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第2回:マンガ単行本の登録データ件数比較


レポート:三原鉄也(ITコンサルタント)

※このコラムの概要や背景についてはこちらをご一読ください。

[MADBマンガ単行本について]

マンガの単行本は1冊の本が1巻・2巻と続刊することが一般的です。MADBでは、この単行本の1冊々々を単位とする「マンガ単行本」と、続刊された複数の本をひとまとめにした「マンガ単行本シリーズ」の2種類のデータを作成・登録しています。
マンガ単行本のデータはマンガを中心に扱う図書館・博物館・美術館等から選ばれた連携機関から提供された所蔵目録データ・書誌データを統合することで作成されています。マンガ単行本シリーズのデータはマンガ単行本のデータに記述されたタイトルやシリーズなどの項目から同一シリーズの判定を行い、作成されています。
MADBでは、マンガ単行本として登録する対象は連携機関から提供されるデータに基づいて決められています。より具体的には、国立国会図書館(NDL)の書誌データにおいて図書の分類を示す日本十進分類法の分類「726.1漫画.劇画.諷刺画」が与えられているもの、またはその他の連携機関でマンガ単行本(図書)として所蔵されているものを登録しています。

[マンガ単行本の比較対象データと比較方法]

MADBには明治期からのマンガについてデータが登録されていますが、この記事では時期による比較対象データの状況の違いを考慮して、1951年〜1980年と1981年〜2019年の2つの時期で異なる比較対象データを用意しマンガ単行本の登録データ件数の比較を行いました。

1951年〜1980年頃は戦後のマンガ単行本の勃興期とも言える、全国的な商業出版流通と貸本や赤本と呼ばれるルートの出版の隆盛と衰退を経て、さらにコミックスと呼ばれる現在の形態・流通ルートが定着していく時期に当たります。納本制度によりあらゆる書籍を収集するNDLにおいてもこの時期のマンガの所蔵は少ないのが現状です。出版された本そのものだけでなく、マンガ単行本に関する統計や資料も少なく、その実態は未だ明らかになっていません。
そこで1951年〜1980年については、①MADBに登録されているマンガ単行本と、②その内のNDLに所蔵があるものに加えて、③「出版年鑑」(出版ニュース社)の1951年版から1981年版に掲載されている目録と④明治大学現代マンガ図書館の整理済み所蔵目録データの記載件数を計上し、計4つのデータを用意して比較を行いました。
「出版年鑑」は2018年まで年1冊毎年発行されていた出版業界の年鑑で、表題の前年に発行された全ての書籍の目録が掲載されており(ただし実際には掲載漏れがあるものと考えられます)、同時代の商業出版物をおおよそ網羅する代表的なデータです。この調査では、この目録の項目の分類・著者・出版社・判型・価格からマンガ単行本に相当するものを判別し、計上しました。
明治大学現代マンガ図書館は1978年に内記稔夫氏が、自身が経営する貸本屋の蔵書を基に開館した、日本で専らマンガを所蔵する図書館としては最初期に設立された図書館です。同館の所蔵はこの時期におけるマンガ単行本のものとしては最大規模のものであると見なされており、今回の比較に用いました。

※ 明治大学現代マンガ図書館の所蔵資料の目録データ整備が進められており、MADBへのデータ登録も2022年度中に予定されています。

1981年〜2019年については、①MADBに登録されているマンガ単行本と、②その内のNDLの所蔵件数、③「出版指標年報」(出版科学研究所)に掲載された年ごとのマンガ単行本(同資料では「コミック本」「コミック」)の新刊発行点数の3つを比較しました。この時期は1981年に日本でのISBN(国際標準図書番号)の利用が開始されるなど、書籍流通のシステム化が進んでいった時期に当たり、統計等のデータもそれまでより信頼性が高いのではないかと推察されます。出版業界の代表的な統計である「出版指標年報」は、自費出版書籍や廉価版コミックの一部が反映されていないものの、商業出版をはじめとしてこの時期のマンガ出版のほとんどをカバーしていると考えられます。

※ 「出版指標年報」については第1回:マンガ雑誌の登録データ件数比較も合わせてご参照ください。

[比較結果と考察]

グラフを見ると、1950年代~1960年代初頭までの時期は、出版年鑑・現代マンガ図書館のデータ件数がMADB及びNDLのデータ件数を全体的に上回っており、この時期のMADBやNDLの登録データの網羅性が十分ではないことが分かります。とくに貸本漫画が最も活発に出版された1950年代後半から現在の形態のマンガ単行本流通が定着する1970年台初頭までの現代マンガ図書館のデータ件数の充実が目立ちます。
一方で1970年後半以降についてはMADBのデータ件数と現代マンガ図書館のデータ件数が拮抗しており、この時期以降についてはMADBの網羅性は相当に高いと推察することができます。MADBのマンガ単行本のデータはNDLとその他の連携機関の所蔵データを合わせたものですので、NDLに納本されていないマンガ単行本を図書館などその他の連携機関が多数所蔵し、NDLの不完全な納本をカバーしていることが分かります。

1980年代以降は、マンガ単行本の出版点数にほぼ対応する出版指標年報の件数がほぼ右肩上がりで増加していることが顕著です。その中において、MADBとNDLの比較では1970年代後半の傾向が1980年代に入っても続いていることが読み取れます。この期間の出版指標年報の件数に対するNDLのデータ件数比は60%強ですが、MADBのデータ件数比は80%強で、全体の約2割についてNDL以外の連携機関が、マンガ単行本のアーカイブを補っていると言えます。
MADBの件数は1990年代後半には出版指標年報の件数にかなり近づきますが、2000年代に入ると再び差が広がります。この開きは2010年台中頃に差し掛かると止まり2019にはほぼ同数になっていますが、比較的最近の2000年代であってもMADBによるマンガ単行本の捕捉が不十分である状況が分かります。
NDLのデータ件数の推移に目を移すと、まず1990年代後半に傾向が変化しています。この時期になると、出版指標年報の件数やMADBのデータ件数の伸びに対してNDLの伸びが大きくなり、NDLのデータ件数とMADBのデータ件数が肉薄します。2000年代はMADBのデータ件数と合わせて伸びが衰えますが、その差は少しずつ小さくなり2010年代に入るとほぼ同一となります。
出版指標年報のデータ件数の伸びと比較してNDLのデータ件数がより伸びていることの要因は、納本制度がマンガ出版業界にも浸透したことで納本されないマンガ単行本の割合が減ったことだと推察されます。他方MADBとNDLのデータ件数の差が縮まっているのは、NDLへの納本状況の向上と比べると、その他の連携機関の資料整備が難航していることの表れと見ることもできます。その他の連携機関は収蔵スペースや予算などの面で多くの難しい問題を抱えており、マンガ単行本のアーカイブを充実させていくためにはこうした連携機関への支援が必要な状況を読み取ることができます。

このように、MADBに収録されるマンガ単行本のデータは、戦後の出版流通や納本制度の開始などといった社会的影響を受けながらも、類似する他のデータベースの収録データと比較して、近年になるほど網羅性が高い状況あることがわかりました。その一方でその網羅性には時代によってむらがあることも明らかになりました。

第3回は、次なる分野として「ゲームパッケージ」データの網羅性について取り上げます。マンガと同様にゲームのデータから時代の様子は分かるのでしょうか。どうぞお楽しみに。

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