催となりました。オンラインなら遠方の方も参加できるし、物販も会場とオンライン両方からの収益が見込めるため、このような形になったのではと考えています。

僕はコロナ収束後もこうした流れが続いていくと予測しているのですが、みなさんはどう思われますか?

中村:この2年で、企画者側にはオンラインを活用したイベントに関する豊富な知見が溜まったと思います。今後はリアルとオンライン両方でイベントを展開していく事例が増えていくのではないでしょうか。

僕たちもコロナ禍でリアルイベントが開催しづらくなったことを受け、2020年からオンライン展覧会サービスを始めました。最初にモニターを呼んでテストを行ったときに感じたのは、鑑賞体験そのものはリアルには敵わないということ。ただ、作品が好きなモニター同士なので、展示物を観ながら感想を語り合い、とても盛り上がったんです。これは実際の美術館ではできないことですよね。大声で喋っている集団がいたら迷惑になってしまいますから。

ここにオンライン展覧会の醍醐味があるのではないかと考え、コメント機能を実装しました。作品を見て感動した人がその感情を言語化し、それを見た人がまた感情を揺さぶられコメントを残す。来場者のコメントが展示物の一部になっていくんです。2021年秋に、『進撃の巨人』最終巻発売に合わせて開催したオンライン展覧会は、総来場者数30万人超、総コメント数10万件超という熱量あふれるイベントとなりました。

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岡本:オンライン展覧会を拝見して、「感動は美術館やギャラリーといった空間に紐付いて起こるものだ」と改めて感じました。キュレーターは来場者をどう誘導して、どういう順番で見せていくかを考えるわけですが、それがメタバースにおいても見事に設計されていたと思います。

中村:ありがとうございます。魅力的な作品ほどキャラクターに紐付いたファンが多いものですが、リアルの場合は空間の制約があるため、どうしても一人ひとりのキャラクターにフォーカスすることができません。オンラインはその制約がないので、一部屋丸ごとキャラクターの部屋として、その人生を巡っていく体験を設計することができました。

山内:岡本先生に伺いたいのですが、コロナ禍でアニメや世界の映画祭はどういった影響を受けたのでしょうか。

岡本:アニメ分野ではネット配信・視聴が増え、日本動画協会の統計では2019年に685億円だった配信市場が2020年は930億円になったという結果が出ています。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、ネット配信でTVシリーズをおさらいした方が劇場に足を運ぶという好循環が生れた事例ですね。

映画祭はほとんどがオンラインでの開催となりましたが、商談の機会が失われるため延期または中止となったところもありました。映画祭のディレクターは、人と人との出会いという映画祭の醍醐味が失われたことを嘆き、早く対面式に戻したいと話していました。一方で、オンラインには現地に行けない人も参加できるというメリットがあります。リアルとオンラインの両方を用意すると、双方の良いところを享受できて良いのではと思います。

芦川:アート業界でも、さまざまな映像作品がオンラインで上映されています。これは映像作品にとって非常に良い状況だと考えています。なぜかというと、美術館では席やヘッドフォンの数が限られていて、ちゃんとした環境で観てもらえないことのほうが多かったんです。オンラインなら1時間ほどの長い作品もパーソナルな空間で落ち着いて観ることができます。これはぜひ今後も続いてほしいですね。

山内:マンガもコロナ禍で電子書籍の読者が大幅に増え、過去にヒットした作品を持っている作者がマネタイズできるようになりました。ネガティブなことばかりでなく、ポジティブな影響もあったということですね。

NFTは新しいコミュニティ形成の可能性を秘めている

山内:ブロックチェーンやNFT、コミュニティの可能性も気になるところです。芦川さんはNFTを活用した展覧会を開催されたそうですが、詳細を教えていただけますか?

