2013年2月12日、アメリカ・オースティンで開催のカンファレンスSouth By Southwest(以下SXSW)内にて、Vimeoがオンデマンド配信サービス「Vimeo On Demand」を開始することを発表した。

Vimeoは映像作家やクリエイターを中心に利用者の多い動画共有サイトである。2012年11月には、動画配信者がマネタイズを行える制度として「Creator Service」を開始し、その第一弾として動画視聴者がチップを支払うことのできる「Tip Jar」のサービスの提供を始めていたが、今回の「Vimeo On Demand」はその第二弾で、かなり大胆なサービス内容で話題を呼んでいる。

これまで、ウェブ上での配給・作品発表によって対価を得る主な手段は、再生回数に応じて支払いが発生するYouTubeのパートナープログラムへの登録や、iTunesを通じての販売などがあったが、「Vimeo On Demand」は、視聴者と作り手とがより直接的に金銭をやり取りすることを可能にするものである。たとえば、iTunesで映像を販売するためには、販売を行える業者に取り次ぎを依頼せねばならず、iTunes自体も売上額から3割を徴収することを考慮に入れると、作り手に入る額はかなり小さなものにならざるをえなかった。一方、「Vimeo On Demand」で有料配信を行うためには年額199ドルのVimeo Proのアカウントに登録さえすればよく、仲介業者を介在させる必要がない。そして、Vimeo側が徴収するのは売上額の1割と低い割合におさえられている(つまり、配信者側の取り分は9割にものぼる)。ストリーミングやダウンロードの期間、公開地域など、配信にあたっての設定もフレキシブルに行えるし、再生もコンピューター上はもちろんのこと、携帯デバイスやスマートテレビなどあらゆるオンライン・デバイスで可能である。価格についても1ドルから500ドルまで自由に設定でき、配信ページのカスタマイズも容易に行える。

SWSXでの「Vimeo On Demand」のアナウンスは、アメリカのインディペンデント・アニメーション作家ドン・ハーツフェルト氏の2012年の長編『きっとすべて大丈夫』(2006年から発表された短編三部作を長編としてまとめたもの)の上映後に行われ、ハーツフェルト氏も同席のもと、同作が「Vimeo On Demand」で配信されることもまた同時に発表された。ハーツフェルト氏はインターネット上での人気を背景に、全米を巡回する上映ツアーや、DVD・グッズ等の販売といった作品配給を作家個人で運営する会社Bitter Filmsで行い、作品の制作費と自身の生活費をまかなうことができている稀有な短編作家だが、Indiewire.comでのインタビューによれば、今回Vimeoがハーツフェルト氏をフィーチャーしたのは、氏の活動が、Vimeoが「Vimeo On Demand」を通じて目指す、映像クリエイターの活動支援としての自己配給システムの提供の先駆的存在だからであるということだ。

先日のニュースでは、米アカデミー賞短編アニメーション部門のネット配信をめぐるトラブルについて取り上げた。とりわけ短編作品は、ウェブ上での無料視聴がほぼ唯一の宣伝方法となっており、劇場配給やiTunesなどの一般的な流通形態との相性の悪さがしばしば指摘されているわけだが、システム利用の手数料を最小限に抑え、利用までのプロセスも簡便化した「Vimeo On Demand」の発表は、インディペンデントの映像作家の作品配給の環境を根本的に変える可能性を含んでおり、今後、状況がどのように動いていくかが注目される。

Vimeo on Demand
https://vimeo.com/ondemand