東京都豊島区にある東京芸術劇場5Fギャラリー2で、2014年10月1日から10月18日にかけて、「生誕80周年記念 横山光輝:昭和から平成へマンガの鉄人が駆け抜けた軌跡展」が開催されている。

これは、マンガ家故・横山光輝氏(1934-2004)の生誕80周年を記念して、豊島区の主催で開かれた展覧会で、入場は無料となっている。比較的小さなスペースに、並べられた原画は複製のみという展示ではあるが、印刷指示の書き込みなど、やはり雑誌などに印刷されたものとはまた別の楽しみを見つけることができるだろう。

一時は手塚治虫氏の人気を凌ぐほどであったという横山氏の作品は、その知名度に反して、奇妙にもこれまで評論・研究の対象となることがあまりなかったと言われる。マンガ評論家の故・米沢嘉博氏の述べた通り(『別冊太陽 子どもの昭和史 横山光輝マンガ大全』)、それは「大衆エンターテインメント作家としての徹底ぶり」が引き起こす、論点発見の難しさ故だったのかもしれない。

確かに、今回の展示でも、手塚氏の描いた『黄金都市』と、横山氏によるリメイク版の比較がパネル化されていたが、その二つのバージョンの間には、5年という歳月だけでは語りきれない、横山氏のマンガにおける読みやすさの完成度、あるいは「ひっかかりのない」大衆性が表れているようにも感じられた。

しかしながら、『鉄人28号』『魔法使いサリー』といった少年・少女向けの作品から、青年向けの劇画を経て、歴史大河ロマンの『三国志』まで、その作品テーマの豊かさと、人気作家としての長期にわたる創作活動は、戦後マンガを語るうえで、今後もう一度見直されるべき作家のひとりであることを確かに指し示している。

展示連動企画として電子書籍販売サイト「eBookJapan」が『鉄・人・影 横山光輝生誕80周年記念読本』の無料配信を行っており、マンガ家ゆうきまさみ氏へのインタビューのほか、『魔法使いサリー』の原型とも言える『おてんばトリオ』をはじめとして、『伊賀の影丸』『魔法使いサリー』『バビルII世』『マーズ』『横山光輝短編コレクションVol.4 闇の顔』など、かなりの数の作品をまとめて読むことができるようになっている。全部で600ページを超えた分量となったこの「読本」は、横山作品の豊かさを再認識し、見直すための格好の入門書となっていると言えるだろう。また、展示や展示カタログでは物理的に難しい、選定されたマンガ作品を実際に読む機会を提供する機能と共に、電子書籍販売促進のための試し読みとしての機能を併せ持った、興味深い試みともなっている。

豊島区はかつてマンガの聖地とも呼ばれる「トキワ荘」があったところであり、区は文化事業としてマンガを軸にした事業を以前から展開している(メディア芸術カレントコンテンツ内関連記事)。また、マンガも対象にしたミュージアムの設置も検討されているようで、今回の展示はその「ミュージアム開設プレイベント第1回」としても位置づけられている。

生誕80周年記念 横山光輝:昭和から平成へマンガの鉄人が駆け抜けた軌跡展
http://www.city.toshima.lg.jp/bunka/shiryokan/oshirase/033742.html