「平成25年度第17回文化庁メディア芸術祭」の作品募集が7月11日から始まりました。例年、さまざまな作品が応募されますが、そのなかには芸術祭以降に大きな注目を集める作品も少なくありません。第9回エンターテイメント部門奨励賞を受賞した『Incompatible BLOCK』、第10回アート部門優秀賞を受賞した『OLE Coordinate System』、第14回でエンターテイメント部門優秀賞を受賞した『無限回廊 光と影の箱』もその一つ。制作者である藤木淳さんは、その後、受賞経験者の新たな創作活動を助ける「メディア芸術クリエイター育成支援事業」による支援を受けて『ゲームキョウカイ』を制作、国内外で発表を重ねてきました。今回の「メディア芸術祭を語る」では、藤木さんと、第15〜17回文化庁メディア芸術祭審査委員であり、育成支援事業において同作品のアドバイザーを担当した岩谷徹さん(ゲームクリエイター/東京工芸大学教授)をお招きし、芸術祭と育成支援事業の意義について対談していただきました。
[メディア芸術クリエイター育成支援事業について]
文化庁メディア芸術祭の歴代受賞者(審査委員会推薦作品を含む)を対象に、創作活動を支援する事業。制作費の支援や、専門家からのアドバイス、成果発表の機会の提供などを通じて企画を具体化するための支援が行われています。
http://creatorikusei.jp/
[プロフィール]
岩谷 徹
1955年、東京都生まれ。77年に(株)ナムコ(現:(株)バンダイナムコゲームス)に入社。80年、ビデオゲーム『パックマン』を制作。『パックマン』は「食べる」をテーマに制作され、世界中で高い評価を受けた。2005年には世界で最も成功した業務用ビデオゲーム機としてギネスブックから認定された。『パックランド』『リッジレーサー』『アルペンレーサー』『タイムクライシス』など50タイトル以上をプロデュースする。07年より東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授。日本デジタルゲーム学会理事。(株)バンダイナムコゲームスフェロー。著書に『パックマンのゲーム学入門』(エンターブレイン、2005)がある。
藤木 淳
1978年生まれ。博士(芸術工学)
科学技術振興機構さきがけ研究員、東京藝術大学JST研究員、武蔵野美術大学非常勤講師。表現と原理の関係から、人間と物理の法則を探る、あるいは、それらの新たな関係性を築く研究をしている。現在は、単一素材から様々な素材感や現象を創出するマテリアライゼーションの研究を行っている。平成23年度メディア芸術クリエイター育成支援事業選考クリエイター
無限回廊からゲームキョウカイへ
藤木さんが「メディア芸術クリエイター育成支援事業(以下、育成支援事業)」に応募されたきっかけを教えていただけますか?
藤木
ソニー・コンピュータエンタテインメントから『無限回廊 光と影の箱』をリリースした後に、プロデューサーの方と話していたことがきっかけです。次のプロジェクトの相談をするなかで、デュアルスクリーンのように二つの画面を一つのPCで共有して、画面のあいだをマウスカーソルが行き来する境界的な表現って面白いよね、というアイデアをかたちにしたのが『ゲームキョウカイ』です。
『無限回廊』 (c) 2008 Sony Computer Entertainment Inc.
『無限回廊 光と影の箱』 (c) 2010 Sony Computer Entertainment Inc.
岩谷
育成支援事業には私のほかにもアドバイザーが何名かおりまして、さまざまなジャンルの審査を行います。そのなかに藤木さんたちの『ゲームキョウカイ』があって、最初は「ゲームギョウカイ? ゲーム業界ってなんだ?」と思いました(笑)。
藤木
ゲーム業界にもじつは引っ掛けていました(笑)。
岩谷
応募されたものを見ると、ちょうど私がゲーム作りをずっとやってきた歴史をなぞるような作品でした。奇抜な発想も面白いし、歴史的な価値もある。しかも、歴代ハードの実機を操作することで、ゲームの歴史を俯瞰して見ることができる。その全てが心に引っかかった。プロジェクトの採択も満場一致で決まり、実際に藤木さんとお会いした後は、いろいろと相談に乗るようなかたちで進めていきました。
藤木
プロジェクトを主導して、予算から組み立てていくのは、スタッフの1人としてゲームを制作するのとはまた違う苦労がありました。それも含めての育成だとは思うんですが、各メーカーさんとのやり取りなど大変でしたね。
岩谷
ゲーム機のハードウェアをそのまま作品に使うことが可能かとか、エミュレーター(PC上で、各ゲーム機の機能を再現する模倣ソフトウェア)がどこまで許されるかっていうね。
藤木
実機を改造するわけですからね。制作期間も2か月を切って、もうどうしようかって時にようやくスタートしました。今回はかなりの人数のスタッフが関わってくれて、分担して助けていただいてようやく出来上がったっていう感じです。
これまで藤木さんはプログラム主体の作品を手がけてらっしゃいましたが、『ゲームキョウカイ』では最初から展示形式のインスタレーション作品として考えられていたのですか?