芦川:2021年の10月から11月にかけて、NY在住のアーティストユニット・エキソニモの展覧会「CONNECT THE RANDOM DOTS」を開催しました。アーティストが来日できないことを前提とした構造の展覧会です。本を作って各ページにエキソニモがドローイングし、リアル会場に展示するとともにウェブ会場でも全貌が見られるようにしました。そして、各ページのオーナー権をNFT化し、ウェブサイト上で販売したのです。

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作品は、番号が振ってある点を順番につないでいくと絵が浮かび上がる「点つなぎ」という子どもの遊びから着想を得て制作されています。アーティストがつないだ点が展示されて、それがウェブ上で購入できて、オーナー同士がブロックチェーン上でつながることができる。言ってみれば、ブロックチェーンも点つなぎなんですよね。今回の展示を通して、NFTは新しいコミュニティ形成の可能性を秘めているなと感じました。

岡本:過去からずっと、芸術作品というものは販売額ではなく人々の言説により評価されてきましたよね。NFTでも、コミュニティに言説が溜まることでさらに価値が高まっていく。お話を聞いていて非常に面白いなと思いました。

芦川:これまで、コレクターは自分の作品を人に見せる機会や場所がありませんでした。今後はコレクター同士がNFTを通してつながり、「この作品を持っている人なら趣味が合うかも」とほかのコレクションを覗いたり、「今度は何を買ったの?」と見せあったりできます。作家も自分の作品を持っている人と交流できる。新しいつながりの作り方だなと思います。

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中村:別の視点からのコメントになりますが、アニメーションのように監督や作画や音響などさまざまな作り手が関わる作品の場合、それぞれの立場からNFT作品が提供されるようになるかもしれませんね。

山内:デジタルデータが価値を生むようになった一方で、フィジカルの価値についてはどう思われますか? 僕たちは身体を持っているから、どうしてもフィジカルなものに価値を感じやすい部分があるのかなと思うのですが。

芦川:ダミアン・ハーストがまさにその実験を行っています。『The Currency』という1万点のドローイング作品なのですが、購入した人は1年後にNFTかフィジカルかを選ばなければいけません。前者を選んだら、物理的な作品は破り捨てられる。後者を選んだら、NFTは破棄される。どちらを選ぶ人が多くなるかは来年までわかりませんが、そうした人々の動向までも含めた作品なんです。

山内:昔は音楽もCDジャケットを含めて価値を感じていたけど、いまの若い子はそれを必要としていませんよね。耳で聴くものについては、フィジカルはなくてもいいということなのかもしれない。目で観るものに対して人が何を欲しがるのかは、これから結果が出るのでしょうね。

岡本:マンガやアニメーションの制作現場もどんどんデジタル化していて、最初からフィジカルなものがない状況になりつつあります。

山内:これまでメディア芸術祭などの展覧会ではラフスケッチなどを展示していましたが、ボーンデジタルが当たり前になると、展示できるものがなくなってしまうのではと心配しています。

アーカイブという点においても、デジタルデータよりも紙などのフィジカルで持っていたほうがむしろ管理しやすいのではないかと考えています。記録媒体が古くなると取り出せなくなってしまう。デジタルデータは劣化しないけれど、千年後も再生できるかはわからない。実は紙のほうが、ずっと後まで残るのかもしれません。

芦川:アート業界でも、ナム・ジュン・パイクのブラウン管TVを使った作品などをどう残していくかという課題があります。ただ、制作当時のまま残すのではなく、たとえばアーティストが制作意図を語った手紙や、その言葉自体をアーカイブしていく、という方法もあるのではないでしょうか。もしかしたら、その時代を生きる人のアイデアによって新しく生まれ変わる作品もあるかもしれません。アートが生きているようで面白いですよね。

岡本:藝大の建築学科教授の金田充弘先生は「どんなに優れた建築も最後には取り壊される運命にある」とおっしゃっていて、建築物を3D計測してデータで残すことに取り組まれています。インスタレーションをはじめとしたメディアアートもアーカイブが難しい分野ですが、3Dデータにすればどういった展示形態だったかも含めて空間ごと残せるので、威力を発揮するのではないでしょうか。

コロナ禍の学びを踏まえて、これからのミュージアムや企画展のあり方を考える

山内:メタバースなど新たな場ができるなかで、美術館やギャラリーのようなリアルな場があることにどういった意義があるのか、今後アーカイブを活用しながらどういった企画展が開催できるのか、その可能性について伺えたらと思います。

中村:リアルな展示物から受ける圧倒的なパワーはメタバースで再現できるものではないし、コロナ禍を通してよりリアルの感動は強まっていると思います。そうした前提を踏まえつつ、オンラインでのトライアルをリアルにどう活かしていくかという視点で考えると、たとえば作品の横にデジタルディスプレイがあり、オンラインで感想を書き込むとリアルタイムで掲示される。最後にそのコメントも含めてアーカイブする。そういうインタラクションがある企画展も面白いのではないでしょうか。

