現代の映像視聴環境、制作環境は、常に激しい変化の中にある。特に近年のスマートフォンなどデジタル端末の普及に象徴される、デジタルデータの活用法の変化と多様化は、もはや変化し続けることが常態であり、数ある映像メディアの内のどれが主流であるか言い切ることは不可能である様に見える。4K、8Kと高密度化が進む一方で、映像コンテンツの主な消費場所はスマホなど携帯端末の小型ディスプレイでもある。

 映像・アニメーションの制作現場で起こりつつある様々な変化と併せて、これからの映像表現の可能性を考えてみたい。

◯コンピューターグラフィックスとアニメーション(1)

◯コンピューターグラフィックス?

 コンピューターグラフィックス(=CG)とは、文字の通りに考えれば、コンピューターによって作られた画像・映像を指す。一般にCGという言葉から思い起こされるものは、ビデオゲームの様な3DCG、あるいはファミコンの様な2DCGである。コンピューター上で描かれた「手書きの絵」を含める場合もある。デジカメで撮った写真も撮像センサーで計測された明るさの値を、複雑に計算・補完して生成されるCGと言えるかもしれない。

 1970〜80年代のタツノコプロ作品のオープニングやタイムトラベルシーンで有名なビデオエフェクト「スキャニメイト」は、アナログCGの一種であると言われる。『未知との遭遇』(1977)『スター・ウォーズ』(1978)にはじまるモーションコントロール特撮は、カメラや模型の宇宙船の動きをコンピューターで制御しており、フィルム状に描かれるCG表現の一種と考えることも出来る。『スーパーマン』(1978)のオープニングなどに見られる残像を利用したグラフィックは、当時「コンピューター映像」と紹介されていた記憶がある。スクリーンやモニターディスプレイに映らないものでは、ライブコンサートなどで見られるレーザー光線の演出や、近年の多数のドローンによって夜空に動くイメージを描く『DRONE 100』(2016)(アルス・エレクトロニカ、インテル)等も、コンピューターによって描かれるイメージ、つまりCGの一種だ。

◯CGはコンピューターそれ自体を表現する

 コンピューターで画像・映像を扱う行為は、主に航空・自動車産業での設計と構造計算の現場から発達してきたと言われる。コンピューター内で図面を書き、形状と性能のシミュレーションをする所謂「CAD(コンピューター支援設計)」である。もうひとつは、米空軍の防空管制システム『SAGE』にはじまる、グラフィカル・コンピューター・インターフェースである。

 CGの映像作品における初期の利用の多くは、未来的なコンピューターインターフェースの表現のためであった。特にSF映画では、未来の進歩したコンピューターのディスプレイとして、CGやそれを模した手書きのアニメーションが使われた。例えば『2001年宇宙の旅』(1968)の宇宙船内のモニターに映るワイヤーフレームCGは、アニメーターが計算尺を使って手作業で作図したものを撮影したフィルムアニメーションであった。『スター・ウォーズ』(1978)のデス・スターの設計図の表現に実際にコンピューターで制作されたワイヤーフレームCGが使われ、その直後に登場するデス・スターの制御室のモニターには「CGを模した模型」を撮影したモーションコントロール映像が使用されている。こうした「画面内疑似CG」は、日本のSFアニメーションでも数多く使われており、コックピット内のインターフェースと合わせて、作品制作当時のハイテク未来像、コンピューター観を知ることが出来、興味深い。

 大々的にCG作品であることが宣伝された『トロン』(1982)では、多くのフル画面3DCGショットが、実写や手描きアニメーション、マット・ペインティングとともにコンピューター内の世界を表現するために使われている。『スター・トレック2 カーンの逆襲』(1982)では、不毛の惑星が楽園に変化する様子(これも劇中のコンピューターシミュレーション)が描かれている。

◯『ゴルゴ13』(1983)のCG表現

 日本映画におけるCGが使用された初期の例としては、『ゴルゴ13』が挙げられる。この作品は、世界で初めて劇中で3DCGを使ったアニメーション作品と言われている。CG使用パートは大きく2ヶ所あり、まずオープニングでは、拳銃や弾丸、骸骨など、ゴルゴの冷徹なキャラクターをイメージさせるメタリックな3DCGが、実写映像も交えて実験的に使われている。もうひとつは、クライマックスの大規模なアクションシーンである。