藤木
そうですね。視覚だけじゃなく、コントローラーの手触りや、実際に当時使われていたテレビを使うなど、いろいろと気を配りました。
岩谷
たしかに、4:3のブラウン管のテレビとするところが大事でしたね。
藤木
インターネットを通じて購入したりしました。今はもう手に入らないものもありましたから。
岩谷さんが『ゲームキョウカイ』の企画を見たときに、心に引っかかったとおっしゃっていました。それはどのような?
岩谷
完成イメージがぱっと浮かぶんですよ。「文化庁メディア芸術祭」の開催期間中に、成果発表として作品を展示しても絵になるだろうと。展示を一目見ればコンセプトが伝わるし、小さい子どもたちが遊んでいる姿や、それぞれの時代のゲームを経験してきた色々な世代の人たちが昔を思い出している姿が思い浮かんだ。私はナムコでゲーム開発に携わっていましたが、現場を離れて随分経つので、あらためて昔のことを思い出しました。普段は大学で学生にゲーム制作を教えていますが、大人とのゲーム開発は久しぶりで面白かったですね。
藤木
僕自身、岩谷さんが開発されたゲームを遊んできたファミコン世代なので面白かったです。中学校の頃から自分でゲームのプログラミングをしてきましたから、僕らの世代にちょうどぴったり収まるのが『ゲームキョウカイ』の扱っている歴史なんです。
岩谷
でも、最初にある「ゲーム&ウォッチ」なんかは随分小さい頃じゃないですか?
藤木
親に買ってもらっていくつか持っていました。僕、『ウィザードリィ』がすごく好きなんですけど、「ゲーム&ウォッチ」でもその擬似迷路バージョンみたいなのがあって。あんまりよい出来とは言えないんですが、戦闘もちゃんとあってですね。液晶のシンプルな画面で、空間を表現しているのが、すごく面白いなって。
岩谷
その頃は、LCDや蛍光表示管の携帯ゲームでしたね。携帯ゲームと言っても、もちろんDS(ニンテンドーDS)やPSP(SONY プレイステーション・ポータブル)とは画質のクオリティがまったく違いますけど。
ゲームアーカイブの必要性
『ゲームキョウカイ』が育成支援事業に採択されてからは、どんなやりとりをされたのでしょうか?
岩谷
技術的に解決しなきゃいけないことと、予算関係ですね。予算内で実現可能な技術・人員を確保できているかなどをヒアリングしながら、約半年をかけて制作を進めました。
藤木
『無限回廊』のときは友だちとやり取りするような感じでした。今回の育成支援事業も縛りはほとんどなくて、すごくやりやすかったです。
岩谷
スーパーマリオ風、バイオハザード風と、こんなにバラエティ豊かに展開するなんて最初の頃は想像もしませんでした。
藤木
最初にお見せしたのはアイデアスケッチでしたからね。筐体があって、ゲーム同士がつながっていって。一つひとつがプラットホームをまたぎながらシームレスに進むという部分が核なので、そこは大事にしようっていうのは最初からありました。
岩谷
中身については藤木さんたちのチームがどんどん進めますから、我々は中間報告的に情報をいただいて「じゃあ、次のハードルはこれですね」と、口をはさみながら進めていきました。
『ゲームキョウカイ』の完成型はインスタレーション形式の実機展示です。岩谷さん、藤木さんの間でイメージを共有するのは大変ではありませんでしたか?
