2014年8月10日から14日にかけて、カナダ・バンクーバーで今年もACM SIGGRAPH 2014が開催された。これは、コンピュータグラフィクスとインタラクティブテクノロジーを中心にした歴史ある国際会議であり、展示会である。

昨年のSIGGRAPH2013の記事でも取り上げたが、3Dプリンタをはじめとするデジタルファブリケーション技術の隆盛に呼応して、コンピュータグラフィクスの世界やノウハウが画面の外に実体を持って飛び出してくるという流れは今年も注目を集めた。中でも今回は身近なアナログの道具や素材の中にコンピュテーショナルな要素を組み込み、形状や表現の自由度を高めるというユニークなアプローチの研究を紹介したい。

Disney ResearchのMoritz Baecher氏らの研究「Spin-It」は、好きな形状の回るコマ(回転体)を作るというもの。3Dプリンティングの際に、内部構造によって重心位置を調整することで、多様な形状の物体をコマのように実際に手で回すこと。東京大学とAutodesk Researchの梅谷信行氏らの研究「Pteromys」は、自由なデザインの飛行可能な紙飛行機を作るための設計ソフトウェア。自分でデザインした形状の飛行軌道をシミュレーションしたり、距離を伸ばすための形状の最適化などを行うことができる。会場でも実際に紙飛行機を飛ばして喝采を浴びていた。

Emerging TechnologiesおよびStudioコーナーで展示されていたMITのRoy Shilkrot氏らの「Digital Airbrush」は、エアブラシの位置を認識して、適切な位置で視覚と触覚にフィードバックを与えることで、お手本に近い絵をキャンバスに物理的に描くことができるという装置。同じくEmerging Technologiesで発表された慶應義塾大学の杉浦裕太氏らの「Graffiti fur」は、カーペットの毛羽立ちを局所的にコントロールすることで、カーペットの表面にグラフィックを描くというシステム。

プロジェクタやモニタによって重ね合わされるのではなく、物理構造から、素材、インタラクションまで、コンピュータと物理的なモノの関わりを巧妙に設計することで、実世界中に多様な「グラフィック」表現あるいは「インタラクション」表現が浸透可能になってきた。来年のSIGGRAPHではどこまで物理世界とデジタル世界の融合が進むのか、次回は2015年8月にロサンゼルスで開催される予定である。

ACM SIGGRAPH 2014
http://s2014.siggraph.org/