「コミックス&グラフィック・ノベルス・シンポジウム」(Annual UF Conference on Comics and Graphic Novels)は、毎年アメリカのフロリダ大学で開催されているシンポジウムだ。2014年度の第11回は、2014年4月4日から6日にかけて開かれる。

今回のテーマは「トラウミックス:マンガとトラウマ」(Traumics: Comics Narratives of Trauma)となっており、現在その発表原稿が募集されている。

「トラウミックス」とは、過去に受けた心理的な強い傷である「トラウマ」と「コミックス」をそのままかけ合わせた造語で、今回のシンポジウムでは、そのタイトル通りマンガとトラウマの関係が探られることになる。

マンガには自伝的、あるいは私マンガ的とでもいうべき系譜があり、作家主義的な作品が再び注目を集めている昨今では、欧米の研究者のあいだでしきりに取り上げられるジャンルとなっている。このジャンルのなかで、トラウマはとりわけ物語を駆動する要素として大きな役割を果たす。たとえば、ホロコーストの記憶を描いたアート・スピーゲルマン氏の『マウス』(晶文社、1991年)では、実際に収容所に送られた作者の父母のトラウマや、その家族の物語を受け継ぐ作者自身のトラウマが重要なテーマとなっていた。また、『ファン・ホーム』(小学館集英社プロダクション、2011年)、『ペルセポリス』(バジリコ、2005年)、『大発作』(明石書店、2007年)、『スティッチ』(青土社、2013年)など、トラウマが描かれている自伝的作品は枚挙にいとまがない。

それだけでなく、フィクショナルな物語においてもしばしばトラウマは用いられる。たとえば最近英語と仏語に翻訳された萩尾望都氏の諸作品においても、しばしば幼少期のトラウマが物語の重要な要素となっていた。

ホームページ上に掲載された論文テーマ例としては、これら「マンガと自伝」「日本マンガとトラウマ(たとえば手塚治虫や萩尾望都の作品など)」のほかに、「マンガと戦争」「マンガにおけるレイプや性的暴行」などのテーマが挙げられている。締め切りは2014年1月1日まで。投稿規定など詳しくはリンク先を参照してほしい。

なお、このシンポジウムが開催されるフロリダ大学は、アメリカにおいていち早くマンガやアニメーションの研究コースを設置した大学のひとつで、マンガ専門のオンライン・ジャーナルである「ImageText」もこのフロリダ大学から発行されている。また、アカデミックな研究者同士の情報共有と議論のためのメーリングリスト「COMIX-SCHOLARS DISCUSSION LIST」も、フロリダ大学の教員たちによって管理・運営されている。

さらに、フロリダ大学の図書館は、アメリカではじめてマンガをテーマに博士論文を提出したとされるソル・ダヴィドソン氏からの寄贈資料で構成された「ペニー&ソル・ダヴィッドソン・コレクション」(Penny and Sol Davidson Collection)を筆頭に、マンガに関する貴重なコレクションを数多く所蔵しており、アメリカにおけるマンガ・アーカイブの重要な拠点のひとつとなっている。「プラチナ・エイジ」と呼ばれる19世紀から20世紀初頭にかけてのマンガや、軍隊向けの教則マンガなどが特色の「ペニー&ソル・ダヴィッドソン・コレクション」についてはウェブ上に特設ページが用意されているので、興味のある方は覗いてみてはいかがだろうか。

第11回「コミックス&グラフィック・ノベルス・シンポジウム」(CfP)

http://www.english.ufl.edu/imagetext/news.shtml?/cfp/traumics_comics_narratives_of_trauma_cfp.shtml