岩谷
だいたい想像はついてました。でも、実物はもっと素晴らしかった。
藤木
展示3日前くらいまでバラバラで制作現場に並べてましたね(笑)、それを展示会場ではじめて全部並べて確認して。展示の細かいところは岩谷さんからかなりアドバイスをいただきました。
岩谷
ゲームの中身は作者の範疇なので、我々が口を出すことではないなって思いますが、会場には子どもさんも大勢来てくれますから、背が低くてもプレイできる目線の高さに配置しようとか提案して。ゲーム業界にいた人間は現場主義なんです。
内容に介入しないんですね。
岩谷
ナムコ時代から若い人には「コンセプトを大事に」と言ってますからね。ナムコが上場する前に『ギャラガ』っていうゲームをつくったんですが、一年半の開発のうち、半年はゲームの難易度調整に使っていました。今だったら考えられないですけど、コストより面白さを優先するのがナムコの社風ですね。
藤木
半年も調整に使うなんてすごいですね。
岩谷
ゲームの中身を熟成させることができたんですよ。ナムコで学んだ一番大きなことは現場主義です。僕は『パックマン』のほかはガンガン動かして遊ぶような大型筐体ゲームを開発していましたから、ちゃんとお客様が楽しめる範囲か、大きく揺らしすぎて気持ち悪くならないかっていうのを、試験的にアミューズメント施設でテストするんです。70%くらいの完成度の段階でこっそりお店に置いて様子を見るんですけども、なかなか遊んでくれない。あるいは、興味は示すだけですっと通り過ぎてしまう。1回遊んだとしても、怪訝な顔をしていたりする。じゃあ、何がいけなかったのかを分析して修正をかけるんです。
岩谷さんは、主にアミューズメント施設で遊ぶことのできるアーケードゲームを開発されてきましたから、まさにスペシャリストですね。
岩谷
1977年に㈱ナムコ(現㈱バンダイナムコゲームス)に入った後は、ずっとアーケードゲーム一筋ですね。プロデューサーとしては、家庭用ゲームも見ていましたが。
逆に藤木さんはプログラミングをメインに研究されてきたわけで、展示に関しては岩谷さんから学ぶ部分も多かったですか?
藤木
そうですね。勉強になりました。
岩谷
「日本デジタルゲーム学会」の理事をやっているのですが、どうやって古いゲーム機をアーカイブしていくかというのが一つの課題なんですね。アーケードゲームの大型筐体はどうしてもスペースを取ってしまうので、どんどん捨てられてしまっているんです。企業ごとにエポックメイキングなゲームは保存しているんですが、それでは足りない。
藤木
最近、ニューヨーク近代美術館(MoMA)がゲームの収蔵を始めましたよね。
岩谷
スミソニアン博物館もやっています。その点、日本は予算もないですから大変です。
藤木
4:3のブラウン管自体もなくなってますし。
岩谷
そうですね。コンピュータボードのコンデンサーとか、部品がどんどん壊れていっちゃうんです。ゲーム機の保存に関しては、実際遊べるように保存するというルールがあるので、取り扱い説明書だとか、当時のパンフレットも全部セットで残します。時代背景を含めてアーカイブすることが必要。それから、実際に遊んでいる時の映像がとても大切です。例えば、剣を振り回して遊ぶゲームがあるとします。映像が残っていれば「ああ、こういう風に遊ぶんだ」と分かるけれど、ただ機械がぽつんとあるだけだと何がなんだか分からない。ゲームを保存するには、そこまで気をつかわないといけない。
藤木
どのバージョンを保存対象にするかというのもありますよね。マニアックな話ですけど、ゲームボーイで『魔界塔士サ・ガ』というRPGがあって、出荷時期でバージョンが異なるんですよ。チェーンソーっていう武器を使うと、最後のボスでも一撃で倒せちゃう仕様だったのが、後期の出荷では修正されている。それが面白かったんですが、どちらのバージョンをアーカイブするかという問題がありますよね。
岩谷
アーケードでも、バグを直すついでに仕様を変えちゃうっていうのはよくあります。かといって、全てのバージョンを保存するわけにもいかないですし。
藤木
今みたいにネットワークで修正パッチを配布するようになると、さらにバージョンが増えますしね。
岩谷
だから学会でルールを決めないといけないんです。アーケードゲームを収集しているのは、企業よりも個人のコレクターが圧倒的に多いので、そのあたりのルールをはっきりさせないと、みんなが困ってしまう。
ディスプレイから飛び出す3DCG
アーカイブのお話を伺っていると、各時代のゲーム機を遊ぶことのできる『ゲームキョウカイ』は示唆的だな、と思います。
