2014年9月27日から東京都現代美術館で開催されている展覧会「東京アートミーティング 第5回 新たな系譜学をもとめて 跳躍/痕跡/身体」で結成30周年を迎えたダムタイプが新作を発表した。
インスタレーション《MEMORANDUM OR VOYAGE》(2014年)はこれまでにダムタイプが発表した3つのパフォーマンス「OR」(1997年)、「memorandum」(1999年)、「Voyage」(2002年)の核となるイメージを抽出し、現在の視点から再構築した作品。高さ2.1m、幅16mのLEDパネルの解像度は8320x1092ドット。約900万個の光の粒が、ある時は映像を構成し、ある時は明滅する光の壁面となる(同作の展示は2014年11月16日で終了)。
《MEMORANDUM OR VOYAGE》はいくつかのシーンからなる。白い服を着て寝そべったパフォーマーの上をスキャンする光(「OR」より)。コマ送りで流れていく色鮮やかな海外の街並み。高速で検索されマッチングされる言葉(「memorandum」より)。所々に曇りガラス越しに踊っているかのようなダンサーが挿入される。最後に「Voyage」に登場した地図がゆっくりとスクロールする中、無数の言葉が全面を覆い尽くす。
ダムタイプ《MEMORANDUM OR VOYAGE 》2014年 撮影:椎木静寧
2014年11月18日からは《Trace / React》(2014年)が展示されている。こちらは5台の黒く細長い超指向性スピーカーが、ロボットのように正確に回転しながら、空間にサウンドを点在させていく作品。前述の《MEMORANDUM OR VOYAGE》の圧倒的な強度とは対照的に、静謐な音のインスタレーションとなっている。
ダムタイプは1984年に京都市立芸術大学の学生を中心に結成された。美術、演劇、ダンス、音楽、映像、建築、デザインなど、異なる専門領域で活動するメンバーが集まり、リーダーを置かずにコラボレーションから生まれる創発性を重視する活動を展開した。その作品はメディアテクノロジーを駆使した舞台装置とパフォーマーの生身の身体によって構成され、国際的に高い評価を得た。とくに1994年に初演されたパフォーマンス「S/N」は、エイズ、ジェンダー、国籍、アイデンティティなどをテーマに据えた作品で、世界12ヵ国16都市で上演された。1995年に古橋悌二氏がエイズによる敗血症で亡くなった後もダムタイプは活動を続け、3つのパフォーマンスを発表した。
現在、メンバーは旺盛なソロ活動を続けている。
池田亮司氏は世界各国で作品を発表しているが、2014年11月5日から9日にインスタレーション《test pattern [nº6] : Ryoji Ikeda》(2014年)を国内で初めて発表し話題を呼んだ。特徴的なノイズとパルスを用いた音響とミニマルなモノクロパターンで構成された作品は、SNSなどによって話題が広がり、会場には長蛇の列ができた。
高谷史郎氏は東京都写真美術館で大規模な個展「明るい部屋」を2013年12月10日から2014年1月26日まで開催した。2014年3月には京都芸術劇場で上演された能ジャンクション「葵の上」、マルチメディア・パフォーマンス「二重の影」(構成・台本・演出:渡邊守章氏)で映像と美術を担当した。また、2014年11月13日から24日にはパークハイアット東京にて《LIFE-WELL-Park Hyatt Tokyo Version》を発表。これは坂本龍一氏との共作で2013年に山口情報芸術センター(YCAM)の委嘱により山口市野田神社で発表された霧と音のインスタレーション《LIFE-WELL》(2013年)を同ホテルの20周年にあわせて再構成したものである。
高嶺格氏の活動については、2014年6月11日の記事でも取り上げた。2012年から2013年にかけて水戸芸術館で開催された個展「高嶺格のクールジャパン」は2011年の福島第一原子力発電所の事故以降を生きる日本人を内在的に問う社会批評的なものであったが、その中で発表された《ジャパンシンドローム》(2012年)はオランダ、ドイツ、イギリス、アメリカ、韓国、トルコを巡り、「京都国際舞台芸術祭」(2014年9月27日から10月19日に開催)で完結した。
また、秋田県立美術県民ギャラリーでは高嶺氏がディレクションした「てさぐる展」が2014年11月23日から12月7日まで開催されている。千葉盲学校の子どもたちが美術家・西村陽平のもとで制作した立体作品と高嶺氏が共演し「見えない人のガイドでめぐる展覧会」を作り上げた。
藤本隆行氏は、2013年のあいちトリエンナーレ2013でパフォーマンス「Node/砂漠の老人」を振付家・ダンサーの白井剛氏と発表した。同作は、情報に翻弄される3.11以後の社会とわれわれを寓話的に表現した作品。上條慎太郎氏、神田竜氏、古舘健氏、松本昭彦氏といった若手のプログラマーやエンジニアを起用し、辺見康孝氏によるバイオリンを語り部として、最先端のテクノロジーによる舞台演出を試みる一方、主人公の「砂漠の老人」には舞踏家の吉本大輔氏を据え、ダムタイプの川口隆夫氏と平井優子氏、ダンサーのカズマ・グレン氏との共演を実現させた。また、2014年12月12日から14日には、神奈川芸術劇場にて振付家のチョン・ヨンドゥ氏と共に「赤を見る/Seeing Red」を発表する(2014年11月30日には城崎国際アートセンターにて公開リハーサルが行われる)。
このように広がりを見せるメンバーの活動ではあるが、ダムタイプとしての新作パフォーマンスの実現を待ち望んでいるのは筆者だけではないだろう。その意味で今回の「新作」の展示は朗報であった。今後の展開に期待したい。
ダムタイプ(Dumb Type)
http://dumbtype.com/