第4回:アニメテレビ番組の登録データ件数比較
レポート:三原鉄也(ITコンサルタント)
※このコラムの概要や背景についてはこちらをご一読ください。
[MADBアニメテレビ番組について]
MADBでは日本国内で制作されたアニメーションの中で、主にテレビ放送番組、映画館で上映される映画、一般販売された映像パッケージの3種に関するデータを収集し、登録しています。この内、テレビ番組用として制作され放送されたものに関するデータが「アニメテレビ番組」「アニメテレビレギュラーシリーズ」「アニメテレビ単発(スペシャル)シリーズ」です。「テレビアニメ番組」はテレビで放送されたアニメーション作品の放送回を1件の単位とするもので、「アニメテレビレギュラーシリーズ」「アニメテレビ単発(スペシャル)シリーズ」は同一のアニメーション作品が放送局・曜日・時間が共通する異なる日時での周期的な放送を1件の単位とするものです。分かりにくいですが、前者が「第3話」「第5回」などで区切られたもので、後者がそうした放送回の集合で表されるシリーズ、ということです。
なお、この3種のデータは、国内のアニメーションに関する研究書や研究者によって作成されたデータ、専門誌などの資料を調査して作成したデータを登録したものです。使用された資料については、メディア芸術データベース(ベータ版)の「データベース内の情報について」をご覧ください。
[アニメテレビ番組の比較対象データと比較方法]
今回は、「アニメテレビレギュラーシリーズ」「アニメテレビ単発(スペシャル)シリーズ」を便宜的にまとめた「テレビ番組シリーズ」と「アニメテレビ番組」の2種類について比較します。
比較対象にはリスト制作委員会による「リストDB」を利用しました。リストDBとは日本の商業テレビアニメーションの歴史に関して長年研究されている原口正宏氏が主催するリスト制作委員会が蓄積したアニメーション作品の作品と各話の情報、クレジット、役名、役職、キャスト等を実際の映像から書き起こし、まとめたリストです。アニメーション業界では最も網羅性の高いデータとして認識されており、書籍やアニメ専門誌の年間作品リスト、業界団体の調査レポートの情報源にも用いられています。MADBのデータ登録に利用されている資料の多くがこのリストDBを情報源として用いています。なお現在、MADBのアニメテレビ番組のデータの更なる充実のためにリストDBのデータを直接MADBに登録するための取り組みが進められています1。
図1はMADBとリストDBのテレビ番組シリーズの年別データ件数の推移を示したものです。
1960年台〜1990年代初頭までMADBとリストDBがほぼ一致するのに対し、90年代以降はリストDBの件数が多い傾向が続きます。これは1990年代初頭まではリストDBが実質的にMADBのデータの主な情報源となっていることが推察できる一方で、その後の90年代以降はリストDBのデータが十分に反映されていないことが分かります。明確な理由は分かっていませんが、MADBが登録していた資料のデータや当時のリストDBと現在時点でのリストDBに違いがあるのではないかと考えられます(※)。リストDBは実際の映像のクレジットを書き起こすという作成手法や個人の活動に依存した体制などが理由でデータの作成・整備に多くの時間が掛かります。このために、時期によってデータの整備状況が大きく異なっているのではないかと考えられます。
※今回の比較に利用したリストDBのデータは2021年時点のものです。
2010年までは、アニメテレビ番組シリーズと同様にMADBに対しリストDBが同数か、やや上回る傾向が続きますが、2010年を境にMADBの登録件数がリストDBを大幅に上回っています。この時期は文化庁がMADBの元となっているメディア芸術の調査を開始した時期であり、リストDBとは異なる情報源も合わせた独自のデータ整備により、リストDBより充実した登録がなされていると推察されます。また、アニメテレビ番組についてはデータの件数がテレビ番組シリーズよりも多く、リストDBのデータ作成により時間が掛かるため、2021年現在においてもこの時期のデータ作成が不十分であることもMADBとの件数の差の要因であると考えられます。
今回の比較は、ほぼ同じ情報源と言えるデータであっても、作成時の状況によって差が生じていることがよく分かる結果となりました。多くの人が同時代に見ていたとしても、リアルタイムで進行していく出来事の長期的なデータ整備が難しいことを表していると言えるのではないでしょうか。
第5回は「アニメ映画」の比較になります。どうぞお楽しみに。
1一般社団法人日本アニメーター・演出協会「リストDBからメディア芸術データベース(ベータ版)への登録、及び、全録サーバのテキスト抽出の検証 実施報告書」(2021.2) https://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/wp-content/uploads/2021/05/56b8e93fe42397f597e987e92bd95d61.pdf