藤木
ゲームの歴史に意識はありましたけど、アーカイブというところまではなかったですね。ただ、考えてみると制作レベルでは過去を再現するような試みはしていました。例えば、セガサターンの3D描画ってちょっと特殊なんですよ。普通だとピクセル範囲で3D空間の奥行きを判定しているんですけど、セガサターンってポリゴン単位で奥行き判定しているので、その誤差のせいで画面がちらちらするんですよね。そのちらつきをあえて再現したり。
岩谷
あ、それは気づかなかったです。
藤木
ゲームボーイもそうですね。液晶のブレをわざわざ再現したり。アーカイブというのとはちょっと違うかもしれませんが、今の技術で昔らしさを表現しています。
岩谷
ブラウン管ならではのにじみとか。
藤木
NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]で常設展示したときは、学芸員の畠中実さんに「ある意味リアル」と言われました(笑)。
タッチスクリーンなどを使う今のゲームに慣れていると、ちょっと昔のゲームって操作しづらいですよね。『ゲームキョウカイ』では、その難しさも再現されていて面白かったです。
藤木
『バイオハザード』もそうですよね。左右のキーでキャラクターを回転させて、上のキーを押したら前進するなんてすごくとっつきづらいけれど、そこがいい(笑)。
外見も懐かしいけれど、体感も懐かしい。
藤木
ゲームの本質的な楽しみを再現するというか。
岩谷
昔と今とでは、スピード感が違いますからね。『ギャラクシアン』なんて、今やると弾が遅くてイライラする(笑)。ロック音楽でも感じますが、時代の変化をいちばん感じるのがスピード感。
国立新美術館やICCでの展示だけでなく、『ゲームキョウカイ』は海外でも紹介されていますが、海外の人たちの反応はいかがですか?
藤木
みんな楽しんでくれています。やっぱり「ゲーム&ウォッチ」や『スーパーマリオブラザーズ』は、世界中で遊ばれていますから、懐かしいみたいです。今はアルス・エレクトロニカで展示されていて、その後はアイルランド。8月には台湾でも展示する予定です。これ以外にも、フランスやロシアでも紹介していただきました。
岩谷
ワールドツアーですね。
藤木
海外スタッフの皆さんもすごく楽しんでセットアップしてくださいます。嬉しいですね。
《ゲームキョウカイ》は現代美術やメディア・アートにおけるインスタレーション作品としても成立するような内容だと思うのですが、藤木さん自身は同作をアート作品とお考えでしょうか?
藤木
そういう気持ちはないですね。「アートか? エンターテインメントか?」っていう括りはほとんど意識していなくて、強いて言えば自分の研究をかたちにしたものです。
藤木さんの研究とは、どのようなものでしょうか?
藤木
今は「さきがけ - 科学技術新興」の研究員として、東京藝術大学で研究しています。研究内容を一言で言うのは難しいのですが、僕は「マテリアライゼーション」と呼んでいます。「ぼやけ」「反射」などの実体を持たない現象的なものを物質で表現する。彫刻に近いかもしれませんが、ある種のアルゴリズムでもって表現するわけです。この研究がなんの役に立つのかはまだ分からないですが、自分がどのように世界を捉えているかってことに興味があります。感覚と物質の境界に興味があるんです。
岩谷
哲学的ですね。
藤木
一時期、3DCGにすごく興味があって、ただのデータから、なんでこんなにリアルな映像ができるんだろうと思っていました。でも、既存のソフトウェアや特定のかたちに乗っかるよりも、そのルール、インターフェイス自体を開発したいと思うようになって、『Incompatible BLOCK』なんかをつくったんです。
『ゲームキョウカイ』では、そこから実際の空間に展開していったのが興味深いです。
藤木
そうですね。最近のプロジェクトも立体がテーマです。3Dプリンターを使ったプロジェクトなのですが、フォトショップで画像にぼかしフィルターをかけるように、3Dデータに独自の立体フィルターをかけるとどんな立体ができるだろう、とか実験しています。
岩谷
結局、3DCGでつくられた映像っていうのはデータに基づいた虚像なんですよね。存在しないものをかたちにするというのは面白いですね。
藤木
フサフサがついた立体とかできるんですよ。一つひとつは三角形でできているんですが、パッと見はすごく有機的に見える。
岩谷
おもしろいですね。一つつくるのに時間はどのくらいかかるんですか?