さらに言うと、鑑賞者の感情や感動はそのときの空気が反映されたものなので、たとえば『進撃の巨人』オンライン展覧会を10年後に開催したら、完結後すぐのいまとは違ったコメントが集まるはずです。同じ作品を扱っていても、また違う味わいの展覧会になる。もし、僕がいまオンライン浮世絵展をやるとしたら、当時浮世絵に感動していた人のコメントを見せたいなと思います。そうすると、「この時代の人はこの作品をこう楽しんでいたんだ」という新たな鑑賞体験になるはずです。

山内:岡本先生に伺いたいのですが、教育の面からアーカイブに期待することはありますか?

岡本:ボツ案ですね。たとえば、2019年に東京国立近代美術館で開かれた『高畑勲展』では、宮崎駿さん、奥山玲子さん、小田部洋一さんが描いたヒルダ(『太陽の王子ホルスの冒険』のヒロイン)のスケッチが展示されていました。最終的に採用されたのは森康二さんのヒルダです。キャラクターデザインを学ぶ学生にとっては、それぞれの違いや選ばれた理由を考えることが学びになるんです。そういったボツ案をぜひアーカイブして公開してほしいなと期待しています。

山内:複数人でつくるアニメーションやマンガはボツ案が残るけど、マンガは作者の脳内にしかボツ案がない場合もあります。残っているものに関しては、メモ程度でもいいので保存してほしいですね。

芦川:ボツ案ではないのですが、公の美術館でも展覧会を開く際にオンライン等で裏話を語るのはどうかと思っています。「この展覧会を開くときにこんな苦労があって、こう解決した」といったような、カタログには載らない細かな裏話がたくさんあるはずです。一般の方からすると美術館って少し敷居が高いイメージがあると思いますが、そういった学芸員の日常や愚痴が聞けると、もっと身近になるのではないでしょうか。

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山内:さて、そろそろ終了の時間となりました。最後にみなさんから一言ずつ今日の感想をお願いします。

岡本:メディア芸術分野は複製芸術とも言われていて、コピーライトはあるもののモノとしての属性は元々ありません。その「コピーできる」という点、「これはみんなのものなんだ」というところにロマンを感じていた人からすると、デジタルでも一点ものの作品として投資の対象となり価格が上がっていくNFTの性質はある意味真逆のものに見えるのではないでしょうか。

でも、今回のトークセッションを通して、オープンなNFT、大衆芸術としてのNFTもありえるのではないかと感じました。コミュニティや新しい可能性を探求する場になり、それが最終的には制作者に還元されて。「数十億円で現代アート作品が売れた」といったニュースばかりに惑わされず、民主的で楽しいNFTのあり方を考えていきたいですね。

中村:エキソニモのリアルとオンラインの多層的な展示の話であったり、ボツ案のアーカイブ化の話であったり、こうしておふたりとお会いしなければ出てこない視点やアイデアをたくさんいただきました。これから企画を考える上でもすごくプラスになったなと思っています。

芦川:やっぱり「人」だなと思いました。人がいて、つながって、面白い化学反応が起こる。コロナで人に会えない苦しい時期を経て、人同士をつなげる方法やツールが増え、可能性が広がったと思っています。これからどういった形でトライアンドエラーしながら面白いことをしていけるか、今回のお話をしてさらにワクワクしてきました。

山内:このトークセッションを行う前まで、マンガやアニメーションは読む、観るという体験で完結する一方向のメディアだと思っていました。でも、実はそこにコミュニティやコミュニケーションがあって、いまはそれを可視化できるし記録することができる。そういったことも含めてアーカイブしていくことが次世代に対してすべきことなんだろうなと思いました。

オーラルヒストリーをいまのうちにまとめておくと、貴重な記録を数百年後に残すことができる。その際にブロックチェーンの技術も使えば、誰から誰に伝わったかもアーカイブすることができます。ちゃんと考えて適切な施策を打つことができれば、いまはアーカイブにとってポジティブな状況なんだろうなと感じました。本日はありがとうございました。

飛田恵美子

編集

松尾奈々絵(レインボーバード合同会社)

撮影

坂本麻人(Whole Universe)

会場協力

100BANCH

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