森アーツセンターギャラリーで『THE ドラえもん展 TOKYO 2017』が2017年11月1日(水)より開催されている。『THE ドラえもん展』は2002年にはじめて開催された。2011年に「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」の開館、3DCG映画『STAND BY ME ドラえもん』公開(八木竜一・山崎貴の共同監督、2014年)を経て、リオ・オリンピック閉会式でのフラッグハンドオーバーセレモニーへの登場(2016年)やディズニーチャンネルでのアメリカ版にローカライズされたTVアニメ放送(2016年)など、「ドラえもん」が世代や国境を越えて幅広い層のファンを獲得しつつある中、今回の展覧会では何を見せてくれるのだろうか。

「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」会場入口

アーティストの目を介した『ドラえもん』

本展は監修に、縄文から現代美術まで日本美術史全般を研究し、雑誌『美術の窓』の連載「山下裕二の今月の隠し球」で若手の現代アート作家を紹介する美術史家・山下裕二を迎え、日本の現代アートを代表する20~60代のアーティスト28組30人の作品が一堂に会した。会場は二部構成で、前半は、日本を代表するアーティスト16組による「あなたのドラえもん」、後半は次世代を担うアーティスト12組が劇場版の中からひとつ選び、「映画ドラえもん」をテーマに作品を制作した。

前半に登場する作家たちには、2002年にも参加した会田誠、村上隆、蜷川美香、奈良美智、森村泰昌の5人も含まれる。アーティストにとって、『ドラえもん』はどのような存在なのだろうか。
「ドラえもんが理想の男の子」という蜷川実花は、前回と同じく、ドラえもんとのデートを写真に納めた。前回はアルバムに写真を張り付けデコレーションしていたが、今回は時代の変化に合わせ、Instagramにコメント付きで投稿されている。Instagramへの投稿は、会期中更新される。
https://www.instagram.com/my_dear_dorachan/
蜷川とは反対にドラえもんを「機械」という意識で見ていた(註1)という西尾康之は、1.8mものドラえもん像を「陰刻彫刻」で造形した。正面はお馴染みのドラえもん、背後は西尾が想像したドラえもんの内部構造をプロジェクションマッピングで投影しており、歯車と小人のようなものがうごめいてドラえもんを動かしている。
同じく参加作家の小谷元彦が「バイオテクノロジーで進化した猫と人間の融合のような感じ」(註2)と評しているように、ロボットでありながらも生き物らしさ、人間臭さを持ち合わせた存在として認識されているようだ。
また、アーティストの視点は藤子・F・不二雄の造形感覚にも注がれる。山口晃は『ドラえもん』について、「漫符と表情筋が一体化したような喜怒哀楽の表現」が素晴らしく、「藤子造形言語」と言ってもいいとインタビューで答えている(註3)。町田久美もデフォルメに注目し、「要素を最小限まではぶいているのに、その世界観の中で一番正確な形が描かれている」と述べた(註4)。手塚治虫にも認められ、発表媒体である「小学館の学習雑誌」シリーズ6誌に学年ごとに絵柄を変えて連載していた絵のうまさは、現代のアーティストたちをも唸らせたようだ。

『藤子・F・不二雄大全集 別巻 Fの森の歩き方藤子・F・不二雄まんがワールド探検 公式ガイド』(2010年、小学館)58〜59頁より
Ⓒ 藤子プロ
前回に続けて参加した作家の作品は新旧展示され、前回のものはパネルが青、新作は黄色になっている
蜷川実花《ドラちゃん1日デートの巻》2002年(前回出品作)

左)山口晃《ノー・アイテム・デー》(3連幅の一幅)2017年
右)村上隆《あんなこといいな 出来たらいいな》(部分)、2017年

気軽に入り込める壮大で深遠なストーリー

後半は30代の作家が中心で、黒板アート、3Dプリンター、ペーパークラフトなど、アートの領域に新しく加わった表現方法で作品世界が描かれていた。
れなれなは『映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険〜7人の魔法使い〜』(2007年)から、強大な敵に挑む前の力強い決意を黒板アートで表現した。後藤映則は『映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史』(1981年)でのび太の部屋とコーヤコーヤ星をつなぐ不安定な超空間を、3Dプリンター造形したモヤモヤとした形で表現した。
彼らがテーマとした「映画ドラえもん」は1980年からほぼ毎年放映され(註5)、「ギャグまんが」の枠を超えて、困難に立ち向かう勇気や友情、科学や歴史、政治、環境問題などを取り扱うなどメッセージ性が高く、藤子・F・不二雄のストーリーテラーとしての才能が遺憾なく発揮されている。そんな「映画ドラえもん」を幼い頃から観て刺激を受けてきた作家たちは、『ドラえもん』の作品世界と作家独自の表現方法とを効果的に結び付けていた。

今回の展覧会では、現代アートの作家たちを介して、『ドラえもん』が及ぼした影響や藤子・F・不二雄のクリエイターとしての側面について観ることができた。
本展は一部の作品を除き撮影可能で、公式ホームページにて、「#ドラえもん展」のハッシュタグをつけたInstagramやTwitterの投稿が共有されている。他の鑑賞者の感想を観ながら、ドラえもんについて思いを巡らせることができる。

れなれな《静かな決意》2017年

(脚注)
*1
『THE ドラえもん展 TOKYO 2017』図録、P.186。巻末特別鼎談にて、楳図かずお『漂流教室』や手塚治虫『鉄腕アトム』でロボットに恐怖心を持っていたという西尾は、ドラえもんに対しても警戒心を持っていたという。

*2
同上、P.119

*3
同上、P.151

*4
同上、P.139

*5
TVアニメ声優が交代した2005年は劇場版が公開されていない。


(information)
THE ドラえもん展 TOKYO 2017
会期:2017年11月1日(水)~2018年1月8日(月・祝)
会期中無休
入場料(当日):一般1,800円、中学生・高校生1,400円、4歳~小学生800円
会場:森アーツセンターギャラリー
参加作家: 会田誠、梅佳代、小谷元彦、クワクボリョウタ、鴻池朋子、後藤映則、近藤智美、坂本友由、佐藤雅晴、シシヤマザキ、篠原愛、しりあがり寿、中里勇太、中塚翠涛、奈良美智、西尾康之、蜷川実花、福田美蘭、増田セバスチャン、町田久美、Mr.、村上隆、森村泰昌+コイケジュンコ、山口晃、山口英紀+伊藤航、山本竜基、れなれな、渡邊希
http://thedoraemontentokyo2017.jp
※2018年3月16日〜5月6日に高岡市美術館、以降日本各地に巡回予定