藤木
10センチ四方の立体で大体19時間ぐらいですね。もっと微細につくろうと思ったら、さらに4倍ぐらいかかります。
岩谷さんも藤木さんも、映像の世界から飛び出して立体のほうに興味を持ってらっしゃるんですね。
岩谷
3DCGを使えば、映像上ではなんでも表現できちゃいますからね。はっきり言うと、そこはもう飽きちゃってるんです(笑)。今のゲームっていうのはディスプレイ至上主義なんですよね。ディスプレイのなかにゲームが表現されていて、そのフレームありきで全てがつくられている。PCも家庭用テレビもスマホも携帯ゲームもみんなそうでしょう。
藤木
そうですね。
岩谷
だからモニターというものに対する意識も変わっていかないといけない。『ゲームキョウカイ』というのは、ある意味でディスプレイ時代のゲーム史を振り返る考古学のような作品なんですよね。そこに意味がある。
藤木
最終的にディスプレイの境界を超えていきますからね。最後はプロジェクターから壁に投影されたキャラクターを操作する。
岩谷
そうそう(笑)。
育成支援事業の意義とは?
「メディア芸術クリエイター育成支援事業」のメリットをお聞かせいただけますか?
藤木
やっぱり、一番大きいのは予算ですよね(笑)。お金がないから表現したくても表現できないっていうのはツラい。
岩谷
本当に、名の通り「育成支援事業」ですよね。若手クリエイターを支援して、将来的に世界に発信するクリエイターになってほしい。
ゲームや映像などの実益の見込めそうなジャンルであれば、企業から研究予算を提供してもらうこともできそうですが。
岩谷
ゲーム会社であれば、きちんと利益回収できるかシミュレーションしないと通らないので厳しいです。20年ぐらい前なら、実験・研究的なことも必要だという意識があったんですが、今は作品ではなく商品をつくれ、という流れです。
企業のほうが、技術的な蓄積や、高価な機材は持っていると思うのですが。
岩谷
今や、そういう余力を実験や遊びに回そうという余裕のある会社は少ないですね。余裕がないので、気持ちもお金も回らない。
藤木
僕も「さきがけ - 科学技術新興」から研究助成金を貰って、3Dプリンターを購入しているわけですから。
岩谷
ビジネスモデルにはすぐにはならなくても、やっぱり新しいものを提案していかないといけません。今はあらゆる表現に行き詰まり感があるので、そこを打破する必要があると思います。それがメディア芸術祭の役目でもあるしクリエイターを支援する意義でもある。
藤木
そうですね。
メディア芸術祭に応募しようと考えている人たちにメッセージをいただけますか?
藤木
僕の場合、メディア芸術祭がきっかけで『無限回廊』が商品化につながったわけで、一つの大きなチャンスの場だと思います。だから、ぜひ応募してほしいです。
岩谷
去年のメディア芸術祭は本当に面白かったですよ。アートもエンターテイメントも境目が曖昧になっていて、審査する側は大変ですが、徐々に時代が変わっているのが感じられる。作品一つひとつに個性を感じます。
そういう意味でも、まずは応募してみよう、と。
岩谷
海外から目を止めてもらうチャンスでもありますからね。知財財産立国としてこれからの日本を支えていくのは、コンテンツクリエイターです。その国内外のクリエイターたちが競い合う格好の舞台がメディア芸術祭だと思います。
17回目を数える本年度も世界中から広くプロ、アマチュア、自主制作、商業作品を問わず多彩な作品の応募を受け付けています。作品応募は9月12日(木)まで。詳しくは公式WEBサイトをご覧ください。
受賞作品の発表は12月上旬頃を予定。そして受賞作品が一堂に会する『文化庁メディア芸術祭受賞作品展』は2014年2月5日(水) 〜 2月16日(日)※の2週間に渡り、東京・六本木の国立新美術館 を中心に開催されます。
※ 2/12(水)休館
メディア芸術祭公式WEBサイト ⇒ http://j-mediaarts.jp/
※公式WEBサイトでは歴代の受賞・選出された受賞作品・受賞者情報を一覧で見ることが出来ます。
次回の『メディア芸術祭を語る』はマンガ分野の対談をお送りします。(12月上旬更新予定)
聞き手・文章:島貫泰介
撮影:御厨慎一郎