隔月で発行される雑誌「アイデア」(誠文堂新光社)の最新号No.349では、デザイナーの松田行正氏の仕事が特集されている。松田氏は1970年代後半より、松岡正剛氏が設立した出版社「工作舎」や戸田ツトム氏らとのコラボレーションを経て、1980年代初頭に独立。エディトリアルデザインをはじめジャンルを問わない仕事を続ける一方で、企画/執筆からデザインまでみずから手がける出版レーベル「牛若丸出版」を主宰。独自の着想にもとづいた数々のダイアグラムや建築・空間のグラフィックでも知られる。
この特集では、松田氏のこれまでの仕事を俯瞰することができる。本雑誌の冒頭に松田氏の表現について次のようなテキストが寄せられている。「情報を書物に立体化する、図表に構造化するときの松田の手つきはとても繊細だ。松田はデータや論理あるいは美的感覚のみにとらわれることなく、触覚や肌理のような不可視の要素、記号や色彩の意味論、内容の歴史文脈まで把握したうえで、全体としてかたちを導き出す」。
特に、膨大な史実や事象にスポットライトを当てて掘り下げ、正確かつ明確にダイアグラムへ落とし込む松田氏の表現はアーカイブの視点からも注目できる。たとえば松田氏の表現は、メディア考古学/メディオロジー研究者であるジークフリート・ジーリンスキー氏(ベルリン美術大学教授)が自著『Deep Time of the Media』(未邦訳, MIT press, 2006)で展開した、メディア史の「深淵」を探る研究手法を想起させる。同書は、文化的/技術的歴史を記述したドローイングを2000年にわたってさかのぼるというものだが、それは、単に歴史を掘り起こすのではなく、現代と歴史をひも付けながら「古きに新しい視点」を発見して未来を推論する作業である。
また、松田氏が影響を受けたというデザイナー杉浦康平氏の半世紀を超える仕事を一望する展覧会「杉浦康平・脈動する本:デザインの手法と哲学」が武蔵野美術大学美術館で2011年12月17日まで開催されている。この展覧会も「アイデア」の松田行正氏の特集も、あざやかな視点とデザインで歴史や出来事を切り取る両者のダイアグラムをはじめとしたビジュアル・ランゲージやエディトリアルデザインなどへの取り組みを振りかえることができる貴重な機会だ。