 ゴルゴのいる大都市の高層ビルに、多数の戦闘ヘリコプターが攻撃をかける。フル3DCGによるショットは合計で1分以上におよぶ。手描きアニメでは難しい、ビルの周囲を廻り込む戦闘ヘリコプターからの移動ショット(さらには銃撃まで!)というダイナミックなイメージの、大変に見応えのあるシーンである。このCGに登場するビルやヘリコプター等の物体には、ほんのりとしたツヤの有る材質表現は見られるが、影や映り込みといった写実的情報はなく、かと言ってセルアニメのような質感でもない。敢えて言えば「昔のCG」の典型的な雰囲気であるだろう。

 当時のアニメ雑誌等の批評としては、オモチャっぽいとか、映画の流れを乱しているとか、芳しいものではなかったと記憶している。確かに、実写と見分けの付かないCGが当たり前になった現代の目で見ればもちろんだが、CGが物珍しかった当時の視聴者にとっても、作品に馴染んでいるとは言い難いだろう。(後述のDVDに収録されているコメンタリーには、制作者の苦悩も語られている。)しかし、あえてCGの稚拙さに目を瞑って改めてこのシーンを見てみると、ただ一人で戦うゴルゴに襲いかかる圧倒的な攻撃力というストーリーの肝を的確に表している演出であるとわかってくる。同時代のハリウッド映画『ブルーサンダー』(1983)に、ロサンゼルス市街地でのヘリコプターと戦闘機による見事な空中戦シーン(実物のヘリ、ラジコン、モーションコントロール特撮のコンビネーション)があるが、想起されるイメージにはそれを上回る部分もある、というのは言い過ぎだろうか。

 このシーンで注目すべきなのは(アニメーション作品の中ではあるが)「現実」をCGで表現しようとしていることだ。これは、それまでハリウッドSFX映画にも前例のないチャレンジであり、ミニチュアの宇宙船の代わりに3DCGを導入した『スター・ファイター』(1984)にわずかに先んじている。

 当時の3DCGは、現在の目で見ると極めてプリミティブなものであるが、制作者達のアニメーションに対する自信、表現の自由さに対する自信と確信が、この作品の挑戦につながったのではないだろうか。

 翌年の『SF新世紀レンズマン』(1984)では、宇宙船やワープ中の超空間の表現、重要アイテム「レンズ」の超常現象、そしてコンピューターインターフェース等の表現に3DCGが使われている。宇宙船が侵食され崩壊していくような描写など、新しい表現への挑戦がいくつも見られる。こちらはSF的な題材であることもあり、先の『ゴルゴ13』に比べれば違和感は小さい。また『ゴルゴ13』ではなかった、CGとセル画が同一画面に混在する表現も試みられている。『ドラえもん のび太の魔界大冒険』(1984)では、タイムマシンや宇宙の背景映像として、3DCGイメージが使われている。こちらは限定的な使用であり、作品世界を崩すことなく溶け込んでいる。

 現在、『ゴルゴ13』はアメリカ版Blu-Ray/DVD(Golgo 13: The Professional)が入手可能である。出崎統監督のコメンタリーも収録されており、CGの1コマを描写・撮影するのに22時間かかった等、当時の興味深い状況が語られている。『SF新世紀レンズマン』は、残念ながらDVD・Blu-Ray化されていない。どちらも歴史的に見るべきところの多い作品であり、新技術の導入に際しての様々な挑戦、クリエイター達の熱意と興奮が感じられ、日本でも高画質メディアでのリリースが望まれる。

 ハリウッド映画ではこの後、『2010年』(1984)で流動する木星表面、『ヤング・シャーロック』(1985)で麻薬の幻覚の中で動くステンドグラスの騎士、『ナビゲイター』(1986)で変形する鏡面の宇宙船など、次々とそれまでは直接的に表現するのが難しかった映像を3DCGの活用で実現していく。ピクサーの『ルクソーJr.』(1986)、『アビス』(1989)の流体表現、『ジュラシック・パーク』(1993)の恐竜など。こうしてみると、コンピューターが映像表現の道具として活用されはじめた1970年代末からの変化の大きさが改めて実感される。

 アニメーションにおける、その後のデジタル映像技術の進化を、次回も引き続き見ていこう。