ウッディ・ヴァスルカ氏(1937年−、チェコスロバキア)とスタイナ・ヴァスルカ氏(1940年−、アイスランド)は1965年にニューヨークへ移住し、1970年初頭から電子メディアを使った実験的な表現を行ってきた著名なメディアアートのパイオニアである。1971年にはヴァスルカ夫妻とアンドレス・マニックと共同で実験的な映像作品やパフォーマンスを発表する場として「ザ・キッチン(The Kitchen)」をニューヨークに設立した。

ウェブページ「Vasulka.org」では、ヴァスルカ夫妻のアーカイブが公開されている。それぞれの作品に加えて、カタログ、ザ・キッチンの活動に関する図版/映像/テキストなどの資料を閲覧することができる。筆者が特に注目するのは、「ヴァスルカ・PDF・アーカイブ(Vasulka PDF Archive)」にあるPDF化された膨大な文書や文献資料である。

ウェブサイトによれば、現状は27,000ページ以上の資料から成り、レビュー、インタビュー、ポスターやチラシなど印刷物、図面、図版、書簡、定期刊行物の切り抜きなどが含まれる。その多くはメディアアートに関連するもので、自身の活動に関係するものと個人的に収集したものがある。また、PDF化された原本のほとんどはダニエル・ラングロア財団のコレクションで、現在はシネマテーク・ケベコワーズ(モントリオール、カナダ *2011年にダニエル・ラングロア財団より寄贈>)が保管する。

「ヴァスルカ・PDF・アーカイブ」に羅列されたPDF群は一応の分類は試みられているが、どちらかと言えば段ボール箱に入ったままの雑然さを想起させる状態だ。しかし、PDFとはいえ原資料に直接アクセスできる点では、間違った情報がまとめられているよりも有益なのではないかと思う。フォルダ名を頼りにして日本での活動に関する資料を試掘してみたところ、いくつか興味深い資料があったので簡単に紹介したい。まず、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で開催された「ウッディ・ヴァスルカ──ザ・ブラザーフッド」展(1998年)のプレスリリース展覧会ガイドなどがある。その他、彼らが出品したフェスティバル「ふくい国際ビデオ・ビエンナーレ」(1985年、1995年、1998年)、「第2回 名古屋国際ビエンナーレ・アーテック '91」(1991年)、「イメージフォーラム・フェスティバ」(1998年)などに関連する資料もある。また、東京アメリカン・センターで開催された「開かれた網膜・わしづかみの映像──ビデオ・ウィーク」(1972年)に招待されたアーサー・ギンズバーグ氏(1941年–、米国)宛に送られたと思われる書簡や、ソニービルで開催された「第1回 ビデオ・コミュニケーション──Do It Yourself Kit」展(1972年)を含む、日本のビデオ・アートを紹介するクリッピングなどがある。「国際ビデオ・アート展 Tokyo '78」のカタログに収録されていた略史や「ビデオひろば」に関するクリッピングがまとめられており、日本のビデオ・アートの動向へも関心を寄せていたことが窺える。

今後、「Vasulka.org」はさらに資料を拡張して研究など非営利目的に限り提供していくとともに、ヴァスルカ両氏の作品保存へ役立てていくようだ。

 

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ダニエル・ラングロワ財団がメディアアート関連資料を
含むアーカイブをシネマテーク・ケベコワーズへ寄贈
http://mediag.bunka.go.jp/news/cat3/post-9.html

ヴァスルカ・PDF・アーカイブ(Vasulka PDF Archive)
http://www.vasulka.org/archive/sitemap.html