オーストリアのリンツで、「アルス・エレクトロニカ・フェスティバル 2012」が2012年8月30日から9月3日まで開催された。同フェスティバルは1979年から時代や社会の変化に呼応して、常に最先端をいくテーマ設定とともにアート、テクノロジー、サイエンス、デザイン、エンターテインメントなどを領域横断的に紹介してきた歴史のあるフェスティバルで、毎年、世界各地から多くの人々が訪れる。今年は、「The Big Picture — New Concepts for a New World」をテーマにした企画/関連展示やコンサート、カンファレンス、上映などが行われた。「Featured Artist」部門では、日本を代表するメディアアーティストの一人である三上晴子氏の作品《Desire of Codes》が開催期間後の9月30日まで展示される。また、平行して国際的なコンペティション「プリ・アルスエレクトロニカ 2012(1987年より実施)」の他、児童や青少年向けのスペース「u19 — Create Your World」なども併設されている。毎年、注目を集める「プリ・アルスエレクトロニカ」の受賞結果は「GEWINNER」のページで閲覧することができる。
今年のテーマである「The Big Picture」は、「大局的見地」や「全体像」などを意味する。自然、経済、政治などのさまざまな危機や変化の細部にとらわれず、全体を俯瞰しながら未来の世界像を展望しようとする姿勢が窺える。企画展では、文化庁メディア芸術祭授賞作品からセレクトされた東日本大震災にまつわる作品や、日本科学未来館で展開中の「つながりプロジェクト」などが日本から紹介された。なかでも、鳴川肇氏によって発明された世界地図《オーサグラフ(AuthaGraph)》は、本フェスティバルのテーマを端的に象徴する作品の一つだろう。《オーサグラフ(AuthaGraph)》は、既存の世界地図の欠点を補って面積比と形状の両方をほぼ正確に表記することを実現した地図で、複数の地図をシームレスにタイル状に並べることができる。世界地図上の面積/形状/位置は、政治的にもイデオロギー的にも見る者へ無意識に影響を及ぼす。まずは、正確に表記された世界地図で地球をフラットに眺めることから「New Concepts for a New World(新たな世界のための構想)」の第一歩が始まるのではないか。
本フェスティバルは、アート、インターネットやソーシャルメディア、事象を可視化する科学技術は大局観で世界を見ることを補完するか、という切迫した大きな問いを共に考える好機になったと考えられる。
アルス・エレクトロニカ・フェスティバル2012