2013年度(第17回)メディア芸術祭マンガ部門の受賞作が発表された。この賞の特徴としては、商業誌ではない自主制作の同人誌や、紙媒体以外の作品も選考対象にしている点と、発表言語を問わないという点があげられるだろう。ただし、エントリーには自薦が必要となる。
今回「大賞」に選ばれたのは荒木飛呂彦氏の『ジョジョリオン―ジョジョの奇妙な冒険 Part8―』。『ジョジョの奇妙な冒険』第8部として2011年にスタートしたこの作品は1987年の連載開始から数えると2013年で27年目を迎え、単行本もシリーズ全体ですでに100巻以上が刊行されているなど、まちがいなく日本を代表する怪物的作品のひとつと言えるだろう。
この「大賞」も含め、「優秀賞」「新人賞」については文化庁メディア芸術祭のホームページ上にストーリー概要と受賞理由が掲載されているので、今回は「審査委員会推薦作品」のなかから一般の書店では流通していない作品をいくつか紹介してみよう。
まずは、もはや一般のマンガ概念を逸脱して「メディア・アート作品」なのかもしれない「紙巻きオルゴール漫画」。「漫画×音楽」をコンセプトとしており、手巻きオルゴール機で穴の開けられた帯状のシートを再生することによって、奏でられる音楽を聞きながらイラストを読んでいくというもの。残念ながら実物を手にしたことはないのだが、ホームページ上にアップされている動画を見ると、紙芝居でも見ているような不思議な感覚におそわれる。音楽を奏でるためにはある程度一定の速さで回転させざるをえず、読む時間が読者に委ねられている普通のマンガとはまた違った体験ができる作品だ。
ふたつめは、オンライン・コミック・マガジンの「電脳マヴォ」に掲載されたムライ氏の『鳥の眼』。切れ目なく下へ下へとスクロールしていくこの作品は、ページという支持体を離れたところでいかにマンガが変化していくか、その可能性のひとつを垣間見させてくれる。なお「電脳マヴォ」からは、「新人賞」として町田洋氏の『夏休みの町』も選ばれている。町田氏は2013年に商業デビューしているが、その完成度の高さはひときわずば抜けていた。
そのほかに「審査委員会推薦作品」に選ばれたwebコミックとしては、香山哲氏の『香山哲のファウスト』とカレー沢薫氏の『<アンモラル・カスタマイズZ』がある。ただこれらは書籍版も発行されており、受賞は純粋に作品内容によるものだろう。両作品ともにアクの強い傑作である。
少し変わったところでは、オーストラリアの先住民族「アボリジニ」を描いた、インタラクティブ・コミック『Ngurrara』も選ばれている。iOS上でしか読むことができないが、音やアニメーションが組み合わされた作品だ。またフランソワ・スクイテン氏(2012年度のメディア芸術祭「大賞」受賞者)の新作『ラ・ドゥース』(古永真一訳)は、一見普通の書籍だがある仕掛けがほどこされており、ウェブ上の特設ページを訪れると、AR(現実拡張)技術による3D画像を体験することができる。現代版飛び出す絵本といったところだろうか。
そして一般の書店では流通していない印刷物、いわゆる同人誌からは、『飛ぶ東京 homecoming <完全版>』と『error403のオチとは』が選ばれている。
木野陽氏の『飛ぶ東京 homecoming <完全版>』は、あちこちの区画が地面ごとはがれだし空に浮かんでしまった「島京」を舞台に、失われた町と、その町に残された記憶をさわやかに描きだす。
『error403のオチとは』は、ウェブサイト「ガジェット通信」に掲載された4コマを中心に再編集された単行本。どこかとぼけた味わいをもつ笑いがじわじわと心にしみる。本書は自主制作漫画レーベル「ジオラマブックス」の初単行本として刊行された。西村ツチカ氏、ふみふみこ氏、真造圭吾氏、そしてerror403など、新たな世代の才能が集まったインディーズ・マンガ誌「ジオラマ」発行元として、「ジオラマブックス」は最近マンガ好きのあいだで注目されつつある。雑誌「ジオラマ」は予定通り4号でいったん終了したが、新たに「ユースカ」が創刊されている。
メディア芸術祭では「大賞」「優秀賞」「新人賞」「審査委員会推薦作品」のほかにも「功労賞」が設置されており、「マンガ部門」ではこれまで編集者など作品を影で支えてきた人々が選ばれている。今回は、自主制作漫画誌展示即売会「コミティア」の代表である中村公彦氏が選ばれた。パロディなどのいわゆる二次創作同人誌ではなく、オリジナルの自主創作物に特化したイベントとして、「コミティア」はすでに30年近い歴史をもつ。今回紹介した同人系作家たちの多くが「コミティア」参加者であり、また以前に紹介した「海外マンガフェスタ」も「コミティア」会場内で開かれるなど、「コミティア」が日本のマンガ文化にはたしてきた役割はまちがいなく大きいものだ。
第17回メディア芸術祭「マンガ部門」受賞作
http://j-mediaarts.jp/awards/gland_prize?locale=ja§ion_id=4